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侵略の一手 その一

 翔と名乗った少年との激突。


 それによって此度の宿敵を手に入れたハプスベルタは、協力者だった言葉の悪魔の敗北もあり、迷わず撤退を選択した。


 二人の前から飛び去った時に使用した投石機の連続使用。それによる長距離移動によって、すでに彼女は日魔連の追撃を振り切り、大陸への移動に成功していた。


 大陸のとある場所にある、鬱蒼(うっそう)とした森に着地したハプスベルタ。逃走の成功を確信していた彼女は、そこからは魔力の消費を抑えるために自らの足で移動を開始していた。


 日本に魔法組織が存在するように、大陸の各所にも魔法使いの拠点は存在する。


 それらに気取られては、余計な面倒を背負いこむこととなる。そのため人の気配が無いこの森を横断することを考えていた彼女だったが、ふと奥から悲鳴が響き渡っていることに気づき、そちらへと歩を進めた。


 するとそこには凄惨な光景が広がっていた。


「あがあぁぁ! がはっ、やめてくれ...... 頼むから、もう止めてくれえええぇぇぇ......!」


 そこではフードで顔まですっぽりと覆い隠した黒衣の集団が、粗末な作業台に一人の男をうつ伏せに縛り付け、拷問を行っていた。


 男の背には大量の針が突き刺さり、さながらハリネズミのようになっている。そして今まさに突き刺された針によってまたもや男は声を上げた。ハプスベルタが耳にした悲鳴の主は彼のようだ。


 鬱蒼とした森の中、いや、どんな場所であろうとも異常と呼べる場所へと彼女は躊躇なく近づいていく。


 そんな縛り付けられている男の顔が、ちょうど真正面にある方向から歩いてきたためだろう。拷問されていた彼は、いち早くハプスベルタの存在に気付いた。


「あ、あんたは...... いや、誰でもいい! た、頼む、助けてくれ! この狂人どもから俺を解放してくれぇ!」


 男が叫び声を上げたため、当然黒衣の集団も彼女の存在に気が付いた。


 だが、彼女は男の叫び声を完全に無視して一つの茂みに歩み寄る。そして黒衣の集団もそんな彼女に危害を加えることは無かった。


「おい! おい! この光景が見えてるんだろ! 助けてくれ! たす、むぐ!? もがが!」


 無視されてもなお、助けを求め続ける男の声が耳ざわりだったのだろうか。黒衣の一人が男に猿轡(さるぐつわ)を噛ませる。


 それが完了すると黒衣の集団が一斉に、彼女と彼女が見つめる茂みの先に(ひざまづ)いた。


「こんなところで道草を食っているのかい? 64位、供物の魔王、加虐(かぎゃく)のインバウラ」


 彼女が茂みに声を掛けると、がさがさという音を立てながら何者かが姿を現した。


 その者は首から下だけを見れば、少々変わったデザインの修道服に身を包み、ハプスベルタの手甲に刻まれたティーカップの意匠と同様のアミュレットを首から下げた大柄の男に見えた。


 だが、首から上は人間の頭部ではなく、雄々しき巻角の生えた黒山羊の首へと置換されていた。インバウラと呼ばれた黒山羊は目玉をぎょろりとハプスベルタへと向け、のっそりとこちらに近づいてくる。


 そんな化け物を目にしたことで、今もどうにか猿轡を外そうともがいていた男も静かになった。そして山羊の頭を持つ異形の化け物は、その頭に関わらず流暢に人間の言葉を話し出した。


「なにぶんこのような(なり)ですからな。路端(ろばた)の草を()むのは道理かと。それにしても凡百殿、随分とお早い顕現(けんげん)ですな。我のような下位の国家でも、国によっては顕現すら終わっていないというのに」


「あぁ。()()の新米に助力を懇願されてね。悪魔殺しの目の前に呼び出されて、熱い夜を過ごす羽目になったよ。まぁ、そのおかげで随分と早い顕現に加えて、此度の宿敵も見つけた。骨を、いや()を折った分の収穫はあったようだ」


