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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第六章 怨嗟の煌めきは心すら溶かして
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等価交換で押し付けられた大損

「この熱気が収まったら、根掘り葉掘り聞かせて貰うからな! ミーハー野郎の凛花も引っ張ってくるから、覚悟しとけ!」


 そんな捨て台詞をぶつけられながら、翔は一人帰路に就く。


「また言い訳を考える日々か......死ぬほど面倒くせぇけど、なんか、帰ってきたって感じがするな」


 ご無沙汰となってしまっている立ち合いは、留学後のレポート作りを言い訳に逃げ出した。こうも気持ちが乱れていては、大悟からボコボコにされるのは確実だったから。


「けど、ビックリだったよな」


 こちらは本当の意味で、留学の書類作成で居残りをしているだろうマルティナとニナ。今思い出しても、彼女達との学生生活は中々現実味を感じられなかった。


 きっと、碌に会話も出来ていない所も関係しているだろう。朝から夕方まで女子達に囲まれ、翔や姫野との会話などまるで無い。最初は浮きまくっていた姫野ですら、彼女達の転入後は不思議ちゃん枠としてある意味安定してしまったくらいだ。


 こんな事では、保護者達が目指す社会勉強の形とは程遠い。それに、マルティナはともかく、ニナは他人に迫られるのが本当は苦手だ。今の所ボロは出ていないが、すでに彼女の様子からして余所行きモードが全開であるのが伺えた。あれではそう遠くない内に、弱音を吐き出す事だろう。


 けれども、そんな生活だって長く続いても一カ月程度だろう。学生なんてものは、誰だって熱しやすく冷めやすい。いずれ興味を失っていき、彼女達が誰と交流を持っていても気にしなくなるはずだ。


 そこまでいけば、会話や小さな付き合いだって行えるはず。彼女達とのコミュニケーションを大悟に見破られたのは痛恨だったが、あちらも荒立てるつもりは無いらしい。そもそも、コミュニケーションの理由すら大きく勘違いしている始末。


 だてに補修を受けてはいない。凝り固まった考えを撤回出来ない所も、バカがバカと言われる所以と言えるだろう。


「それに、そんな出来事なんて笑えるくらいの事態になっているんだしな」


 カギのかかっていない自宅のドアノブを捻り、ドアを開ける。


 訓練が成功に終わったあの日、決まった話は二つ。一つはマルティナとニナの転入話。


「帰ったぞ」


「お帰り、翔。早かったじゃないか」


 そしてもう一つが、剣の魔王 凡百のハプスベルタの滞在話だった。


「おとなしくしてたんだろうな?」


「もちろんさ。事前に知識では仕入れていたけど、このテレビという物は本当に楽しい! 剣達が思い描く理想が、どこまでも忠実に描かれている!」


「今時ネットじゃなくてテレビで喜ぶ奴も珍しいよな。まぁ、ひたすら海外映画を垂れ流してるだけなんだから、厳密にテレビと言えるかも怪しいけど」


 子供の様なテンションで、無邪気にテレビへと齧りつくハプスベルタ。そんな魔王の姿を警戒半分、呆れ半分で見つめながら、彼女がこの地に滞在する事になったきっかけを思い出す。


__________________________________________________________


 悪魔殺し二人の転入を大熊が話したように、ハプスベルタの翔宅滞在はダンタリアが説明を行った。


「大熊には後で説明するとして、君達には事前説明を行っておこう。せっかくこうして、協力者が到着してくれたんだからね」


 訓練の成功を喜ぶのもつかの間。四人の悪魔殺し達に伝えられたのは、ハプスベルタを交えた悪魔の討伐作戦であった。


「現在日本には、亜種(カタスティア)教会(スケースィア)と呼ばれる国家間同盟の傘下が潜伏している」


 何でも無い事のように告げられたのは、人類を脅かす存在である悪魔の潜伏先。しかもそれが、日本国内であるという事実。


「彼らの目指す大義は残念な事に、私の考えとは相いれなくてね。かといって、企みを潰そうにもこちらは単騎。おまけに永劫中立の契約まであって、無策で手を出した日には私の物語もお終いさ」


 やれやれと首を振るダンタリアだが、演技臭さが勝った。


「だから、そこの魔王を呼び寄せたってわけ?」


 口を挟んだのはマルティナ。異常事態から立ち直るスピードもさる事ながら、会話の裏を読み取る事にかけては四人の中で随一だ。臨戦態勢を取り続ける姿勢からも分かるように、訓練を通した後でも、マルティナはダンタリアを信用してはいなかった。


