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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第六章 怨嗟の煌めきは心すら溶かして
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深き菌糸の山より覗かせた希望

 鬱陶しい。


 戦闘を開始してからというもの、ベリトの思考を支配するのはわずらわしさ一辺倒であった。


 ベリトの所属する国家間同盟である教会は、とにかく人類から敵視されている同盟だ。無論、掲げる大義が人類の滅亡であるから当然の話。


 どんなに強大な魔王の影が迫っていようと、人類間で大きな争いが繰り広げられていようと、教会相手には人類は団結した。揃って準備の整わないベリト達に全力を差し向けてきたのだ。


 けれど、ベリトの種族が栄枯盛衰の果てに滅んだように、人類も時を経る毎に魔法技術を衰えさせてきた。望む答えを得られるかが曖昧な予知や未来視は、眉唾物の存在であるとレッテルを張られた。魔力を知らない者にとっては脅威でしかない魔法は、時の権力者から排除されるようになっていった。


 そして、前大戦の折に起こった人類による表の大戦。この出来事によって魔法の衰退は決定的なものとなり、悪魔や魔法の知識が戦果と共に焼失してしまった。


 もはや人類は教会の脅威を断片的にしか記憶していない。ベリトの侵食手腕を事が起こってからしか認識出来ない。二千年を超える雌伏の時間。ついに大義を成すため、またとない好機が訪れていたのだ。


「......だというのに。いつまでも抵抗を止めぬ鬱陶しいニンゲン共。お前達の時代は終わっている。いい加減、我らに現世の肥沃な土地を明け渡せ」


「私達が終わってる? だったらそっちは、とっくに終わった化石じゃない! しぶとさで生き永らえているように見せてるだけ。浸食によって偽りの繁栄を現世にぶちまけているだけ。根源の細部に至るまで、お前の魔法は過去を引きずっているだけの生きた死体よ!」


「そもそもキノコが現世で繁栄した所で、出来上がるのはB級ホラーか三文SFが限界だろうが! 人類の代表を語るつもりはねぇけど、繁栄を譲るにしたってそれに値する存在に明け渡してぇって思うもんだがな!」


「ハハハッ! だそうだよ、綾取? お前の生存意欲に特化した魔法では、悪魔殺し達を打ち崩すにも、心を砕くにも力不足なようだ。どうせ手数は余っているんだろう? 遠慮しないで大盤振る舞いするといい」


 鬱陶しい。


 まるで九位の国民を思わせるかのような翼を持つ悪魔殺しは、多量の魔力を湯水の様に消費して攻勢に抗ってくる。


 その背に腰を下ろす忌々しき神気の香りを纏った悪魔殺しは、少ない牽制で確実にこちらの行動を潰してくる。


 再度の合流を果たした神の走狗たる悪魔殺しは、数の概念と血族から借り受けてきた使い魔で大質量の分け身という選択を潰してきた。


 そうしてそれらに平気で尻尾を振る凡百は、悪魔殺し達と異なり綾取と幾多のぶつかり合いを果たしてきた相手。お互いに手の内は知り尽くしており、こちらの攻勢がこれ以上に苛烈なものとならないのを熟知している。


 大サソリによる物量攻撃は、血族の使い魔による関節部の結晶化で潰される。菌糸そのものによる侵食も、空の魔王を思わせる突風によって悪魔殺しまで届かない。


 そうなればここからベリトに出来るのは、手数を最大限に用いた総力戦か傷が浅い内の撤退だ。


 総力戦となればベリトは土地の力を最大限に消費する傍ら、外部に派遣した分け身達で浸食という名のリソース回復を行う事となる。


 しかし、外部から聞こえてくるのは侵食を上回るスピードの討伐報告。麗子や尻に火が点いた日魔連によって、分け身達は見つかった傍から討伐されていっているようだ。


 もちろん平時であれば、減らされた数を上回る分け身達を町から送り出せばいい。けれども、こちらはこちらで動きが芳しくはない。一人、決戦の場から身を引いた悪魔殺しが、血族たる力を最大限に活かして分け身達の派遣を阻害しているのだ。