 そう言ってハプスベルタは幾分か修復された、されど粉々には違いない二本の剣の柄を掴み、皮肉交じりに両手でぷらぷらと振ってみせた。


「それはそれは。こちらはこの者らとの合流は手早く行えたのですが、急いで顕現した分やはり魔力の総量に不安がありましてな。まずは同盟国家と合流すべきだったのでしょうが、望まぬ事態への保険のために()()をしておりました」


 そう言って、黒山羊頭の悪魔インバウラは哀れな生贄を指差した。そして食事と表現された男はその意味を正しく理解し、またもうめき声を上げながら、何とか拘束から抜け出そうともがきだす。


「それなら仕方ない。それにしても、君の国が私と同時期に()()へ参加したと聞いた時は驚いたが、そのニンゲン達が理由かい?」


「えぇ。()()にいたままでは、この者達も漏れなく粛清(しゅくせい)対象でしたからな。それに言葉を返すようですが、あなたが()()()を抜けたことの方が、よっぽど多くの国を驚愕させたかと」


「あぁ。前大戦で運良く奪い取った土地を使って、悲願が達成された際の実験を行ったんだが、管理されたニンゲンは思った以上に従順でね。国の中で宿敵を育て上げて殺しても、恨まれ恐怖されるどころか、祭り上げられてしまった。これじゃあ宿敵に成りえるニンゲンの総数が減っただけだろう?」


(まま)なりませんなぁ...... ニンゲンとはその弱さ故に、たびたび我らの想像を飛び越える成果を出す。それが現世で唯一繁栄を続けられる、知的種族である理由なのやも」


「かもしれないね。まぁ無駄話はこれくらいにしておこうか。新人である私達が、茶会の準備を率先して行わないと白い目で見られてしまうに違いない。私がいれば、これ以上の食事は不要だろう?」


「まさに。では食事はここまでにして、茶会の準備を始めると致しましょうか。では凡百殿、これはお使いになられますかな?」


 インバウラが哀れな男を指差して、ハプスベルタに尋ねた。


 男は彼女に懇願するような目を向ける。今の言葉の流れからして、ハプスベルタがから見捨てられた自分に待っているのは、解放ではなく死だ。


 だからこそ、この化け物の仲間であると分かっている彼女に対して、懇願の視線を向けているのだ。だが、そんな男の視線は、ハプスベルタ相手には逆効果だった。


()()()()()。拘束された肉を引き千切ってでも逃げ出そうとするニンゲンならともかく、自らで弱者のレッテルを張ったニンゲンなんていらない。ましてや私には()()()という宿敵がいるんだ。例え彼が戦士であろうとも間に合ってるよ」


「そうでございますか。でしたら我らの門出を景気付ける祝砲として使()()()()ことにしましょう」


 そう言うとインバウラは黒衣の一人に命令を下し、猿轡を外させた。


 そして今まで使っていた肉の途中で停止するような小さな針ではなく、大きく、おまけに所々に返しの付いた針が何本も姿を見せ始める。


 男は自分の末路を悟った。


「やめろ...... やめろ......! やめろおおおおぉぉぉぉ!」


 断末魔の叫び声が、森に響き渡った。

国家間同盟 大願の成就のために相互不可侵、全面協力を前提として構築される悪魔の国同士の同盟。


同盟作成の権利は1位から10位の国にしか許されておらず、最大でも10種の国家間同盟しか存在しない。


国家間同盟はまだ詳しく話せませんので、簡単な解説のみとさせていただきます。


騎士団 悪魔を頂点とし、人類を完全なる管理下に置く統制社会を目指しています。


教会 人類を滅亡させ、魔界で自らを信奉する種族を現世の頂点に立たせることを目標としています。


茶会 悪魔が現世を闊歩していた、古の時代を取り戻そうとしています。


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