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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第六章 怨嗟の煌めきは心すら溶かして

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輝きに隠された有機的本性

「ニナ!」


「うん!」


 掛け声と共に、両者は寸分の迷いなく戦闘態勢へと移る。マルティナを前面へと立たせ、ニナはその後ろへ。銃器を扱う普段のニナであれば、何の問題も無いようなフォーメーションである。


 しかし、現在の彼女が握っているのは銀色の輝きを放つ長剣だ。その切っ先は槍よりも短く、むしろ立ち位置は逆の方が正しいのではと思わずにはいられない。最低でも並び立つのが正解に見える場面。けれども、二人の立ち位置は間違っていなかった。


「ハァッ!」


 真っ先に飛び出したティアラへ向かって、マルティナが研ぎ澄まされた一突きを見舞う。中央に飾られた大粒の宝石が貫かれたティアラは、そのまま生物染みた足掻きを続けて穂先から逃げ出そうとする。


「チッ、確かにしぶとい」


 大抵の使い魔であれば、討伐を確信した一撃。けれども、目の前の存在は使い魔にあらず。どれだけ矮小な体躯と少なき魔力量であろうとも、その正体は悪魔。それも永きを生きる()()()から、真っ先にしぶとさを上げられる名誉の悪魔なのだ。


 大抵の使い魔を討伐できる一撃も、対象が悪魔であれば痛痒を与えたかも怪しい。それほどまでに悪魔の肉体と身に秘める魔法には、現世の定理を覆すだけの力があるのだ。


「マルティナ! そのまま止まって!」


 マルティナの苦戦を予期したのだろう。後方に待機していたニナが、二の矢として剣を振るう。その剣閃の先にいるのはマルティナ。一見すると血迷ったのかと思うような行動である。


 だが、振るわれた勢いに比例するが如く、ニナの握った剣は鞭のようにしなり伸びていく。その姿はまるで、樹上から空飛ぶ鳥を喰らう蛇の様。


 水銀を刃に見立てる事で、刃の鋭さと鞭のリーチを両立させる。これこそニナが家族達によって準備してもらった魔道具の一つ。銀剣、鳥喰銀蛇(バンクボア)である。


 マルティナを飛び越す形で伸びた刃は、そのままティアラを真っ二つに切り裂いた。それでも切り裂かれたティアラは、元へ戻ろうとうぞうぞと身体を蠢かせる。


「本当にしぶといわね。けど、アレに切られた時点で終わりよ」


 諦めずにおそらく再生を図ろうとしていたティアラだったが、いつの間にかその断面は赤い結晶体に置き換わっていく。さらに断面へ続く宝石が、続く留め金部分までもが連鎖的に結晶化していく。


 これこそニナが鳥喰銀蛇を愛用する理由。刃に仕込んだ血液による浸食だ。


 どれだけ強力な再生能力を有していようと、ニナの血液は自身以外の魔力に反応して結晶化反応を起こす。おまけにこの結晶化は契約魔法に近く、血液が残る限りどこまでも浸食は進んでいくのだ。


 肉を切らせる覚悟で侵食部分を切断すれば逃れる事は可能だが、あいにくティアラには身を切る刃など存在しない。どうにか浸食に抗おうと足掻きながら、無様にのたうち回って結晶化を進行させていく。


 そしてマルティナとニナがすでに目を離した先で、ティアラは身じろぎ一つしない真紅のオブジェへと変貌を遂げる事となった。


 しかし、何度も言う様にティアラの正体は悪魔本体。下手に目を離して魔法でも使われてしまえば、形勢は一瞬で逆転していた可能性が高い。そして戦闘経験豊富な二人は、そんな事は百も承知であった筈。


 では、どうして二人は討伐確認もしないでティアラから目を離したのか。それは致命打を与えた相手を悠長に見ていられるほどの余裕が、二人には無かったせいである。


「ほんっと! 数は多いし、しぶとさは折り紙付き! おまけに次から次へと増えてくるなんて、いったいどんな魔法を使っているのよ!」


 ノミのような跳躍で迫るイヤリングを、模倣の始祖魔法で増やした刺突の槍衾で迎撃する。地面から蛇行して這い寄るネックレスを、斬撃の模倣で何十分割とする。そしてそれらの迎撃によって機動力を失った個体へと、ニナが銀閃によってトドメを刺す。


 二人の連携に穴は無く、迫りくる悪魔をデッドライン以上に近付けない戦いが出来ていた。けれど、あくまで出来ていたのは戦線の維持だけ。二人の眼前には指輪、ロケット、王冠、ペンダント。多種多様な宝石群が、イナゴの群れのように地面を覆いつくしながら迫ってきていたのだ。


「マルティナ! このままだと物量で押し切られるよ!」


 宝石群の討伐によって、二人が名誉の悪魔のリソースを削っているのは事実だろう。しかし、二人には肝心の全容が分からない。どれほどの戦力を消耗させ、どれほどの妨害になっているのかが分からないのだ。


 もしかすれば宝石群が補充され続ける理由は、名誉の悪魔の本体が近いからかもしれない。突然の悪魔殺しによる襲撃のせいで、泡を食っているのかもしれない。


 だが、それが分かるほどの情報を掴めていない。悪く考えれば、宝石群の補充は使い魔の生成レベルで容易なのかもしれない。悪魔殺しの襲撃は織り込み済みで、着々と迎撃準備を整えていたのかもしれないのだ。


 宝石が悪魔本体と知れただけでも、大きな収穫だ。ここで欲を出してさらなる情報を求めても、宝石群とのじゃれ合いだけで終わる可能性が高い。


 そしてなによりも、この地にはまだ、何も知らずに生活を続ける多くの人間達が存在しているのだ。悪魔が人間を野放しにしている理由は分からないが、見捨てるにしても情報は足りていない。


「潮時ね。撤退するわ」


「うん。このまま翼で?」


 マルティナには翼による移動手段の他に、再奮起(リトライ)という魔法を用いた退避手段も残されている。このままジリジリと退却しても、間違いなく追撃は差し向けられるからだ。


「えぇ。目の前のこいつらは悪魔。情報を理解する頭も、本体へ届ける力も持っている可能性が高い。こっちも移動手段と戦闘技能を知られてしまったけれど、相手の手札を一枚覗けた。このまま痛み分けで終わるためには、余計な情報を残さないのが賢明よ」


「分かった」


 本当のところは再奮起を使用するのが安全だ。けれどもマルティナは情報の流出を嫌い、翼による撤退を選択した。


「ニナ、煙幕を」


「うん」


 ニナが一つの手投げ弾を取り出し、宝石群へと向けて投げ入れる。


 一拍置いて噴出したのは、濃縮された粉末状の血液。粉末は宝石群へと触れると、瞬く間に結晶化を引き起こしていく。その混乱に乗じて、光の翼が空へと昇っていく。


 一部の飛翔能力を有する宝石群が追撃を開始したが、それらはほんの一握り。投擲の模倣に貫かれ、銀閃に迎撃される事で瞬く間に半壊する事となった。


 町の境界を飛び越える頃には、背後の魔力反応は消滅。二人は逃げ切る事に成功する。


 調査を前提とした、突発的な戦闘だった。二人は終始悪魔を圧倒し、傷の一つすら負う事は無かった。けれどマルティナの言う通り、痛み分けと呼ぶのが精々だろう。


 それほどまでに得る物が少ない戦いであり、苦戦を予感させる緒戦であったのだから。

次回更新は4/19の予定です。

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