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見直したルール

「君達は大戦勝者(テレファスレイヤー)の深奥を、その頭に刻み込んだ。そして、一度は砕け散った命をかき集め、再戦する機会にも恵まれた。さぁ、未熟な悪魔殺し達が歴戦の英雄を上回るには、どんな守りが相応しいかな?」


「ぶはっ!?」


 ダンタリアの指がパチンと鳴り響き、翔の口を引き結んでいた不可視の力が解放される。全員が気付きを得るべき考察の時間は終わった。ここからは実戦に向けた作戦会議の時間だ。


「この野郎、唐突にチャックを付けたかと思ったら、いきなりこじ開けやがって......!」


「すまなかったね。けれど、ここからはどんな意見も尊重される時間だ。思いつく限りの対策を上げてもらえると、()()()()()としても安心出来るからね」


「思ってもねぇ癖に」


「気にするだけ無駄よ。解放されて早々だけど、アマハラ、あなたは再戦に向けて何かしらの意見はあるかしら?」


 パンパンと手を叩いて、自身へ注目を集めたのはマルティナだ。言葉を交わさずとも、ダンタリアが進行役から降りた事を感じ取ったのだろう。


「な、何だよ急に。大熊さん達の魔法を理解した上での再戦じゃ、何かマズいのか?」


「当たり前に決まってるでしょ! 一戦目と変わって、私達は大戦勝者の方々が操る全ての魔法を知っている。そのアドバンテージを活かさずして、どうやって訓練を乗り切るつもり!?」


 どこか考察段階の雰囲気が抜け切らない翔とは対照的に、すでにマルティナは次の戦いへ思考を切り替え終わっている。まさしく進行役に相応しい適性を持っていると言えた。


「......って、言われても」


 元々が武道出身の翔からしてみれば、訓練とは反復だ。


 数多の失敗を繰り返す事で、最適な行動を導き出していく。前回の戦いで、翔達はそれぞれ失敗と課題を抱えることとなった。次なる戦いでは、その部分を意識して戦っていこうとしか考えていなかったのだ。


「あぁもう。なら、ニナ。あなたは何か意見がある?」


 翔と会話をしていても埒が明かないと思ったのだろう。マルティナの意識がニナへと向けられた。


「ボクとしては......人員配置の変更をお願いしたいなって思ってる......」


「ニナ、それは......」


「うん? どうして?」


 翔とマルティナ間の会話とは異なり、どうやらニナには次戦に向けた意見があったらしい。おまけに意見に対してマルティナは、釈然としないながらも理解を示している。


 前述した意識で再戦を考えていた翔は、ニナへ説明を求めた。


「えっと、恥ずかしい話なんだけどさ。ボクじゃ大熊さんは抑えきれないと思うんだ。ほら、ボクって翔達みたいに()()()()()()......」


「あぁ......」


 申し訳なさそうに話すニナによって、翔も目下の問題点に気が付いた。


 先ほどダンタリアの助力によって、翔達は大熊の魔法についての知識を得た。彼の魔法は密度を操る始祖魔法。始祖魔法である故にその範囲は広大であり、概念を操る故にその対象は多岐に渡る。


 前回の戦いでニナは、周り全ての地面を崩落させられ大穴に落とされた。飛行手段を持ち得ないニナでは、足場の破壊に対する返し札が存在しなかったのだ。


 もちろん、これが契約魔法による条件付きの破壊である場合や、変化魔法によるごり押しであれば、取れる対応はいくつか残っていただろう。しかし、ほとんどノーモーションで密度を動かす始祖魔法では、足場の変化に気が付けない。


 大熊がその気になれば、ニナと姫野では勝負の舞台に立てるかどうかすら怪しいのだ。


「お願いした手前なんだけど、仮にボクがお師匠様の相手を務められるかと言われれば、それはそれで......。足を引っ張っちゃって、本当にゴメン」


 ニナの意見を尊重するのなら、それぞれが対面する相手を替える事になるだろう。かといって、ニナと姫野ではラウラの相手をするのもまた、難題なのだ。


 ラウラは相棒のリグと共に、常に空中を浮遊している。加えて、操る魔法はどれも広範囲で高火力。


 カウンターと遅滞戦術。どうしても先手を譲りがちな彼女達の戦闘スタイルでは、ラウラへ魔法が届く前に相手の魔法で押し流されてしまう可能性が高い。


 そしてラウラを自由にしてしまっては、索敵も破壊も思いのまま。数分も経たぬ内にダンタリアの居場所は探り当てられ、潜伏場所ごと吹き飛ばされてしまうだろう。


 自身の無能を告白する。そのあまりに苦痛な発言を、ニナは勇気を出して言い切ったのだ。


「カンザキ、あなたはどうなの?」


 いたたまれなくなったのだろう。マルティナは姫野へも意見を求めだした。


「私も同意見よ。それに、デュモンさん一人が罪悪感を抱える必要は無いわ。一応、私には空を飛ぶ手段は残されている。だけど私の魔法の特性上、空を飛んだ所で出来る事が限られているもの」


