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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第六章 怨嗟の煌めきは心すら溶かして
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遮り侵そうと芽吹く命 その四

「確証はあるんでしょうね?」


「あるわけねーだろ! ただ、この方法が一番成功する可能性が高いんじゃないかって思っただけだ」


「だったら却下。落ちるのが分かっている橋を渡らせるバカはいない」


 翔が自身の考えを仲間に伝えると、やはりマルティナの第一声が飛んできた。


 この場において、マルティナは悪魔殺し達の指揮を取る将の役割も果たしている。そんな彼女からしてみれば、一大戦力の喪失を天秤にかけた戦術は極力取りたくない選択肢だ。


 もちろん、時にはリスクを背負わなければ戦いに勝利出来ない事は分かっている。しかし、ぽっと出の戦術に、核となるのは弱体化が激しい悪魔。辿り着く成果も不明瞭となれば、将は作戦用紙を握り潰すしかない。甘い戦果に釣られて、部隊全員を危険にさらすわけにはいかないのだから。


「そんなこと言ったって! いつまでも防御してるだけじゃ_」


「まぁまぁ。ここで言い争いを始めたって、余計に士気が下がるだけだ。結局は出来るか出来ないかの問題なのだから、尋ねる相手は別にいるだろう?」


 出鼻を挫かれた翔がマルティナへ言い返そうとしたが、上手く砲撃を捌いて近付いてきたハプスベルタが仲裁を行う。


 ハプスベルタの視点で考えても、ベリトが長期間に渡って顕現するのは面白くない。そして、敗北の原因が言い争いに起因するなら、もっと面白くない。


 マルティナを将の卵と表現するなら、ハプスベルタは多くの戦場を渡り歩いた老将だ。その視線が捉えるのは、作戦成功のカギを握る人物。戦闘中に無理をして割って入る価値が、この瞬間にはあったのだ。


「その......普段の私なら造作もないかと。けれど、今の私は多くの制限が課されている身。綾取様と血族。二つの艱難辛苦から命を目覚めさせるのは、やってみなければ分かりません」


 ハプスベルタの言葉に答えたのは、凛花の肉体を望まぬまま操る事となった一介の悪魔。


 立場を考えれば、イエス以外の言葉など許される筈も無い。だが、いくら魔王の言葉とはいえ、この回答には自身の命が文字通りかかっている。一国の王として、それなりの歴史を刻んだ悪魔とは違う。いまだ有象無象の域を出ない、ともすれば名無しの魔獣と変わらない悪魔が答えているのだ。


 まだ死ねない。翻って、夢への第一歩で躓きたくなんて無い。


 だから凛花の内に潜む悪魔は否定する。雲上の存在からの言葉でも、分からないという曖昧な答えを叩きつける。無駄死にで存在を消滅させる結果で終わるなど、それこそ死んでも御免だったから。


「ほら、こいつも無理って言ってるじゃない!」


「そうかな? 私には、成功の目があると聞こえたのだが?」


 キッと睨みつけるマルティナと、そんな圧力を涼しい顔で受け流すハプスベルタ。


 こんな会話を続けながらも、砲撃への対処にはミスが無い。けれど、同時に有効打も無い。マルティナだって分かってはいるのだ。この場を勝利で終えるには、少ない可能性に賭けるしかないと。


「マルティナ! いいな!?」


「ちょっ!? 急発進と急停止はやめて! こちとら大地に根ざす生き物。空中で投げ出されたりしたら、地べたに叩きつけられるしか無くなるのよ!?」


 少々ノイズが走ってはいるが、急かすように翔が判断を求めてくる。


 凛花の中の悪魔。目上に腰が低く卑屈な印象を受けるが、魔法の発動は鮮やかであった。弱体化を伴っていながら、ベリトを欺いて一定の陣地を築き上げた手腕。いくら魔法が錆びつこうとも、戦いで磨き上げた技術と経験は失われていない。


「......好きにしなさい! ハプスベルタ! カンザキ! 大バカ二人の援護に入るわよ!」


「......」


 トントンと、了承したかのように肩が叩かれる。


「そうこなくっちゃ!」


 ハプスベルタが嬉しそうに歯を見せて笑う。


「なら、善は急げだ!」


「へっ、ちょ、まだ心の準備が_」


 悲鳴に似た非難を空中へバラ撒きながら、翔と凛花は砲口ひしめく大地へ向かって急加速する。目指す戦果を手に入れるのための、第一歩が動き出す。


________________


「何の動きだ?」


 ベリトが悪魔殺し側の動きを察するには、時間がかからなかった。


 砲口に備え付けられしは、自身と同一の存在である分け身達。そして感覚器としても機能する彼らは、現在地上を席巻するほど勢力を増している。


 この町においては神風渦巻く悪魔殺し達の周辺を除いて、ベリトが探知能力で上を行く。そんな彼であるからこそ、ある種の自滅染みた突撃の開始にはすぐさま反応した。


「......匂うな。これは破れかぶれではなく、勝利に至るための希望に満ちた進撃だ」


 弱者や耐性を持たない者にはめっぽう強いベリトだからこそ、終戦の香りには敏感だ。


 ベリトの大義が族滅にあるからこそ、対面する敵は常に悲観と殺意に満ちていた。けれども、感情だけで勝敗が傾くなら、現世はとっくの昔にスライムの楽園になっている。敗北を確信した敵達は、せめて一太刀と無謀な突撃を始めるものであったのだ。


 直面した突撃は、光景だけなら自爆紛いの一撃に見えなくない。だが、その突撃には迷いがない。いまだにベリトという魔王の核心に届かない状況でありながら、この進軍には一切の澱みが感じられない。


「狙いは......あの残骸か? 今さら砦としての機能を蘇らせた所で、守らねばならぬ拠点が増えるだけだろうに。いや、そんな事はどうでもいい。狙いが砦の復興であるにしろないにしろ、あの翼を手折ってしまえば片が付く」


 場当たり的に攻勢を躱すだけだった敵が、一切の迷いなく突撃を始める。その光景に危機感を覚えないのなら、魔王の椅子に座る資格はない。


 ベリトは突撃目標が崩壊寸前の植物群であると割り出すと、翔へ砲撃を集中させた。


 元々は千日手の消耗戦を望んで用意した攻撃手段。範囲こそ大きいものの、本気で突撃を開始した翔を撃ち落すには火力が足りていない。


「ならば」


 ベリトは砲撃に使用される土砂の中身を、分け身達や宝石人間などの侵食能力に優れたものへと変化させた。


 今までは神風のせいで無効化されていた菌糸の浸食だが、擬翼の悪魔殺しは乗り手を替えた。現在の彼には膨大な魔力による抵抗は出来ても、菌糸の侵食そのものを防ぐ手立てはない。


 見た目は同じでも違う中身。突撃を続ける翔へと、見えない刃が忍び寄っていた。

次回更新は10/20の予定です。

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