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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第六章 怨嗟の煌めきは心すら溶かして
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遮り侵そうと芽吹く命 その三

「今はお前を信じる。だから、出来る事を教えてくれ」


 砲口に狙いを定められぬよう不規則な飛行を行いながら、翔は凛花仮へと声をかける。


 衝撃の事実に予想外の契約。あまりのイレギュラー故、翔としても全面的な信用をしているかと言えば怪しかった。


 それでも翔が信じようと決めたのは、凛花の表情には常に必死さが浮かんでいたから。


 悪魔殺しの契約は、契約者の人間が死ねば悪魔側も運命を共にする。生と名誉を何よりも尊ぶ悪魔にとって、自身の命が他者に委ねられている状況は屈辱の限りである筈だ。


 それでも悪魔達が悪魔殺しの契約に臨むのは、勝者には決して届かない筈であった高みが与えられるから。ただ生き続けるだけでは千年経っても届かないほどの力が、報酬として分け与えられるから。


 だから悪魔達は、命と一時の恥辱を賭け金に乗せる。国家で燻っているか、外郭での生に不安を感じたか、己の才能に限界を覚えたか理由はそれぞれ。けれど、そこからの一発逆転を夢見て、人間に運命を委ねるのである。


 そんな知識を前提に凛花を見れば、彼女の瞳に映る必死さは向上心の表れとも言える。こんな所で死ぬわけにはいかない。世界に存在を刻まぬまま終われない。だからこそ時には人間へも頭を下げ、必死に勝ち残る方法を探す。そんな泥臭さは信用出来たのである。


「わ、分かったわ! その、一言で説明すると、()()()()()()()! 命を、才能を、努力や耐え抜いた環境にふさわしい能力を目覚めさせる力よ!」


 凛花が表情に負けぬ必死さで、自身の能力を語った。


 なるほど、その説明を鵜呑みにするのなら、さしずめ植物達は地面に埋まっていた種子を強制的に芽吹かせたのであろう。加えて砲口にも負けぬ堅牢さは、菌糸の海という逆境に耐え抜いた実績か。


 いずれにせよ、非常に幅広い場面で使用出来る魔法と言えるだろう。植物を媒介とする魔法かと思っていた翔にとって、これは嬉しい誤算と言えた。


「けど、あのバカのせいで出力と幅は大きく落ちてるわ。本来なら、お前やあっちの悪魔祓い(エクソシスト)も伸ばしがいがあるんだけど、今は無理。というか、雑草生やすので精いっぱい」


「お、おう。その、スマン」


「......いいわよ。こっちも打算ありありで契約したんだもの。この大戦を生き延びる事があれば、今度は才能だけじゃなくて在り方も気にしようと思うわ」


「それは、そうだな......」


 だが、翔の誤算は他ならぬ凛花によって、正解へ修正される事となった。


 身体の主導権を握る側の凛花からしてみれば、契約の遂行と予期せぬ弱体化の上での戦闘を両立させられているようなもの。本調子など程遠く、一部でも魔法を使いこなせているだけマシと言えるだろう。


 使えるのは植物を成長させる魔法だけ。その上で、自分達に対する解答を用意してきたベリトを討伐しなければいけない。間違っても、凛花をこのまま遊ばせておく余裕など無い。有効活用出来なければ、菌糸はさらなる浸食を始める事となるだろう。


「話し合いは済んだかい? だったら、こちらに顔を出してくれると嬉しいんだがね!」


「っ! 悪ぃ! 任せ切りにした!」


 翔が目を遣れば、そこには無数の砲撃を弾き返すマルティナとハプスベルタの姿があった。


 あらかじめ巨大な土砂をハプスベルタが切り裂き、残った土砂をマルティナが斬撃のカーテンで切り刻む。それでも通り抜けてきた土砂の欠片は、姫野の神風によって受け流す。この連携によって、翔と凛花は救出後の話し合いを行えていたのだ。


「構わないさ。君にとっても、この場の突破は最重要案件だろう?」


「ひゅ、ひゅい! もちろんでございます! 凡百様からいただいた時間、決して無駄使いするつもりはありませんとも!」


「あんたもよ、翔! 聞き出しが終わったんなら、さっさと伝達に移りなさい!」


「分かってる! 本来の魔法は才能や努力を目覚めさせる能力! けど、凛花がバカをやったせいで、魔法の範囲が植物限定まで狭まってるんだと!」


「チッ、そうなると活用が難しい! ちょっと! この距離から植物は操れないの!?」


「無理に決まってんじゃない! こっから地面まで、どんだけ距離があると思ってんのよ! 出来るとしたって、あっちの成長済みを伸ばすのが精々よ!」


「使えないわね!」


「このニンゲン......! ぶっ殺すわよ!」


「それは困るなぁ。ああ見えて教え子なんだ」


「は......? あ、あはは.......! ま、まっさか~! ぶっ殺すなんて冗談に決まってるじゃ無いですか~!」


 人数が増えた事もあるが、何よりも問題なのが凛花の活用法である。


 悪魔殺し達は大戦勝者(テレファスレイヤー)達との戦いを経て、短い期間ながらも連携を磨き続けてきた。おかげで予期せぬ戦いの連続でありながらも、彼らは良い手を打ち続ける事が出来た。互いへの理解がベリトへ抗う力となっていたのだ。


