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敗者に似通った勝者の姿

お待たせいたしました。本日より第五章の更新を開始します。

「やぁ、ラウラ。今時間は大丈夫かい?」


「えぇ、ディー。大したことはしていないから大丈夫よ。どうかした?」


「その言い草じゃ、些細なことはしていたんだろう? 本当に大丈夫かい?」


「だから大丈夫って言ってるじゃない。別にゴミ掃除をしていただけよ」


「へぇ~。ちなみにどんなゴミだったんだい?」


「邪教よ、邪教。最近ヨーロッパを中心に、供物の国の信者達による誘拐事件が多発してるの。その拠点がウチの近くにもあったから、目障りになる前に片付けただけ」


「ふふっ、それは相手方も気の毒に。ラウラの縄張りを知らなかったとなると、先の大戦で随分と弱体化したようだ」


「まったくよ。せめてニナが本調子なら任せられたのだけど、家庭の問題真っただ中のあの子に人殺しを任せるのはいくら何でもね」


「おや? 風の噂では軟着陸に成功したと聞いていたのだけれど、まだ燻っていたのかい?」


「うぐっ...... ()()()()()()じゃなくて、()()()()()()が」


「ラウラ。子煩悩に文句は無いが、過保護はほどほどにしておきなよ」


「うぐぐ......」


「まぁ、先日人殺しの真似事を終えたばかりなんだ。そう何度も同族殺しをさせていては、血族の心も休まらないだろう」


「そう、そうよ! 私もそう思っていたの! だから今回私が出張ったのは、何もおかしく無いわ!」


「それだって、()()()()()()()に頼めば良かったと思うけどね。いくらあの子でも、ニンゲン相手には遅れを取らないだろう?」


「うぐぐぐっ......」


「お小言はこれくらいにして、本題に移ろうか」


「そう言えばそんな話だったわね...... 今度はどんな悪巧み?」


「なに、家庭問題を片付けたばかりの血族に、修行の場を与えてあげようと思ってね」


「ディーが? ニナに? 話が見えないのだけれど」


「地獄門の件は、もう知ってるかい?」


「......粗方は。あなたのお気に入りも、随分と痛めつけられたって聞いたけど?」


「うん、なら話が早い。少年も含めて、あの年代の悪魔殺し達は、有望であれど経験不足が否めない。このままだと今回のような()()()()()ではなく、近い内に致命的な敗北を経験することになるだろう」


「......続けて」


「だからそうなる前に、彼らを鍛え上げてしまおうと思ってね。悔恨、焦燥、再起、羨望。いずれの心にも成長への渇望が見え隠れする今こそが、次の段階に進むための大きな懸け橋になると思うんだ」


「......ふぅ、なるほどね。構わないわ。ただ、育ての親としては、あの無鉄砲と引き合わせるのはもう少しだけ待って貰いたかったのだけど。きっとあの子、情緒がメチャクチャになるわよ」


「依存症は抑えるべきだと助言しただろうに」


「し、仕方ないじゃない! まさか、あそこまで性格が似通ってしまうなんて思ってもみなかったんだもの...... そもそも私の血なんて、一滴も混じっていなかったんだし......」


「学ぶべき親が君しかいなかったのなら、君に似るのは当然だろう? まぁ、そこら辺は親である君が目を光らせればいいさ」


「むぅ...... というか! 目を光らせるにしたって、修行は日本で行うんでしょう? そんな遠くにいたら、どれだけ睨みを利かせても......」


「いやいや。実はラウラにもお願いしたいことがあってね」


「......なんか、すごく嫌な予感がしてきたのだけど」


「うん、いい勘だ。ラウラ、悪いけど()()になってくれるかい?」

__________________________________________________________


「翔君、具合はいかがかな?」


「......」


「......食事は部屋の前に置いておく。好きなタイミングで食べてくれ」


「......すみません」


「......それが何に対しての謝罪かは聞かない。けれどステヴァン様も含めて、翔君を悪く思う奴などいるわけがあるまい。一時間後にステヴァン様の方で話があるそうだ。出席は可能かな?」


