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大戦勝者の舞台作り

「んで? さっさと悪巧みの内容を聞かせて貰いてぇんだが、このチビはどうしてこんなに萎びているんだ?」


「どうやらつい先日、生まれて初めて親子喧嘩というものを経験したらしくてね。そのショックを未だに引きずっているらしい」


「何だそりゃ? むしろ、今までニナちゃんとぶつかり合いになったことが無かったのかよ? そっちの方が不健全だろ」


「私も今回ばかりは同感だ。というより、やっと保護者から親子の関係に進むことが出来たんじゃないかな」


「あぁ~。こいつ過保護な癖して、クール気取ってやがるからな。そのせいで近寄りがたい雰囲気は出来るし、今でも各国で暗殺計画が立てられてるってのに。いい加減性格を矯正すりゃいいのによ」


「......うるさい。さっさとディーと話を詰めときなさい」


 草木も眠る丑三つ時。日魔連事務所では大熊とラウラとダンタリアの三名が、来る大規模訓練に備えて事前打ち合わせを行っていた。


 本来であれば、あまり仲が良くない大熊とダンタリアの橋渡し役をラウラが担っているのだが、現在のラウラはまるで溶けたアイスのように机に突っ伏している。こんな様子ではまともな橋渡し役など出来ようはずもない。


 しかし、そんな彼女の不調があんまりな理由だったために、場の雰囲気はむしろ良好な状態と言えた。自分が無理をする必要が無いと感じたためか、ラウラは机に突っ伏したままだ。


「だとよ。さっさと詳細を語って聞かせな」


 普段から友人付き合いがあるラウラとダンタリア間は、とっくの昔に話を詰め終わっているのだろう。


 そうなればこの場で説明が必要なのは大熊一人のみ。くだらない口喧嘩で時間を潰せるほど彼も暇ではない。さっさと本題に入るようにダンタリアを促した。


「いいとも。まずはルールの確認だ。今回の演習は護衛戦。ラウラ達襲撃者側は、護衛対象である私を仕留めれば勝利。少年達護衛者側は、襲撃者側の全滅か一定時間の護衛成功によって勝利となる」


「......ツッコミ所は満載だが、まず護衛対象であるお前のスペックを教えろ」


「きっと少年が希望するだろうから、スペックはニンゲンの魔法使い程度に落とすつもりだよ。具体的には君達大戦勝者(テレファスレイヤー)に有効な魔法を一発放てる程度、もしくは何らかの魔法を三回ほど使える程度とする」


「俺達に有効打がある時点で、ただの魔法使いに納まるわけねぇだろうが! それに魔法を三回使えるだぁ?」


「どうかしたかい?」


「どうしたもこうしたもあるか! 何らかの魔法って言ってる時点で、その魔法が一種類に限定されないのはもちろん、強さや効力すら指定されてねぇじゃねぇか!」


「あらディー、気付かれたみたいよ?」


「本当だねぇラウラ。大熊も成長しているみたいだ」


「ガキの皮被った化け物共が! ぶっ飛ばすぞ!」


 そう、大熊が指摘したように、先ほどダンタリアが述べたルールはあまりにも穴だらけだ。


 まず第一に大戦勝者に有効打を放てる点。これは言ってしまえば、一発だけなら大戦勝者を仕留める魔法を放てると言い換えることが出来る。


 そもそもそんなニンゲンの魔法使いは存在しないし、下手をすればその一発で襲撃者側の人数が削られてしまう可能性がある。


 ラウラはへらへらと笑っているが、これは翔達悪魔殺しの訓練なのだ。ダンタリアがしゃしゃり出て大活躍をしてしまったら、せっかくの訓練が台無しになりかねない。


 そして第二に前者を放たない場合は、三回魔法が使える点だ。これも大熊が指摘したことだが、魔法の種類も効力も指定していないことが問題だ。


 例えば襲撃者側の誰にも破壊することが出来ない結界の起動、例えばラウラの雨模様に類似した移動能力、例えば一定時間あらゆる干渉を許さない魔法。


 使われた瞬間に襲撃者側が敗北する魔法は、頭に思いつく限りでもキリが無い。


 そして目の前のダンタリアは知識の魔王。あらゆる世界で一番魔法に詳しい存在であり、これらの魔法を使えないと断じる方が難しい理不尽な存在だ。


 この二つにしっかりと制限を入れない限り、始まった瞬間に修行は台無しになる。それを考えての大熊のツッコミだったが、そもそも始めのルール説明自体がからかいを多分に含んだものだったらしい。


 いつの間にか復活したラウラも合わせて、二体の化け物がイタズラっぽい笑みを浮かべながら大熊を小馬鹿にしている。


「済まない済まない。ラウラがどうしても大熊に嫌がらせをしておきたいと言ってきてね」


「おいチビ......どういうことだ?」


「だってニナと言い争いになったのは、そもそもがあんたのところの無茶苦茶が原因よ。子供のやらかしの責任は、親が負うべきでしょ?」


「な訳あるかボケ! そもそも翔とニナちゃんの付き合いにお前が顔を突っ込むこと自体が......あ゛あぁぁぁ! くっだらねぇ! こんなヘソ曲げたガキに付き合うほど、俺は暇じゃねぇんだよ!」


