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結界の穴

 驚愕に顔を強張らせたのは一拍。少なくない戦いへ身を置いてきた二人の悪魔殺しは、すぐさまそれぞれの迎撃法を以て熱線への対抗を始めた。


「ハアァッ!」


犠牲制圧(ぎせいせいあつ) 曼殊沙華(まんじゅしゃげ)!」


 マルティナは自身の槍を熱線に向けて投擲。さらに自らの数を操る始祖魔法を使用し、槍そのものの数を数百へと倍加させる。


 翔は自身以外の魔力を阻害する結界を周囲に生成。十字状の木刀をドーム型になるよう展開し、全方位への警戒を行う。


「マルティナ! どうする!?」


「うるさいっ! 今考えてる!」


 推定ラウラの魔法と思われる初撃は、それぞれが質量と魔法の力によって霧散させることに成功した。


 しかし、翔達がラウラの行動予測を見事に外したことは言い逃れの出来ない事実。本来なら防御もかなぐり捨てて、彼女の足止めに向かわなければいけないのだから。


「......飛んできたビームが一発ずつで助かったな。連射可能な魔法だったら、身動き一つ取れなくなる所だった」


 理由は分からないが、翔達に降り注いだ熱線はそれぞれ一発ずつ。これが絶え間なく降り注ぐ攻撃であれば、今もなお防御にリソースを割かれ続けていたかもしれない。


 安堵のため息を吐いた翔だったが、マルティナはそんな彼に辛辣な視線を向けた。


「......バッカじゃないの。大戦勝者の魔法がこんな生易しい魔法なわけないじゃない」


「はっ? それはどういう_」


「いくら悪魔の役を担ってるとしても、どこまで本気を出すかは本人の匙加減よ」


「だから! それはどういう意味なんだよ!」


「ああもう! ラウラさんは私達の実力を確かめるために、あえて戦略的にも魔法的にも下手を打ったってことよ! 要するに遊ばれてるの! それしかこの動きは考えられないわ!」


「んな!? 最初っから、手抜きで動く? それで足元を掬われたらどうするつもりだったんだよ?」


 翔としても、ラウラの実力は身を持って思い知っている。


 圧倒的範囲をカバーする変化魔法に、使うだけで相手の魔力をゴリゴリと消費させる契約魔法。この二つだけでも脅威なのは間違いない。


 だが、翔達だって戦いの中で成長しているのだ。いくらこの場が訓練だとしても、最初から遊び感覚で動かれるのはどうなんだと思ってしまう。


「簡単な話よ。ここまで下手を打ったとしても、私は負けないから。ただそれだけ」


「っ!」


「......ラウラさん」


 そんな翔の疑問に答える者がいた。ラウラ・ベルクヴァイン。翔達が足止めのために見つけ出さなければいけない相手だった。


 そんな彼女が数十メートル上空を浮遊して現れた。さらに先ほどの返答。マルティナの予想は当たっていた。ラウラは明らかに手を抜いていたのだ。


「いいんですか? その距離は犠牲制圧 曼殊沙華が展開可能な範囲です。結界に囚われれば、多くの行動が制限されることになりますよ?」


「やってみれば?」


 マルティナが挑発気味にラウラへ脅しをかけてみるが、やはり彼女は気にした様子を見せない。


 魔力を無効にする結界への対抗策があるのか。はたまた自身の言葉通り、単純な魔法勝負で打ち勝つ自信があるのか。


 腹の底こそ見えないが、一つだけ分かることはある。それは、彼女が潜伏のメリットを捨て去ったこと。


 マルティナの視線が翔へと向けられる。


「犠牲制圧 曼殊沙華!」


 その目くばせと共に、翔は結界の展開を開始する。


 範囲はもちろんラウラすら飲み込める半径数十メートル範囲の大結界だ。結界が起動さえしてしまえば、ラウラは内向きの変化魔法以外のほとんどの魔法を封じられることになる。


