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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第六章 怨嗟の煌めきは心すら溶かして
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甘く計算高き友情

「でさ! デュモンさんはともかく、ラッツォーニさんとは、ほんっとうに! 相性の悪さを感じてて! せっかく翔と姫野ちゃん仲が進展する機会だってのに、もぉー! むしゃくしゃするぅー!」


「うんうん。凛花お姉ちゃんは、翔お兄ちゃんと姫野お姉ちゃんの幸せを願ってるのにね」


「そう! なのにお邪魔虫......は言い過ぎかもだけど、恋敵はやってくる。そんな中でも、肝心の翔や姫野ちゃんは及び腰。凛花さんの老婆心は燃え盛らんばかりって奴なんです!」


 ジャラジャラと大量のコインを手元で弄びながら、凛花は隣に座るダンタリアへと愚痴を零す。


 凛花が誘う形で、一人と一体は旅館にあるゲームコーナーで遊びに興じていた。設置されているゲームはどれも一世代は昔の古臭いものばかりだが、旅行という特別な機会が体験を鮮烈に塗り替える。


 そのおかげで普段なら敬遠しがちな旧式のゲームでありながら、凛花は概ね楽しめていた。いや、あくまでもゲームはおまけだ。凛花の愚痴に付き合ってくれるダンタリア。彼女がいたおかげで、凛花はこの旅行で初めて気を抜く事が出来ていた。


「でも、翔お兄ちゃんはどうして姫野お姉ちゃんに告白しないんだろ?」


「分かったら苦労せーん! 外国人のダンタリアちゃんには分かり辛いかもだけど、ちょっぴり不思議ちゃんである事を除けば、姫野ちゃんなんて上玉も上玉やぞ!」


「美人さんって事?」


「ザッツライト! 女の私ですらうらやむようなスタイル、生まれてからずっと洞窟で生活してたかのような真っ白な肌。あんな子に話しかけられたら、それだけで世の男児なんてイチコロの筈なのに!」


「翔お兄ちゃんは転ばない?」


「そーなの! ワァッツ!? だよ! ノーウェイ!? だよ! マジに翔の頭がどうなってんのか分かんない。あんまりにも信じられなかったから、怒られるの承知で大悟に性別を越えた付き合いがありますかって聞いたくらい」


「どうなったの?」


「ひっぱたかれた」


「ひっぱたかれた......」


「しかもグーで」


「グーで......」


「そんなんだからさぁ。ハッキリ言って手詰まりなの。このまま放っておいたら、修羅場が完成するって女の勘が告げてるのに」


「そうなんだ。凛花おねえちゃんは頑張ってるのにね」


「そう言ってくれるのはダンタリアちゃんだけだよ~!」


 およよと本心半分嘘泣き半分で、ダンタリアへと泣きつく凛花。今日が初対面でありながらも、一人と一体は妙な意気投合で急速に距離を縮めつつあった。


 いや、この場合は、凛花の心の隙間に入り込んでいると言った方が正しいか。


 凛花は幼馴染と親友が結ばれる事を本気で願っていた。家庭環境に歪さを抱える彼女にとって、親密さとは外で新たに作り出される関係を意味していたから。


 そんな凛花にとって、恋仲の形勢はある種のゴールとも言えた。橋渡し役となる事を、義務とさえ思っていたのだ。なのに肝心の二人は関係を進展させる様子を見せず、いつの間にか泥棒猫まで出てくる始末。


 恋仲の形勢がゴールであるなら、破綻は関係の終了と変わらない。例え二人の関係が良好のままでいても、凛花には見ていられなかった。お互いが見下し合う、自分達親子を見ているようで。


「大丈夫だよ、凛花おねえちゃん! お姉ちゃんは頑張ってるんだもの。二人もいつかは気付いてくれるって!」


 焦燥と空虚。それらの感情は、ダンタリアという存在を滑り込ませる隙となってしまった。彼女は凛花の話を真摯に聞いてくれる。彼女は凛花を全肯定してくれる。彼女は凛花の遊びに誰よりも付き合ってくれる。