「話が早くて助かるよ。亜種教会に所属する国家は、どれもこれもニンゲンへの殺意に溢れていてね。ハッキリ言って、今の君達だけでは荷が重いと判断した」


「だからお(もり)として、魔王を付ける。そしてこの訓練自体も私達の力量を引き揚げるというよりは、現状を把握するという意味合いが強かったって事ね」


 ここ数日間の行いが、まさにダンタリアの手の平の上であった事に気が付いたのだろう。マルティナが苦々し気に吐き捨てる。


「悪いとは思っているさ。だけど、世界は君達の成長を待ってはくれない。遅れた成長を取り戻すには、生半可の努力では足りない」


「だから実戦が必要だった。本物の殺意に曝され、本物の死線を彷徨う事こそが成長へと繋がるから。人間の師匠でもスパルタを通り越しているってのに、魔王のアンタに言われると謀略にしか聞こえないわね」


「ふふっ、なら降りるかい?」


「冗談、アンタのやり口は分かっているわ。国家間同盟の潜伏も事実、私達の実力との差異も事実、そこの魔王が本腰を入れて協力してくれるのも全部事実。一級の詐欺師は一つの嘘に十の事実を織り交ぜる。けどアンタは十の事実を隠れ蓑に、大切な一の真実を煙に巻く!」


「......ふふっ、ちょっとだけ見直したよ悪魔祓い(エクソシスト)。このまま努力を続けていれば、君は前大戦の勇者達に並び立てるかもしれない」


「一ミリも嬉しくない誉め言葉をどうも。どうせ、この八つ当たりが何も生まない事は分かっているわ。だからさっさと、敵の居場所と正体を教えなさい!」


 例え敵わずとも退かず。潔さとは正反対の態度を示しながら、マルティナはダンタリアを睨みつける。


「そうしてあげたいのは山々なのだけどね」


「何よ、その言葉」


「顕現中の悪魔達の動きによって、亜種協会が日本に潜伏しているのは分かっているんだ。だけどまだ、どの悪魔がどこに潜伏しているのかまでは、ハッキリと確証が持てなくてね」


「ッ! 見え見えの嘘を......!」


 どの国家間同盟が関わっているかも知っていながら、下手人の正体と居所だけが分からず仕舞いなどあり得る筈が無い。つまり、ダンタリアは勿体ぶっている。何かの機会が巡ってくるのを待っているのだ。


「もちろん急いで捜索を行うつもりだよ。一週間は無理だとしても、二週間はかからない。だからその間にでも、自分の不足を埋め合わせると良い。この場を訪ねてくれた凡百は、()()のスペシャリストなのだから」


「このっ......!」


 言葉にこそ出さなかった。しかし、察しの良いマルティナだけにはしっかりと伝わった。足りていない実力の内訳には、彼女の指揮能力が含まれている事に。


「ふむ。会話の流れから察するに、私はそこな少女に知恵を授けるべきと?」


 聞きに徹していたハプスベルタが、ここでようやく口を開いた。


 その言葉には感情の起伏が無く、だからこそ若干の怒りが秘められているのが伝わってくる。当たり前だ。敵対派閥の共同討伐作戦と聞かされて来てみれば、いきなり未熟な悪魔殺しの指導を言いつけられたのだから。


 それに用兵術一つを取っても、知識とは時に力へと直結する。何の利も無く敵に塩を送っては、他国の悪魔、ひいては自国の悪魔に舐められる事に繋がる。


「タダでとは言わないさ」


 そんなハプスベルタの怒りを受けてか、ダンタリアが苦笑交じりに翔を指差した。


「あっ? 何でこっちを指差して_」


「対価として少年を預けよう。そちらに足りない戦士としての技量を、引き揚げるチャンスと言えないかい?」


「はっ?」


「ほう。学びを対価に学びを得る。あっちの覚え次第だが、確かに等価と言えるか」


「はぁ......?」


 ダンタリアが笑みを向け、ハプスベルタも笑みを向ける。マルティナは悔し気に歯を食いしばっているが、助け舟を出す余裕は無いらしい。


「そんなわけで、短い間だがよろしく頼むよ少年」

__________________________________________________________


「はぁ~......」


 今思い出しても、理不尽の極みというべき決定だった。


 溜息を吐き出す翔を見ても、ハプスベルタは何が面白いのか笑うばかり。翔一人の犠牲で上位国家の魔王を足止め出来ていると言えば聞こえは良いが、この後の実害を考えると素直に喜ぶ事など出来やしなかった。


「さて、()()()も着いたことだ。そろそろ始めないかい?」


「......いつもの立ち合い相手が変わっただけ。分かったよ。さっさと始めんぞ」


 息を合わせたかのように立ち上がった両者は、そのまま家の奥へと歩みを進めていった。

次回更新は11/30の予定です。

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