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前大戦末期秘話

「バチカン市国って分かるかしら? イタリアの首都であるローマの北西に位置する世界最小の国よ」


「うん。ボクだってこれでも魔法使いだから。教会の総本山であり、悪魔祓い(エクソシスト)の養成所がある場所だよね」


 魔法使いの世界におけるバチカンは、最大宗教の総本山である他に、プラスの魔力を用いる奇跡を学ぶための養成所という意味合いも持っている。


「知っているなら話は早いわね。私の実家はそんなバチカンのすぐ下、ちょうどローマの中心街から外れた場所に建っているの」


「へ~、じゃあマルティナは都会っ子なんだ」


「そうでも無いわ。多くの国がそうであるように、首都からちょっとでも外れれば一面の畑なんて珍しくもないから。まぁ、可もなく不可もない程の町育ちというのが正しいでしょうね」


「そうなんだ。あっ! だとすると、マルティナの家って由緒正しきお家柄だったりするの?」


 十代という若さで悪魔祓いに所属する娘がいるのだ。そこには実力ももちろんだが、信頼に足るだけの家格が必要であるはず。


 そういった意味合いからニナは疑問を口にしたのだが、彼女の質問を耳にしたマルティナは若干表情に影を落とした。


「......そうね。長年に渡って重職に就いていたって聞いているわ」


「ゴ、ゴメンッ、もしかしてボク、変なこと言った?」


 マルティナの態度を見て、ニナは慌てて謝罪を始めた。


 幼少期から他人の悪意に曝されたせいか、ニナは感情の機微に鋭い。自身が何らかの地雷を踏んでしまったことを悟ったのだろう。


「別にニナは悪くないわ。ずっと昔に乗り越えたつもりだった傷口が、ちょっと傷んだだけよ」


「傷?」


「ねぇ、ニナ。たった今私は、長年重職に就いていたって言ったわよね?」


「う、うん」


「なら、おかしいと思わないかしら? どうして私がバチカン内に住んでいないのかって。仮にバチカンでは無いにせよ、どうしてローマの中心街に住んでいないのかって」


「あっ......確かに」


 バチカンは世界一狭い国土を持つ国として有名だが、少人数ながらも国内で生活する人間はいる。

そしてその多くは教会関係者に限定され、教会内の位も上位層に限られる。


 マルティナは自信家ではあるが、自慢好きなわけではない。彼女が重職に就いていたと言うのなら、実家は相当高位のポジションに位置していたに違いない。


 バチカンで寝食を許される位、そうで無くともローマの一等地に住むのが当然のはずだ。


「昔は住んでいたみたいよ。私が生まれる前くらいまでは」


「えっと、じゃあなんで」


「単純な話よ。お母様もお婆様も、そのまた昔のご先祖様も私にそっくりの性格だったってこと」


「......教会内で大喧嘩しちゃったってこと?」


 ニナが恐る恐ると言った雰囲気でマルティナに問いかける。そんな彼女に対して、マルティナは自嘲気味に笑うだけだ。


「ちょっと違うわね。どちらかというと、教会の教えに反してしまったと言う方が正しいかも」


「えぇっ!? じゃ、じゃあ、破門!? ......あれ? でも、それなら......」


「そう。破門された家が、いくら中心から外れると言ってもローマ内に住めるわけが無いわよね。ローマから付かず離されず、いったいどんな教えの背き方をすればこうなると思う?」


「......ごめん、分からない」


「いいのよ。分からなくて当然だから。まぁ、ヒントは出してあげましょうか。私達が生まれる少し前の時代、魔法世界ではいったい何があったかしら?」


 自嘲気味な表情こそ崩していないが、少しだけ調子は取り戻したのだろう。マルティナはニナにクイズを出し始めた。


「私達の生まれる少し前......。表の歴史で言うところの世界大戦末期の時代。単純な答えでいいのなら、人魔大戦真っ只中?」


「半分正解。もう半分は、人魔大戦も終戦が近付いていた時代ね」


「あっ、そうだね」


「あの頃は魔法使い達も希望に胸を膨らませていた。あれだけ表が悲惨だったというのに、裏の大戦はむしろ好調。じゅっく......チッ、当時の()()()()()の一角すら、悪魔殺しの犠牲なく討伐を果たした夢の時代だった」


 十君という言葉に秘められた魔力が邪魔くさかったのだろう。マルティナは舌打ちしながら、言い直した。


「ボクのご先祖様も参加していたらしいから聞いたことがある。みんながみんな母国のためではなく、悪魔を倒すことだけに尽力していた。人類は追い詰められたからこそ、無類の強さを発揮出来ていたって」


「えぇ。追い詰められたからこそ、団結出来た。追い詰められたからこそ、無類の強さを発揮した。けど、どちらかが相手を追い詰めたら、反対にどちらかが追い詰められるのは当然の話よね」


「えっ? それはどういう_」


「悪魔達は切羽詰まっていた。まさかあれだけ見下していた人間達に、ここまでの反撃を貰うなんて。同時に覚悟もした。これは派閥間で争っている場合ではないとも」


「な、なにそれ......? そんな話。ボクは一度も......」


「それはそうよ。教会が秘匿してしまったのだもの。まぁ、当時は仕方無かったのでしょうね。人類の希望たる協会本部。そこが悪魔の襲撃に曝されたなんてとんでもない凶事よ」


「......」


「守り切れたからこそ、こうして話をすることが許されている。というか、教会が本当に秘匿したかったのは、守り切った方法なんだもの」


「まさか、マルティナ。君は、君の家族は」


「これから話す内容は、とある一族のお話よ。誰よりも正義感が強く、誰よりも前線に赴き、そして勝利するためには手段を選ばない。そんな大馬鹿一族の話」

次回更新は12/23の予定です。

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