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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第六章 怨嗟の煌めきは心すら溶かして
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別つ魔力の一片すらも

「空を使えるのはここまでかしら」


「うん。少なくともここまでは何事も無く進められたから。ありがとう、マルティナ」


 マルティナの背中に乗せられる事で、空を移動してきたニナ。二人は翔に話した作戦通りに、午後一番で町の調査に向かっていたのだ。


「何事も無かったのは事実でしょうけど、ここらも魔力感知の範囲内よ。悪魔殺しの私でさえ町の様子が一望出来るんだから、よっぽどの間抜けじゃなければ私達の動きも筒抜けの筈」


「そうだね。ちなみに、見える範囲で魔力の動きは?」


「日魔連の調査にあった通りよ。全体的に魔力量が多く感じる。だけど、これといった特徴が無い。事前に曰く付きの土地だって説明されたら、すんなり信じてしまえるくらい」


 きびきびと自身の魔力感知を用いて調査を開始したマルティナだったが、その目から伝達された結果は芳しくなかった。


 普通の土地とは断じて言えない。しかし、奇跡の伝説が残る聖なる土地。あるいは悲劇が引き起こされた不幸な土地と説明されれば、素直に信用してしまいそうなほどに魔力の個性が無いのだ。


 魔界の住人というのは、個性にこだわりを持っている。魔法を有しない存在を蔑みを込めて魔獣と、魔法が使えても自らの根源を形作れない者を魔人と。アイデンティティを手に入れているかどうかが、とにかく評価されるのだ。


 それを前提に魔力を眺めてみてどうか。町一帯に広がる魔力は、悪魔殺しであるマルティナだからこそ一個体の放出する魔力である事が理解出来た。けれども、その魔力がプラスなのかマイナスなのかが分からない。通常なら魔力に乗る筈のアイデンティティが、微塵も感じられないのだ。


「厄介だね。そこまで自身の存在を隠蔽出来るなら、大義や目的のためにいくらでも自分を殺す事が出来る」


「えぇ。()()()()()()を全面的に信用するのなら、平気で逃げの一手を打てる相手なのでしょうね」


 この地に潜伏する名誉の悪魔。彼女ら曰く、その強さは生存能力の高さにあるらしい。


 そもそも悪魔とは、魂に多くを依存する存在。言い換えれば、魂さえ無事であれば何度でも立ち上がれる生存能力を身に付けている存在だ。そんな彼女らが生存能力を特徴に上げる。ならばその生存性は、人間如きの発想力では推し量れないレベルである可能性が高い。


 手足が千切れ飛んでも無事なんて序の口。もっと悪く考えれば頭が吹き飛ぼうと思考に影響が出ない、魂を貫かれようとも生存に影響をきたさないなんてものも考えられる。そして最悪の場合、肉体を消滅させようとも何食わぬ顔で復活する可能性すらあるのだ。


 そんな生存能力の化け物を見失うわけにはいかない。翔の親友達という重荷を背負ってでも、ここで討伐しなければならない。人類滅亡を大義に掲げる悪魔など、現世に存在しているだけで害悪なのだ。


「マルティナ、魔力の様子は?」


「もう影響下に入るわ」


「じゃあ、そろそろ始めるね?」


「お願いね」


 二人が短い会話を交わすと、ニナは懐からスプレー缶を取り出した。何の変哲も無い、スチールの色そのままなスプレー缶。ニナはそれを一振りし、地面へと吹き付ける。


「これはどんなものなの?」


「地面や草花、空気中に結晶化が起こってないから、少なくとも空間が魔法で汚染されてたりはしないみたい。だけど裏を返せば、町の魔力が高い理由が全体魔法では説明出来なくなった」


 ニナが使用したスプレー缶の中身は、自身の血液を粉末状にしたもの。活性化した魔力に振れた場合に反応を起こし、体積に相応した結晶化現象を引き起こす代物だ。


 町全体の魔力量から予想して、ニナは何かしらの隠蔽が施された全体魔法が使われている可能性を考えていた。しかし、結果は空振り。彼女の想像が当たっていれば、今頃地面には鮮やかな赤色の結晶が出来上がっていたのだから。


「発動中の魔法は除外出来るのね?」


「うん。ボクの魔法は良くも悪くも無差別だから」


「なら、残る可能性は麗子さんの予想ね」


「......正直、規模が大きすぎて想像が付かないよ」


 ニナとマルティナは、この地で出現する奇妙な宝石の話を聞かされていた。


 魔道具ではない。魔法による副産物ではない。魔法生物の一部ではない。使い魔ではない。


 いくら専門の人員が分析を行ったとしたって、その人員が所属しているのは暗躍を得意とする隠形派。分析など他の派閥に回すのが通常であり、自派閥で行う分析なんて間違いが当たり前の一次調査に過ぎない。


 しかし、そんな結果を聞かされた麗子は、真っ先に一つの可能性に思い当たった。いくら人に近しいと言っても彼女は悪魔。いや、悪魔であるからこそ導けた可能性。


「この町に潜伏する名誉の悪魔は()()。しかも、産出される()()()()()()()()()()()()()でもある」


 宝石がマウスの命を吸収したのは、魔力で活動する悪魔なら当然だ。そして、悪魔であるなら意思を持つのが通常であり、魔道具や使い魔のような単調な動きを返す筈もない。そして魂たる核が残っているからこそ、どれだけ放置しても劣化しない。


 ありえないと隠形派が切り捨てた可能性は、この町を覆いつくす悪夢として現実化していたのだ。


「町の魔力が高いのは、悪魔から漏れ出る微弱な魔力が合わさった結果。ボクの使い魔がいきなりやられたのは、アクティブになった名誉の悪魔の一体に襲われたから」


「えぇ、間違い無いわ。後は宝石を突然出現させる方法が分かればいいのだけど......チッ」


 すでに町全体へ本当の意味での分身を広げているのなら、町の魔力量が高い事は説明が付く。慎重な調査を行っていた使い魔も、分け身とはいえ悪魔本体に奇襲されれば成す術がない。


 本命の謎が明らかになった事で、残った解き明かすべき謎は一つだけ。多くの人間をこの地に呼び寄せた宝石の秘密に、二人が迫ろうとしていた時だった。


「......使い魔にもわざわざ出張ってきたんだ。ボク達が現れれば、当然迎撃に現れるよね」


 まるで蛇のような蛇行で、真珠のネックレスが迫って来る。ノミのような跳躍を見せるのはイヤリング、切れ目部分をまるで翼のように展開して空に浮かぶのはティアラか。あまりにも有機的な無機物達が、マルティナとニナへ殺到していたのだ。


 宝石達に共通するのは、悪魔とは思えないほどの少ない魔力量。けれど悪魔である事を実感させる程の、確かな圧力。


「保有する魔力量は大した事無いでしょうけど、あいつらは紛れもなく悪魔本体。気を抜かずに行くわよ!」


「そうだね。せっかく相手から出向いてくれたんだ。ここで少しでも戦力を削ってやろう!」


 マルティナが使い慣れた槍を展開し、ニナは銃声を気にしてか鳥喰銀蛇を取り出した。


 欲望渦巻く小さな町にて、大きな戦いは幕を開けた。

次回更新は4/15の予定です。

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