 同時に、マルティナが翼を生成して大きく後ろへと飛び下がった。犠牲制圧 曼殊沙華は強力な制圧魔法であるが、唯一の欠点として無差別に魔力を無効化してしまう点がある。


 マルティナの魔法も、ラウラに負けず劣らず外向きの魔力を多用する。結界内に居座っては、魔力が多いだけの置物と化すだけだ。


 そのため彼女は距離を置いたのだ。魔法の大半を失った彼女に、確実な有効打を与えるために。


 翔の結界は大きさを拡大すればするほど、効力の発揮にラグが発生する。この範囲であれば、数秒は自由に動き回られてしまうだろう。


 しかし、今のラウラの状態は晴模様(ゾニアオプシオン)。始祖魔法の熱線が翔を狙ったとしても、マルティナが迎撃することが出来る。


 加えて、彼が事前に展開した小規模の結界も生きている。犠牲制圧 曼殊沙華は、一度に使用する個数の制限がない。


 仮にラウラが動いたとしても、翔まで攻撃は届かない。


(足止めの形だけは整った......)


 この程度でラウラを抑えきれるとは思っていない。けれども、彼女に多くの制約を課したことだけはマルティナも確信していた。


「リグ」


 結界が起動するまでの数秒間、ラウラがやったことといえば、ビニール傘姿の相棒であるリグを空へと放り捨てたことくらい。


(この場で曲射を選ぶメリットはない。なら、ニナの言っていた火力の増大を狙った......? でも、アマハラの目の前には結界があって......)


 ラウラの行動から、マルティナは事前にニナから聞いていた魔法の準備を始めたのだと推察した。


 ビニール傘そのものである悪魔のリグを、まるで水晶かレンズかのように、太陽熱を操るツールにする。


 確かに魔法の性質を変えるという意味では、有効な手立てと言えるだろう。しかし、所詮は魔法なのだ。


 魔力が伴う攻撃は、犠牲制圧 曼殊沙華の前では威力が半減する。いくら火力が伸びると言ったって、結界内の翔を打ち抜けるほどではないはず。


(間違いないはず。間違いないはずなのに)


 何度試算を行おうとも、翔が倒れる可能性は皆無だ。だというのに、背筋に走る薄ら寒さが消えてくれない。何らかの見落としがあるように思えて仕方ない。


「ディーからも大熊からも、一戦目は全力で叩き潰してやれって言われてるの。だから、容赦をする気は無いわ」


 ラウラが淡々と、自身が結界に囚われる寸前だというのに淡々と言葉を紡いでいる。ことここに至っても、彼女は自身の敗北を微塵も想定していなかった。


 いや、ラウラは己の勝利を確信していた。


「教科書通りの対応。マニュアル通りの行動。それ自体を悪いとは言わないわ。けど、それって簡単に()()()のよね。そっちの司令塔気取りさん。いいの? 今から放つ魔法は()()()()()?」


「えっ?」


 突然ラウラから向けられた質問に、マルティナは困惑した。けれども、元来彼女は優秀な魔法使いだ。頭の冷静な部分を総動員し、先ほどのラウラの言葉を急いで分析する。


(......しまっ!?)


 そうして思い当たった。


 始祖魔法とはこの世に存在するナニカを操る魔法の総称だ。マルティナのように概念を操る始祖魔法もあれば、ラウラのように太陽光というエネルギーを操る魔法もある。


 ここで大切なのは、ラウラの魔法には魔力を伴わない力が存在している点だ。


 翔の犠牲制圧 曼殊沙華は、あらゆる魔力を霧散させることが出来る。あの大戦勝者の魔法ですら無力化することが出来る。


 だが、この魔法が無力化出来るのはあくまで魔力のみ。魔力の伴った血液を飛ばされれば、魔力の消えた血液を被ることになる。魔法で操る岩を飛ばされれば、魔力が消えた後も岩そのものは飛んでくることになる。


 ラウラの晴模様は、陽光を操る始祖魔法。翔を狙うように指向された魔力そのものは弾けるが、陽光そのものは勢いのままに彼へ突っ込んでいくことになる。


 リグによって熱量を収束させた極太の熱線が、無防備な彼に突き刺さることになる。


「アマハラ! 避けなさい!」


 咄嗟にあげた叫び声は、翔の顔を向けさせることまでは成功した。しかし、身体を動かすまでには至らず、大熱量が無防備な彼へと突き刺さることとなった。

次回更新は1/4の予定です。

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