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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第六章 怨嗟の煌めきは心すら溶かして
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隠しきれなかった関係

「凛花の野郎、いったい何を考えてやがる」


「全くだ。いつもなら寒さで真っ先に音を上げるタイプの癖に......」


 昼食時。いつものように教室で弁当箱を広げようとしていた翔と大悟に、今日はなぜか凛花が待ったをかけた。事情を聞いてもはぐらかされ、ここに集合とだけ伝えられて逃げられる始末。


 そうして集合場所に指定されたのが、校舎内にある中庭だった。


 春から夏にかけては陽気を楽しむ生徒達で賑わう中庭だが、冬も近付いた秋の気温では人影は全くと言っていいほど見られない。道場の冷たい床に慣れ親しんでる翔と大悟でさえ、寒空の下、好き好んで冷たくなった昼食をかきこむ趣味は無かった。


「それに凛花の奴、呼び寄せておいて本人が遅刻かよ!」


「最近は慎ましさを身に付けたと思ったが、あいつの体内時計は一時停止しちまってるらしいな」


 呼び出した相手である凛花の姿を探すも、繰り返しになるが人影は皆無。そもそも、普段からやかましい彼女の事だ。近付いてくれば姿が見える前に気が付く。


 翔と大悟は察する。あいつ、自分で約束しておいてすっぽかしたなと。


「グチグチ言ってても仕方ねぇ。さっさと昼飯を片付けちまおうぜ。裁判を始めるにしても、片手が塞がってたら逃げられる可能性がある」


「それもそうだな。量刑は?」


「一分遅刻毎に正座一分でどうですか、裁判官?」


「妥当だな」


 親しき中にも礼儀あり。特に幼馴染である関係で、刑を執行するための引き金は恐ろしく軽い。何の理由で中庭に集めたかは知らないが、不利益を被った以上、報復に動くのが当然である。


 とりあえず、このまま昼休憩を無為に過ごすのはいただけない。冷えた空気ですっかり冷蔵されてしまった弁当を、二人は広げようとした。


「っと、遅刻にしちゃあ中途半端な搭乗になったなぁ凛、って、神崎さん!?」


「天原君に岩国君」


 背後からの足音に反応し、二人は凛花が到着したのかと振り返る。しかし、そこにいたのは凛花ではなく、クラスメイトの姫野であった。


「どうして神崎さんがここに?」


「いつも通り、昼食に入ろうとしていたのだけど......」


「もしかして凛花が?」


 姫野がこくりと頷く。


「あんのバカ! 俺達だけならともかく、神崎さんまで冬一歩手前の中庭に集めたってのか!」


「......おまけに、当の本人は雲隠れときた」


「裁判官、量刑に逆さ吊りを追加するべきでは?」


「チョークスリーパーも追加するべきだろう」


「......その、私はお勤めで寒さには慣れてるし、略式裁判による私刑の執行は、法律で禁止されていて」


「いいや神崎さん、時にはケジメが必要な場合ってもんがあるんだよ」


「それが今だったってだけだ」


「......今では無いと、思うのだけど」


 普段は凛花のせいで翔と姫野の関係をからかわれてばかりだが、ここに彼女の姿は無い。そのため吊るし上げられるのは必然的に凛花となり、会話も高校男子の知能レベルまで必然的に低下する。


 本当に怒っているかもしれないとオロオロする姫野だが、こんなバカ話は聞き流していいのだ。その教えも込めて翔は姫野の到着以前のノリを続けていたし、大悟もそれに乗っかった。


 後は程よい所でネタバラシを行い、凛花への愚痴をつまみに昼食に入るだけだった。


「ふっふっふ! 仲良き事は美しいものだね!」


 だが、事態は姫野の登場だけでは収まらなかった。


「この演技臭さの塊みてぇな喋り方は」


 三人が振り返ると、そこには話題に上げていた凛花の姿があった。尊大な態度を取るのは、話題がある時のいつもの凛花。ならば中庭に三人を集めた理由は何なのかと問い詰めようとした。


 しかし、翔や大悟の言葉より早く、凛花は理由を差し出した。


「んげっ......!」


「んひひ~! 翔~、根掘り葉掘り聞かせて貰ったよ~! 随分と仲良くなったんだってね!」


「アハハ、ごめん、翔。誤魔化しきれなかった」


「......」


 凛花の傍に立っていたのは、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべるニナと顔に手を当てて溜息を吐くマルティナ。その態度だけで察するのは容易だった。


「実はさっきまでの会話は、こっそり聞かせて貰ってたんだ~! それで~、何だっけ? 一分遅刻する毎に正座。そこに逆さ吊りとチョークスリーパーだったかなぁ? 寒空の下に放置させちゃったのは申し訳なかったけど、刑を執行されるのにもっと相応しい人間がいるんじゃないかな~?」


 その言葉が終わるか否や、翔は大悟によって背後から両脇を固められる。


「翔、悪く思うな」


「おまっ!? 裏切ったな!?」


「裏切ったのはどっちだ! 薄々感付いちゃいたが、お前神崎さんという人がありながら!」


「ちょ、ちょっと待て! 大悟、お前は間違いなく誤解してる。妄想で作り上げた人間関係に、現実を当てはめようとしている。誤認逮捕からの刑執行なんて、取り返しが付かない事態になるんだぞ!」


「裁判官、被告人はこう言ってますけど?」


「問答無用! 略式裁判、罪状の読み上げ、留置期間もろもろを全て破棄。事実発覚の時点で死刑に処す!」


「バッカ、お前、だから片手に弁当を抱えてるっての、どわああぁぁ!?」


 無慈悲な組みつきは派生し、コブラツイストへと変化する。吹き飛んだ弁当は、危ういところで姫野にキャッチされたが、すでに翔はそんなことを考える余裕は無かった。


「いでででっ! バッ、だから説明を、あだだだだ! ギブギブギブ!」


「友よ。裁判長として、お前の身の潔白を信じたかった」


「いっけー! やれやれ! そこからバックドロップに派生だー!」


 完全に身内のノリでじゃれ合う三人に対して、翔との繋がりしかない三人は小さな疎外感を感じることとなる。


「やっぱり、裁判は正式な手順で進めた方が......」


「そもそも会話の流れからして、裁判長が死刑を執行してるじゃない。おまけに関節技だからショック死しかありえないし、死刑で一番大切な苦しみの排除をむしろ冗長させてるし」


「二人共冷静になってないで! さっさと誤解を解かない......あれ? もしかしてボク、翔と恋仲だと思われてる? だとしたら、誤解を解かない方がいい?」


 一人は正当な意見の主張、もう一人は呆れた様子で光景を放置、残った一人は現状維持を望みだす。三人が三人とも割って入ることを止めた時点で、翔を助ける者はいなくなった。


「だから、誤解だぁぁぁ!」


 必死の主張もむなしく、翔の刑執行は、その後も数分に渡って続く事となった。

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。


次回更新は1/5の予定です。

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