「ちょっと、どういうことよ!」


「ダンタリア、さっさと詳細を語れ! そんで当日までに、こいつを使い物になるようになだめておけ!」


「心配しなくても、ラウラは仕事をしっかりとこなすニンゲンだ。こと戦いに限って言えば、手札を減らしたことはあっても手を抜いたことは_」


「誰がチビの詳細を語れって言った! 訓練の詳細だ、訓練の詳細! あんまり適当をやってると、当日ボイコットも辞さねぇぞ!?」


「......別にその場合は、ジェームズ辺りに頼むわよ。でもいいの? ジェームズはともかく、()()()()はきっと煽り散らすわよ?」


 その時大熊の脳裏をよぎったのは、ジェームズの相棒である悪魔の顔。


 ラウラとダンタリア以上に悪戯好きであり、彼女ら以上に手を抜くことを知らないイゾルデが訓練に参加したらどうなるか。最悪の場合、翔達に自信を持たせるどころか自尊心を粉々に砕きかねない。


「あぁっクソが! 分かったよ! だからさっさと詳細を語れ! 天丼をしろって振りじゃねぇからな!」


「分かっているなら、最初からはいはい言っておけばいいのに」


「誰のせいだ誰の!」


「ふふっ、ラウラ、そろそろ大熊が爆発する頃だ。ここで私達が喧嘩をしたら、数キロ単位で更地になる」


「あぁ、それは申し訳ないわね」


「うん。だからいい加減、話を戻そうか」


「チッ...... 最初からそうしろってんだ」


「じゃあまずは魔法の指定だが、一度に限り君達が放った魔法をそっくりそのまま跳ね返す魔法としようか」


「ほう」


「範囲魔法の場合は?」


 頷く大熊と質問を行うラウラ。


 彼女の魔法はその大半が大規模魔法だ。その攻撃を全て返されてしまえば、ラウラ組はともかく大熊組が消し炭になる可能性がある。それを考慮した質問だったのだろう。


「私に向かってきた魔法だけを対象とする」


「そう、なら安心ね」


「そっちは問題ねぇな。次に三回使える魔法の方だ」


「こっちに関しては、少年達のいずれかが使える魔法に限定しようと思う。そうすれば、とっさの対応も少年達の判断力が優れていたためって解釈も出来るだろう?」


「......ふんっ、なるほどな」


「いいんじゃない?」


 これに関しては二人共文句は出なかった。


 ダンタリアが言う通りこれならある程度手札の想像が付くし、優れた魔法使いによる反撃という口実も立つ。翔達もダンタリア単体で大熊達をやりこめたとは思わないだろう。


「私のスペックは決定した。それじゃあ後は、フィールドの指定と行こうじゃないか」


「それについては文句はねぇが、指定つったって俺の自由が利く土地なんざ数えるほどしかねぇぞ?」


 現役の悪魔殺し、魔王、大戦勝者、相棒の悪魔。これらが一同に会して争いごとを始めるのだ。いくら訓練と言ったって、使用した土地が悲惨なことになるのは間違いない。


 更地になるのならまだマシ。下手をすればいつぞやのように正と不の魔力バランスが崩れることに繋がりかねないし、最悪の場合は魔力が一色で染められてしまう可能性もある。


 そうなればありとあらゆる意図しない魔法現象が発現するようになり、魔力生命体が生まれることすら可能性としてはゼロではない。


 その結果を喜ぶのは日魔連の一部の派閥のみ。一般人にとっては一切の利にならず、日魔連も所有権を巡って殺し合いを始めるだろう。加えて防人(さきもり)派などは均衡を乱したとして、大熊達に暗殺者を送り込んできても不思議ではない。


 訓練一つ取っても、悪魔殺しが使える土地は案外少ないのだ。


「あぁ、その点は心配しなくていい。君達に指定してもらいたいのは、土地の形だけだから」


「あ゛っ? てめぇ俺の話を聞いてたのか? だから、適当な土地でドンパチを始められたら_」


「こっちこそ言ってるじゃないか。君達には土地の指定をしてもらうだけでいいって」


 パチンとダンタリアの指が鳴る。


 そうして出現した物体は、大熊達にダンタリアの意図を伝えるのにピッタリの代物だった。


「お前...... まさか、こりゃあ......」


「なるほどね。ディー、流石よ」


「これなら土地の心配はいらないだろう? さぁ、指定は攻め手側の特権だ。せいぜい護り辛い環境造りを、知恵を絞って考えてくれたまえ」


 クスクスと笑うダンタリアを尻目に、二人は訓練に相応しい土地についての考えを巡らすのだった。

次回更新は11/5の予定です。

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