 あちらが用いるのは使い魔で、こちらの主戦力は魔王の分け身。単純なぶつかり合いで言えば、勝るのは分け身であるベリト側だ。だが、こちらが菌糸の本質を活かした浸食で数を増やすのに対して、あちらの使い魔は血液を触媒としてこちらの存在を変質させてくる。


 いわば毒液のようなものなのだ。どれだけ菌糸が生物への浸食に長けていようとも、猛毒そのものが相手では分が悪い。浸食が可能となるように分け身の一部を特化させるか。それとも猛毒そのものを環境として適応するか。いずれにしても今のベリトでは時間が足りていない。


 どこかで備蓄が尽きる総力戦など、自爆紛いの嫌がらせにしかならない。ならば撤退が最善手となってはくるが、一つの戦果も無しに引いては国と同盟が侮られる事となる。


 特に目の敵としている凡百が相手なのだ。ここで逃げれば鬼の首を取ったかのように、あちら側は大いに同盟の弱体化を喧伝する事だろう。


(せめて悪魔殺しだけでも始末せねば)


 ベリトは珍しい事に、逃走に対しては肯定的な魔王である。だが、それを実行するにしても、同盟の名を汚さぬくらいの努力は必須。


 うぞうぞと地面が動き、新たな兵隊が錬成されようとしている。大型は分が悪い。侵食も届かないとなれば、残すは小型の機動力を生かすか発想の転換を行うかだけ。そして、この場においては発想の転換が採用された。


「なっ!?」


 悪魔殺しの一人が、驚いたように地面を見つめている。けれど、それも当然だ。なぜならベリトが用意したのは、地面一帯から飛び出した砲口だったのだから。


 大型の生物を模した兵隊では、血液の結晶化で動きが致命的に阻害されてしまう。尖塔のような急ごしらえの建造物では、あちらの魔法によって破壊されてしまう事が多々あった。


 故にベリトは手を替えた。下手に高機能な兵隊を用意するくらいなら、相手への攻撃手段さえ賄えてれば良いのだと。


 見渡す大地全てから顔を出した砲口の数は、少なく見積もっても千を越える。地面から砲口部分のみが顔を出している単純な造りのせいで、恐らく再生は容易い。翔が地面を抉る一撃を放とうと一瞬で再生し、ニナから借り受けた使い魔では大地全ては賄いきれないだろう。


「さぁ、これで鬱陶しい羽虫の掃討が完了だ」


 砲口に装填されるのは、土と瓦礫、そして分け身達をブレンドさせたもの。いずれも一発では上空を飛ぶ者達の命には届かないであろうが、こちらには命に届かせるに足る弾数がある。


 ベリトの新たなる攻勢は、悪魔殺し達に難しい対応を迫らせる筈であった。


「むっ......?」


 ベリトと砲口は菌糸によって繋がっており、砲口が生まれた土地もまた、彼の一部と呼ぶにふさわしい。そんな自身の肉体とでも呼ぶべき一部に違和感が生まれた。加えてその違和感は、この間もさらに大きなものへと成長している。


「なんだ......これは......?」


 違和感の先に目を遣る。するとそこには、砲口に巻き付く()()()の姿。


 あり得なかった。この土地はすでに菌糸の底へ沈んでいるのだ。大地に根ざした大木も浸食はすでに進んでおり、新芽などベリトの認識すら必要なく糧となる筈なのだ。


 だが、蔓植物は成長を止めない。それどころか近くの地面から若木が顔を出し、砲口から花が顔を覗かせ、瑞々しい葉脈を持った植物群が砲口を飲み込んでしまっていた。


 こんな魔法があるのなら、悪魔殺し達も最初から使用していた筈だ。何よりも植物から感じる魔力が、戦ったいずれかの魔力と一致する筈だ。


「そうか......そういうことか......継承......!」


 顔を出した魔力は、覚えのない新たな魔力。そしてその発生源は、深き地面の底から感じられる。


 やはり自分は間違っていなかった。あのニンゲンは継承が用意したカードの一つだった。ベリトの感情に憤怒と憎悪が乗る。その魔力反応は新たな悪魔殺し誕生の産声であった。

次回更新は10/4の予定です。

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