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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第五章 集う新世代

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踊るペン先、滲む黒

 ニナの要請によって、彼女と大熊の戦いから距離を取った姫野。しかし、彼女が動いた先はダンタリアの見守る後ろ側ではなく、静観を続ける前方の麗子側だった。


「こっち側に来ていいの? 悪いけど、その気になった源を止めるのは二人がかりでも難しいわよ?」


 今は敵対関係だというのに、麗子は姫野に対して優しい口調で忠告をする。いや、警戒されていないと言った方が正しいか。


 先ほどの忠告も、ただ単に事実を言い聞かせているだけ。それほどの余裕が今の麗子にはあるのだ。姫野という多彩な魔法を使いこなす悪魔殺しを前にしても、お喋りに興じれるほどの余裕が。


「いいえ。むしろ、大熊さんを止めるためにこちら側へ来ました」


「どういうことかしら?」


「大熊さんは脅威です。ただ突進されるだけで、こちらの陣形は崩壊し、私達のような契約魔法使いは蹂躙されてしまう。けど、それにしたって無策が過ぎると思いました」


 本来の相性差を考えるのなら、変化魔法使いの大熊と契約魔法使いの姫野とニナは、彼女達に軍配が上がる。


 変化魔法使いが強さを発揮出来る距離に辿り着く前に、契約魔法の様々な効力が発揮されてしまうからだ。


 特に、ニナの魔法は強力だ。他者の魔力であればあらゆる魔力と結合し、結晶化を引き起こす。いくら自分達二人を秒殺出来ても、ニナの血液を大量に浴びてしまえばリタイアは免れないのだ。


 それを知っていながら大熊は単純な突進という策を取った。実力差を思い知らせるにはちょうどいいかもしれないが、それで倒されてしまえば、むしろこちらにも打つ手があると思われてしまわないだろうか。


 それに、大熊はああ見えて慎重派だ。余計なリスクをとことん弾き、地味で味気の無い勝利を好む。そんな彼が無策で近付くなんて、姫野には信じられなかった。


「なるほどね。源がニナちゃんの血液を気にせずに突っ込めるのは、私が何かをしていると思ったと。そして私を止めなければ、源に勝利出来ても最悪の結末があると考えたってわけね」


「はい」


 だから姫野は麗子の妨害に動いたのだ。ニナが煙幕を張る以上、自分は接近戦どころか二人の視認すら難しくなる。それなら事実上敵である麗子へ戦いを挑み、相手の企みを少しでも乱そうと思ったのだ。


 大熊と麗子の魔法は、どちらも詳細は不明だ。もしかすればこの会話をしている時点で、魔法の発動条件を踏んでいるかもしれない。


 だが、全てを疑えばキリが無い。ある程度の推測を終えたら、後は自分を信じて動き出すしかないのだ。


「理屈があったのなら、とやかく言わないわ。けど、残念ね。この戦闘が始まってから、私は一度も魔法を使ってないわ」


「そうですか......」


「でも、その推測自体は悪くないわ。源がニナちゃんを気にせずに突っ込めるのは、私のアフターケアがあってこそだもの」


「どういうことですか?」


「契約魔法は呪いに例えられる事が多いけど、昔話にあるように呪いとは解けるモノ。そして進行を遅らせられるモノよ。ニナちゃんの強力な呪いだろうと、対抗手段は無数にあるの」


「つまり、麗子さんの魔法は」


「強い力を持っている事は悪くない。だけどそれ一本に行動を縛れば、相手からしてみれば楽で仕方ないわ。戦略の見つめ直しと、私達の再評価。一度目の反省会は、そこを議題にしておきなさい」


 言いたい事は言い切ったのだろう。突如、麗子の方から強いプレッシャーが発せられた。彼女が魔力を解放したのだ。


 姫野の魔力探知は神への呼びかけという一手間が入る。おまけに発動中は他の魔法が使えなくなるため、戦闘時にはとてもでないが使えない。


 しかし、そんな姫野でも感覚だけで分かるほどの魔力の動きだった。麗子が放出した魔力は彼女の指先のみに集約し、一つの実体を作り出したのだ。


 黒い光沢が輝く、高級そうな一品。それは一般名で言う所の万年筆であった。


「ほら、相手が動き出してるわよ。身構えてるままでいいの?」


 麗子に煽られるが、姫野は動けない。


 彼女の魔法は一度切り替えてしまえば、再発動にもう一度コストがかかる。発動中の玉祖命(たまのおやのみこと)であればまだマシだが、それだって無限にコストを供給出来るわけでは無いのだ。


 そのため今の彼女に出来る事は、麗子が攻撃に移るまでの間に無数の玉で彼女を包囲する事。それだけが後手捲りを基本戦術とする姫野が出来た、唯一の行動であったのだ。


「この行動も反省会送りね。みんなとしっかり共有する事」


 動けない姫野を後目に、麗子は淡々と準備を続ける。万年筆のキャップを開き、空中に円を描く。そうして描かれた楕円形の黒い輪は、まるで生き物かのように彼女の周りを周回し始める。


 まるで銃弾を身体に巻き付ける弾帯のようだ。右肩から左下にかけて、左肩から右下にかけて。それぞれ二つの弾帯を用意した麗子がニコリと笑う。


「ずっと源の方ばかり注目していたようだから、あえて言っておくわ。源が突撃してあげたのは、あなた達を思ってこの事。最初から私が動いていたら、二人共何も出来ずに完封されていたから」


 万年筆のペン先が、姫野へと向けられる。


「姫野、今から私は()()()()()()勝利するわ」


 黒き楕円が、姫野に向けて発射された。

次回更新は1/20の予定です。

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