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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第六章 怨嗟の煌めきは心すら溶かして
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悪魔ゆえに至った見地

「ある程度は凛花ちゃんの性格を把握していたつもりだったけど、いざ実行に移されると、どうしても頭は痛くなってしまうものね」


「あのクソ魔王が脅し込みでねじ込んだ旅行なんだ。むしろ、何も起こらずに一日を終えていた方が寒気がしていただろ」


「それはそうなのだけど......」


 和気藹々(わきあいあい)と言うには少しばかり険悪なムードを発しながら、学生組が男女に分かれて温泉街へと繰り出していく。大熊と麗子はそんな彼らを見送りながら、用意された一室で今後の展望を話し合っていた。


「凡百様の方は?」


「物見遊山込みのご挨拶だとよ。翔曰く、油断ならねぇが率先して人を騙すタイプでもない。いくら敵対勢力とはいえ、黙っておっ始める無法は犯さねぇだろうさ」


「はぁ......継承様が観光を楽しんでいるだけでも問題なのに、凡百様は実質野放しなんて。防人(さきもり)派の耳に入ったらどうするつもり?」


「どうもこうもねぇよ。文句を行ってくるようなら、どっちか一匹だけでも預かってくれって土下座してやるだけさ」


「......ニンゲンの今なら文句は無いのだけどね。所属が移れば道理も変わる。特に、面子と名誉にうるさくないのなんて一握りよ? 考えの矯正も少しずつ始めなきゃかしら」


「待て待て! んな私用で時間を使ってる暇はねえだろ! 悪かった、悪かったから! とりあえずは隠形(おんぎょう)派連中に金を握らせて隠蔽中だ。さすがの防人派だって、まさか魔王共が現世観光を楽しんでるとは思わねぇだろうよ」


「......ならいいのだけど」


 人魔大戦対策課の大熊と麗子には、大戦に関わる様々な責任が覆いかぶさってくる。魔王の所業、五大派閥の損得、そして日本の守護。いずれも手を抜くことが許されない事柄であり、失敗が大きな失点へと繋がる難題だ。


 ゆえに大熊は手を抜かない。魔王の勝手と社会的圧力の板挟みになりながらも、どうにか活路を切り拓こうともがき続ける。その結果として膨大なタスクに常日頃から襲われているが、常人の倍は生きている大熊からすれば、経験と効率化でどうにかなるレベルに収まっていた。


「名誉と言えばよ。今回の相手がまさにそいつじゃねぇか。魔界時代に欠片程度でも関わりはなかったのか?」


 ふと大熊が麗子へ投げかけたのは、此度の相手たる下手人との関係。彼女は限界まで人に寄せてはいるが、その正体は悪魔。それも、前大戦を勝ち抜いた大戦勝者(テレファスレイヤー)の相棒だ。


 出自が悪魔であるからには、魔界に滞在していた時期がある。魔界に滞在していれば、顕現した悪魔との繋がりあるかもしれない。そんな淡い期待を込めた大熊の質問は、すぐさま麗子によって否定された。


「......唐突ね。単刀直入に言えば、答えはノー。そもそも外野の木っ端悪魔が知れる情報なんて、たかが知れている。外野でありながらも国家との繋がりを持っているか、あるいは外野のままで永くを生きているなら別だけど」


「そんな悪魔なら、わざわざ悪魔殺しの契約なんざ結ばないってか」


 悪魔殺しの契約は、契約者たる人間の死によって共倒れが確定するハイリスクな契約だ。魔界で一定の成功を収めた悪魔が取る方法としては、下策中の下策といえる。


「生活の基盤が整っているのに命を賭けたギャンブルへの参加なんて、割に合わないでしょ? 下位国家とはいえ所属があったイゾルデなら何か知っているかもしれないけど_」


 ならばと皮肉交じりで上げた名前は、イギリスの大戦勝者であるジェームズの相棒。しかし、今度は大熊が即座に否定した。


「やめだやめだ! あの愉快犯にものを聞いた所で、まともな回答が返ってくるわけがねぇ。唯一、爺様を本気で人質に取りゃあ別かもしれねぇが」


「そんなことをしてみなさい。大戦そっちのけで殺し合いが始まるわ。おまけに、私達の魔法とジェームズの魔法は相性が悪い」


「機嫌が良くて半殺しの返り討ち。悪けりゃ現世からの退場か。割に合わねぇ所じゃねぇな」


「でしょう? 行き詰ってるのは分かるけど、ここは正攻法で外堀から埋めていくしかないわ」


「だわな......」


 此度の悪魔は完全な潜伏型。それも町一つを人質に取り、さらに刻一刻と人を呼び寄せ続ける知能犯だ。単純な捜査で見つけ出せる可能性は恐ろしいほど低く、そうなれば犯人特定に繋がる裏道を探してみたくなるのが人の性。


 けれど結局は空振りに終わり、残ったのは悪魔殺し達の天運と魔王達の気紛れに賭けるしかない情けない立場。大熊と姫野を除けばほとんどの人間に興味が無い麗子といえども、流石にそれはと言いたくなる立場だ。


 決定的な潜伏先を掴めずとも、日魔連の力だけで正体に迫れる何かがあれば。言葉にせずとも気持ちを共有していた両者。期せずして到来した沈黙の中で、突如として大熊の端末が音を立てた。


「おわっ!? な、なんの連絡だ!?」


 普段はマナーモードに設定している端末だが、行先が騒がしい観光地であるがために音声設定をオンにしていた。慌てて手に取った端末を開くと、そこには一件のメールを受信した連絡。アドレスには全く覚えがない。


「......おいおいおい」


 一瞬だけ逡巡したが、何かあれば買いなおせばいいとメールを開く。そうして確認した中身は日魔連の関係者、それも隠形派でしか知りえない宝石の分析データを記載したメールであった。


「どこから?」


「隠形派。宝石の簡易分析が終わったんだと。見るか?」


「......これは」


「分からねぇってことが、分かっただけだ。ったく! 期待はしていなかったけどよ。本気で空振りだと、それはそれでイラついてくるもんだな!」


 おそらく複数の派閥から要請されていたであろう宝石調査。しかし、メールに記載されていたのは、魔道具ではなく生物の一部でもなく使い魔でもないという全否定の発表。


 ならば正体がなんなのだと続く文面を読み進めれば、最後に記されていたのは鋭意調査中という言葉。これでは何も進んでいないのと一緒ではないか。苛立ちを紛らわすために、大熊は端末を座布団へと投げ下ろそうとした。


「......待って」


 だが、勢いよく座布団へ不時着する筈だった端末は、手を伸ばした麗子によって幸運にも救出された。不満の残る大熊が麗子を見れば、そこにあったのはお世辞にも良いとは言えない険の表情。


「どうした?」


「ちょっとだけ心当たりがあるの」


「宝石のか」


「えぇ。魔道具ではない。魔法生物の一部でもなく、かといって使い魔なんかでもない。源、ニナちゃんを呼び戻す事は出来るかしら?」


「あの子を? 何でだ?」


「私の予測が正しければ、この宝石の正体は恐ろしいものになる。そして恐ろしいほどの人々が、犠牲になる可能性がある」


「なっ!?」


「失礼な表現なんでしょうけど、あの子だけは凄惨な現場に手慣れてる。それにあの子だけは、私の思う可能性に強く出れる。だから早く呼び出して。これ以上、犠牲が増える前に」


「あぁ、クソっ!」


 麗子が投げ渡してきた端末を、大熊はこれでもかと思うスピードで操作する。悪魔との対面はいつだって、そうであってほしくないの連続だった。

次回更新は3/22の予定です。

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