 けれども、凛花と契約した悪魔とは初の連携だ。出来る事は聞き出す必要があるし、それをどうやって活かすかは考える必要が出てくる。


 戦闘において、そのラグは致命的だ。拮抗している様に見える戦いも、良く見れば防御に成功しているだけ。この状況を覆すには、どうしても凛花の力が必要となってくる。


 翔は悪魔の性格を知らないし、悪魔はハプスベルタという圧倒的な上役のせいで、小物っぽさに磨きがかかっている。本音を言えば聞きたい内容だけを聞き出して、考える時間へ移りたい。


 されどそんな事をすれば、間違いなく流れは悪くなる。戦闘における雰囲気は、大規模戦闘となるほど重要になってくる。悪感情の一つで動きを間違えれば、この大規模戦闘は一気に崩壊へ進むだろう。


「あっちの植物群は、並行する砲撃でほぼ全滅。そもそも伸ばすだけなら今度はベリトも手を替えて、地面から大サソリに伐採を任せたりするでしょうね」


「俺が護衛を続けるから、地面で植物の成長を頼むのは?」


「バカ言ってんじゃないわよ! あいつは空にいる私達がじゃまだったから、砲口を所狭しと並べる手を打ったのよ! これで地面に下りてなんか見なさい! さらなる地盤沈下に地面の隆起。降り立った相手を潰す手段なんて、星の数ほど思いつくわよ!」


「そーよ、そーよ! そんな末路が御免だったから、お前に助けを求めたのよ! ここで状況を再現したりなんかしたら、綾取様は嬉々として私達を亡き者にしようとするに決まってる!」


 ベリトが凛花を再び地面に埋め戻さなかったのは、偏に彼の不意を突いたから。用意された攻撃手段による迎撃を選択してくれたからにすぎない。


 植物の成長と続く成長の停滞が起こった事で、ベリトもおおまかな能力を理解した事だろう。そうなればあちらは大地を支配した環境の覇者。砲口を一面に咲かせたように、最も有効な攻撃手段で凛花を仕留めにかかるだろう。


 ベリトにとって厄介なのは、翔達に有効な砲口を植物に潰される事。それを無効化してしまえば、後はお得意の消耗戦に走る事が出来るのだ。


「クッソ、なんか手はねぇのかよ......」


 このまま手をこまねいていれば、自分達は消耗を余儀なくされる。かといって、唯一の有効打は守り切るだけの術がない。翔はハプスベルタと並んで土砂の破壊を続ける傍ら、決定打を模索し続ける。


「手って言ったって、そもそも植物を伸ばす事だってギリギリだったのよ! 何事も開花には苦難が伴うの。ここの植物達は綾取様が広げた菌糸の負荷によって、開花するだけの苦難を手にするに至った。続く綾取様の魔法によって、一定の魔法防御能力を得たんだから」


 翔に他意は無かったものの、凛花は自身の働きが不足していると後ろ指を指された様に聞こえたのだろう。必死に言い訳を行い、どうにか自身には責任が無いと伝えようとする。


 だが、何度も言うように、翔に追い詰める意図はなかった。ただ、展開をひっくり返すだけのキッカケが欲しかった。


「環境......?」


「な、なに......? 菌糸の中で追い詰められ続けたから、菌糸の中でも芽を出せた。別におかしな事は言ってないわよ!?」


 なおも言い訳を続ける凛花を置き去りにし、翔の思考は加速する。


 思い起こされたのは、ここにはいないニナとの記憶。血脈のカバタと戦闘を行った結界内の環境について。


「なぁ、お前の魔法って、環境に負けないような能力を手にして目覚めさせるんだよな?」


「んえ......? そ、そうだけど?」


「伸ばす方向はある程度、制御が出来るんだよな?」


「え、えぇ」


「なら、摂取出来る栄養が猛毒に限られた環境なら、その植物はどんな成長を遂げるんだ?」


 それはとある景色を眺めたからこその発想。凛花の返答を耳にした翔は、そこから仲間達に考えを伝える。そこから翔が目指したのは、あれほど危険だと伝えられた地上であった。

次回更新は10/16の予定です。

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