「......もちろんです。出ます。いや、出席させてください」


「......分かった。ステヴァン様にも伝えておく」


 ボルコが歩き去っていく音が扉越しに聞こえる。


「っ!」


 その音が聞こえなくなった頃合いを見計らって、翔はベッドへ握りこぶしを叩き込んだ。


 国家間同盟騎士団との戦いから五日。重症を負った翔が目を覚ましてから三日が経過した。都市では多くの人間が失われし命との別れを済ませ、復興への道を歩みだしている所だ。


 けれども都市防衛の英雄であるはずの翔はそんなムードに迎合出来ず、用意された部屋に亀の如く引きこもってしまっていた。その理由は、彼がこの戦いを勝利ではなく敗北であると捉えている点が大きいだろう。


 滅ぼされてしまった二都市とは異なり、この都市は二体の悪魔と、その裏に潜みし一体の魔王の脅威に曝されながらも壊滅は免れた。悪魔二体の討伐にすら成功した。加えて後から聞いた話だが、地獄門の解放はほぼ不可能となった。魔法世界一般から見れば、これ以上ない勝利のはずだ。


 しかし、そんな勝利は翔の望んだ勝利では無かった。全てを守り切ることこそ、彼が望んだ勝利だった。


 レオニードは立派な領主だった。人々に愛された仁君だった。そして、翔の親しき知り合いだった。


 そんな大切な人の死に目に初めて立ち会ったというショック、自分の未熟さがそんな結末を生んでしまったのだという後悔。これらが翔の頭に浮かんでは消え、振り払ってもまた浮かんで、彼を憔悴させていたのだ。


「スンマセン......弱くてほんと、スンマセン......」


 今でもレオニードの最期が鮮明に思い出せる。


 致死性の魔法を食らいながらも、それでも他人を気遣った言葉を吐ける優しさ。ジワジワと肉体を蝕んでいく苦しみに曝されていたのだろうに、それでも弱音一つ吐かなかった強さ。


 いずれも自分に真似出来るとは思えない、肉体ではなく心の強さであった。


 そんな立派な最期を見せられたからこそ、余計に後悔が湧き上がってくる。もっと出来ることがあったのではと、理想のもしもを求めてしまう。


 こんな翔の様子を見れば、きっと多くの人間がそんなことは無い否定してくれたことだろう。けれど、今の彼にとってはそんな慰めすらも苦痛だった。ただ自罰的にこの痛みを感じていたかったのだ。


「一時間後って言ってたっけ...... ステヴァンさんもこんな俺なんかのために、大事な時間を割いてくれたんだ。顔を出さねぇと、たくさんの人の迷惑になる......」


 これまではステヴァン達も翔を見守るだけに務めていたが、その調子が二日三日と続いたことによって、メンタルケアが必要だと判断したのだろう。


 本当はもう少し引きこもっていたかった翔だったが、いつまでもタダ飯食らいを置いておくほど、都市に余裕が無いことも分かっていた。


「それに、マルティナのことも気になるしな......」


 戦いの負傷と魔法の副作用によって命の危機に瀕していたマルティナだったが、昨日遂に、多くの魔道具と外部から招いた魔法使いの力によって峠は超えたと聞いた。


 翔にとっては、マルティナもまた大切な仲間だ。そんな彼女のことは又聞きだけではなく、実際に聞いて安心したい。


 ステヴァンとの話し合いの場は、そうした面でも都合が良い。


「また同じことを考え続けてたせいで、時間が経っちまってる......」


 時計を見れば、すでにボルコと会話を終えてから二十分が経過している。


「作ってくれた人に失礼だ。嫌でも腹に突っ込まねぇとな......」


 食事の時間を考えれば、予定の時間までもう余裕はない。


 翔は急いでフォークを手に取るのだった。

次回更新は10/12の予定です。

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