 慰めるかのように彼女へ同調したのは、先の戦いでコンビを組んでいた姫野だ。


 彼女の操る魔法は、等価交換の契約を交わした神の魔力と魔法を借り受けるもの。傲慢な神の意見を真っ向から受け止めなければいけないもの。


 発動の度に対価を求められ、一部の例外を除いて神は同時に魔法を借り受ける事を拒否する。


 空を飛んでラウラに追いすがった所で、そこから姫野に出来る事が何も無いのだ。


「いっそ、コンビを替えるとか」


「バカね。それをやった所で、対応出来ない一人が生まれる事に変わりないわ。むしろ二ヵ所で()()が生まれてしまうんだから、片方への負担が重くのしかかるだけ」


 辛辣な物言いだが、マルティナの言葉は何も間違っていない。


 この戦いは、常に格上との相手を強いられる。そんな中で戦いに混ざれない者がいれば、勝負にすらならない可能性があるのだ。


「なら、どうするんだよ。何かしらの変化が無ければ、負けが重なるだけなんだぞ」


「うっさい! 案も出さないのに文句を言うな! 今考えてるんだから、少し黙ってなさい!」


「うっ、悪ぃ......」


 マルティナにギロリと睨まれたことで、翔は己の失言を悟った。いくら議論が煮詰まっていたからといって、提案も無しに文句を言うだけなのは最低だ。


 謝る翔を見て、いくらか溜飲が下がったのだろう。マルティナはそのまま黙り込み、考え事を始めてしまう。姫野とニナも解決策が思いつかなかったのだろう。そのまま黙り込み、辺りが沈黙を支配する。


「ふふっ、難題だね。だけど、それも当然の事だ。なぜなら君達が打倒を目指すのは、人魔大戦を勝ち抜いた勝者達だ。むしろ早々に作戦を思いついた方が、不自然だよ」


 自身の役目を一時的に終えた事で、他人事のようにダンタリアは笑っている。


 翔は一言文句を付けたい気分だったが、先ほどの失言もあってグッと堪えた。この中で作戦立案能力に優れているのはマルティナだ。そして現在の彼女は、思索を深めるための沈黙を何よりも求めている。


 そんなマルティナの集中を、一時の爽快感如きで乱すわけにはいかない。今の翔に求められるのは、いずれ答えを導き出すであろう彼女を見守る事だけである。


「マルティナ......?」


 ふとダンタリアからマルティナへと目を移してみれば、先ほどまでうつむいてた彼女の顔がダンタリアへと向いている。翔のように文句を言うつもりなのかとも考えたが、その瞳に映るのは怒りではなく純粋な発見だ。


「......ねぇ。みんなに問いたい事があるわ。今一番の問題って、ラウラさんを誰が相手取ればいいのかって事よね?」


「うん? そうじゃないのか?」


「えぇ。私もそう考えてたわ」


「ボクもだよ」


 突然の発言に困惑しつつも、三人はマルティナの言葉に同意する。


 今一番の問題とは、まさしくラウラを相手取るための戦力が不足している部分だ。


 大熊を相手取るためには翔とマルティナのコンビが必須であり、その組み合わせをぶつけてしまうと必然的に姫野達がラウラを相手取る事になる。しかし、彼女達に空を翔ける能力は無く、広範囲魔法によって射程外から殲滅されてしまうのが目に見えている。


 ラウラを無力化するとは言わない。けれども、どうにか彼女を姫野達の射程内まで引きずり出す必要があるのだ。


「今まで私は、ここにいる四人の力だけでラウラさんを相手取ろうとしていた。四人の魔法だけで、格上四人を抑え込もうとしていた。でも、よくよく考えればその必要は無かったのよ」


「何言ってんだよ。まさか逃げ回る事で、相手取るタイミングを無くそうって考えてんのか?」


「違うわよ! そんな事をやったって、曇模様で追い詰められるのがオチ! 私が言っているのは、さっき切り損ねた助っ人のカードを今度こそ利用するって事よ!」


「はっ? 助っ人? そんなのいるわけ_」


 考えすぎて頭がおかしくなったのかと翔が心配するが、そんな彼の視線をマルティナは撥ね退けた。そして、翔が言い終わるよりも早く、こう口にしたのだ。


「いるじゃない! 私達の側には、()()()()の魔法使いが!」


 マルティナの視線はそこでも変わらず、光明を手に入れた一点のみを見つめていた。

次回更新は2/17の予定です。

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