 仲良くなるために当たり前の事をしているだけだというのに、ダンタリアはいつの間にか凛花にとって必要不可欠な存在となっていた。耳心地の良い言葉のみを話すダンタリアを、凛花は誰よりも欲していたのだ。


「旅行に行く前は大悟も乗り気だったのにさ! 思ってた旅行と違ってたのか、何でかテンションが激落ちしてたし。知らんわい! お前の期待なんて知らんわい! まずは第一に翔と姫野ちゃんだって、約束したじゃんか!」


「......そっかぁ。大悟お兄ちゃんも、凛花お姉ちゃんを手伝ってくれないんだ」


「そうなんです! せっかく旅行の裏で、二人っきりの宝石散策ツアーを計画してたってのにさ! 翔には何でか敬遠されるし、こっちはお邪魔虫がお利口さんな正論で握りつぶしてくるし! あー! 思い出してもイライラするー!」


 ここまでダンタリアの接近を許したのであれば、本来なら悪魔殺し達か大熊が何かしらの待ったをかけた筈であった。


 しかし、彼ら彼女らは名誉の魔王への対策に手一杯。いつもの()()()が出し渋ったせいで、手探りで魔王の調査に乗り出さなくてはいけなくなっていたのだ。


 今の時間なら悪魔殺し達の誰かが見ている筈。自分達がいなくなる事を察して、大熊か麗子が目を光らせてくれている筈。そういった油断が、ダンタリアに付け込ませる隙を作り出してしまったのだ。


 そして、話す機会さえ得てしまえばこっちのもの。


 悪魔は言葉の扱いに長けている。始まりの悪魔たるダンタリアともなれば、その話術は同じ魔王級すら術中に落とし込む程だ。世界も悪意も知らぬ無知な小娘如きで、抗えよう筈が無い。


「......ならさ、お邪魔虫でも邪魔出来ない状況を作っちゃえばいいんだよ」


 あまりにも自然に、その提案は生まれた。


「え?」


「凛花おねえちゃんが、書置きを残して町に向かう。そうすれば、心配した皆はお姉ちゃんを探しに町へやってくる。後はお姉ちゃんが素直にお願いすれば、宝石探しくらいには付き合ってくれるって!」


 甘い甘い、全ての事象をこれでもかと甘く煮詰めたようなふざけた提案。普段の凛花であれば、熟考すれど否を突きつけていただろう。そんな勝手を実行すれば、旅行の中止は元より一応の家族から絶縁を突きつけられるリスクがあったのだから。


 だが、今の凛花は普通では無かった。視野をこれでもかと狭められ、自分の提案が全て受け入れられる成功体験にどっぷりと浸かっていたのだから。


「......そっか。ラッツォーニさんには止められたけど、私が言葉通りに止まる必要は無い」


「うんうん。凛花おねえちゃんは、自分の思うままに動いていいんだよ。ニンゲンには自由がある。禁じるだけでは止められない強い意志がある」


「強い......意思......」


 ダンタリアは一般人へ危害を加えない事を契約していた。だが、危険に誘う提案を禁止された訳ではない。提案を受け入れて、危険に飛び込むのは凛花の意思だ。たった一人でも凛花に付いていれば、止められていた提案であった筈なのだ。


「私が理由を付けてお姉ちゃんたちを呼び出すよ。だから凛花おねえちゃんは、いつでも飛び出せる準備をしておいてね?」


 地獄へ落ちる者達は、落下する最後の瞬間まで気付かぬ事が多い。なぜなら、地獄まで向かう道は綺麗に舗装されているのだから。悪意ある第三者によって、欺瞞(ぎまん)で塗り固められているのだから。

次回更新は5/5の予定です。

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