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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第六章 怨嗟の煌めきは心すら溶かして
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敗北の足取りはいつだって重く

「探そうと思って探してみると、案外見つからないんもんなんだな。こんな形で、あいつが図書館に引きこもってくれるありがたみを実感するとは......」


 とにもかくにもダンタリアに現状を伝えなければ始まらない。そう考えた悪魔殺しは一番友好関係を築けている翔をメッセンジャーに、彼女へ協力の要請をしようとしていた。


 しかし、いざダンタリアを探してみると、これが案外見つからない。第一声を翔に頼もうとしている手前、下手に他の悪魔殺しが探し回る訳にもいかず。そもそも彼女達は、関係の改善を願って凛花と裸の付き合いの真っ最中。


 さらに大熊と麗子は悪魔被害拡大を防ぐため、日魔連との情報共有に忙しい。そのため頼れるのは自身の足だけとなり、翔は娯楽エリアを中心にダンタリアを探し回っていたのだ。


「部屋にも戻ってねぇし、娯楽施設にも姿はねえ。女風呂の中は誰かが連絡を送ってくれる筈だから......そうなりゃ外しか考えられねぇんだよなぁ......」


 旅館内を粗方探し回ってみるも、ダンタリアは見つからなかった。ならば必然的に、彼女は旅館の中ではなく外にいる可能性が高くなる。


 けれども、日が暮れたとはいえ、ここは温泉街。道行く人の数は地元とは比べ物にならず、おまけに土地勘なんてものは午前中の観光で培った部分だけ。闇雲に探し回った所で、行き違いになる可能性の方が高そうだった。


「待ちが一番か? けど、悪魔に時間を与えて、良かったためしは一度も無かった。自分の身体を千切(ちぎ)り捨てて、宝石なんかに擬態させてやがるんだ。対処が遅れれば、碌でもない事態になるのは目に見えてる」


 マルティナとニナによる強行調査のおかげで、名誉の悪魔が分裂能力と宝石に擬態する能力を有する事が分かったのだ。人間側が宝石の拡散に気付くまでの時間、そこから悪魔殺しを派遣するまでにかかった時間。両者を総合してみれば、仕掛けが成就するまでの時間はそれほど長くかからないだろうと思える。


「旅館で見つかったんなら、全速力で戻りゃいい。外で見つけられれば、それだけ早い対応が出来る。よし!」


 ゆえに翔は、温泉街を探し回る事に決めた。少々の息切れ程度でダンタリアが見つかるのなら、彼の消耗なんてお釣りが返ってくる。少しでも早い事態の収束を目指し、翔が温泉街へ走り出そうとした時だった。


「ふふっ、夜遊びかい? いけない子だ」


「誰だ! ......って! ハプスベルタ!? おまっ、どうしたんだよ!?」


 声がする暗がりへ振り返ってみれば、そこから歩み寄ってきたのはハプスベルタであった。普段の彼女が水を差してきたのであれば、翔も相応の皮肉や悪態で応じる余裕があっただろう。


 だが、視界に入ったハプスベルタは明らかに消耗していた。一般人への擬態で纏っていた洋服はボロボロとなって小脇に抱えられ、見慣れた軽装騎士鎧にも少なくない汚れが目立っている。


 そして聞き慣れた尊大な口調と湧き上がる覇気が、今のハプスベルタからは失われていた。翔はどうしたと質問こそしてみたが、何が起こったのかは薄々感じ取っていた。


「力量を見定めようと町へ探りに出かけたまでは良かったんだが、いかんせん相手のやる気を見誤ってしまってね。ははっ、ちょっとだけ()()()()()()()()()()()


 カラカラと笑うハプスベルタの言葉には、消耗しつつも失われていない充足が感じられた。バトルジャンキーな彼女の事だ。言葉通りそっくりそのまま、短時間とはいえ互いの存在をかけた決闘に興じていたのだろう。


「本気って......! 大丈夫だったのかよ?」


 あえて勝敗は問わなかった。ハプスベルタの性格を考えれば、勝利はそのまま凱旋へと変化していただろうから。間違っても薄暗闇の中、ひっそりと帰還を果たす訳が無い。


「負けはしていないよ。けど、押し切るには拠点の規模が大きすぎた。こちらは防衛兵力を削り、あちらは脅威の撃退に成功した。痛み分けって所だね」


「そうか......無事なら良かった」


「無事で良かったのかい? 今は共闘しているとはいえ、私だって魔王の一体。ニンゲンからすれば、いつかは討伐しなければいけない脅威の一つだってのに」


「......うっせ。昨日の敵は今日の友って奴だよ」


「ハハッ、翔らしい! それにしたって、今回ばかりは私の勝手に怒鳴り散らすべきだと思うけどね」


「何でだよ」


「他の少女達が調査に入ったのは私も見ている。そして、調査を終えたって事は、名誉の魔王についての情報を手に入れたって事だろう?」


「ちょ、ちょっと待て! 名誉の魔王!?」


「そうだよ? あぁ、流石に分け身の魔力量だけで、存在を推し量るのは荷が重いか。まぁ、それはそれだ」


「それはそれって_」


「私の軽慮で名誉を痛めつけ過ぎれば、奴は拠点を捨てていた可能性があった。そうなれば君達は名誉を取り逃がし、私は無能な働き者の烙印と共に同盟へと帰還するオチだってあった」


「それは......!」


 悪魔殺し達の話し合いでも、対策を迫られた特性であった。


 一般的な召喚魔法使いと異なり、名誉の魔王は己の純粋な分け身を戦力に数える事が出来る。町に存在する宝石群はその全てが本体であり、名誉の魔王を名乗れるのだ。


 そうなれば、考えられるのは逃亡の可能性。全てが本体であるのなら、たった一体でも取り逃がせば、その宝石が新たな司令塔となるのは想像に難くない。そして回復のための潜伏期間を終えれば、違う町で全く同じ侵略を始めるのは間違い無かった。


 ハプスベルタの行動は、名誉の魔王を取り逃がすかもしれない最大級の悪手であったのだ。確かに兵力を削ったという喜ばしい結果もある。けれども、それで名誉の魔王に逃亡を選ばれてしまえば、全てが台無しになる可能性があったのだ。


 自分の無事を喜ぶよりも、自分の勝手にまずは怒れ。翔にミスを自覚させるため、ハプスベルタはあえて自分を下げてみせたのだ。


「......それでもだ。お前は名誉の魔王に一発かまして、無事に帰還したんだろ。相手も逃亡を選ばなかったんなら、作戦は大成功と言えるじゃねぇか」


 だが、そんなハプスベルタの言葉でも、翔は意思を曲げなかった。彼にとっては喜ばしい結果が全てであり、それを差し置いてハプスベルタを罵倒なんて出来る筈が無かったから。


「終わり良ければって事かい?」


 ため息交じりに、ハプスベルタが苦笑を見せる。


「あぁ。それに、終わっては無いだろ? むしろ、始まったばかりだ」


「......分かったよ。今回の遭遇戦は、こちらの戦術的勝利としておこう。新たに()()()情報もある。聞いていくかい?」


 ()()()()()()()()()()()、僅かに尊大さを取り戻したハプスベルタが問いかける。


「本当か!? 頼む! 今は少しでも情報が必要なんだ!」


「いいともさ。私の尊厳を守ってくれたお礼だよ」


 そう言うと、ハプスベルタは一つの情報を悪魔殺し側へと落とすのだった。

次回更新は5/9の予定です

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