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登場悪魔紹介 その四

60位 森羅の悪魔、繁茂のミエリーシ。


 動きやすそうな軽装に頭をすっぽりと隠す緑色のフード。その隙間から見え隠れするのは同色の髪であり、側頭部に存在するはずの耳は頭頂部で獣のソレと入れ替わっている。


 性格はお茶らけているようで計算高く、残忍。一つの都市の人間を皆殺しにしても、作戦遂行に必要な資源が手に入ったと喜ぶレベル。勝負事を何よりも愛しており、それは彼女の根源魔法にも良く表れている。


 所属国家である森羅の国が騎士団に所属していたため、そのまま騎士団の構成員として現世で行動を開始。同じ立場であるコッラーと共に瞬く間に二つの都市を落とし、二度目の襲撃では単身で都市内に潜り込むという荒技すら成し遂げた。


 そのままニンゲンに送り込ませた使い魔によって侵略を開始。指令役の使い魔の体内に通信端末をねじ込み、全襲撃ヵ所へ同時に指示を出すという恐ろしい指揮能力を発揮した。


 後はじわじわと前線を押し込み、その都度コッラーの狙撃で重要人物を撃ち抜いて、抵抗を許さず都市を落とすつもりだった。しかし、翔の擬井制圧(ぎせいせいあつ) 曼殊沙華(まんじゅしゃげ)によってコッラーの居場所がバレ、作戦を変更。


 自身すら囮となることで悪魔殺しを足止め、その間にカギの殺害を遂行しようとしたが、これまた戯れで生かしたニンゲンのせいで失敗。行動の隙を突かれ、マルティナに致命傷を叩き込まれる。


 もはや自分の手によるカギの殺戮は不可能。それでも緊急時に残しておいた作戦を無理矢理実行し、最後にはマルティナと相打ちになった。


 志半ばで討伐された彼女だったが、国許(くにもと)では歓待を受けるに違いない。少なくとも彼女以外の悪魔が顕現していれば、都市を落とすことなど夢のまた夢であったのだから。


再誕の森(エルヴィルーン)


 指定した地点にマークを施し、その地点の所有権を手に入れるたびに様々な恩恵を得る根源魔法。所有権を手に入れるには、自身と使い魔以外の生命が存在しない事、戦闘が起こっていない事等の条件がある。


 さらに副次的な恩恵として、魔法発動圏内における自軍の戦力比、討伐数、進軍スピードなど事細かな情報を手に入れることも可能。ミエリーシはこちらの効果も活用して、都市内を徹底的にいたぶり続けた。


 指定した地点の制圧率が一定の段階を超えるごとに、特別な恩恵も手に入る。五パーセントで樹木の発生権を、十パーセントで強化された使い魔の製造権を、十五パーセントで強力な樹木の操作権が手に入る。


 しかし、これらはいずれも魔法の範囲内でしか使用出来ない恩恵であり、彼女が外で連れ回していた使い魔はいずれも通常の条件で生み出した個体。そのため人類サイドが危惧したような一騎当千レベルの使い魔の大量発生は、まだまだ先の事態だった。


 ステヴァンが都市外で戦った強力な個体も、ミエリーシの使い魔ではなく星の魔王によって生み出された個体。あの個体のおかげで騎士団は足止めに成功したが、あの個体のせいで人類を賭けに走らせるきっかけになってもしまった。


 ミエリーシが望んでいたのは、真綿で首を絞めるような小さな抵抗も許さない完全な盤面制圧。それを実現させるためにはステヴァンを都市内へと戻し、指令役として縛り付けておくのが最善だったのだ。


 星の魔王の気紛れさえなければ、人類側はもっと窮地に立たされていたかもしれない。 


円環と再生(プレアヤンダミネ)


 ミエリーシの所有する召喚魔法。魔法が扱えず能力も使い魔クラスに限定されるが、十数種類の獣型使い魔を生み出すことが出来る。

 これらの使い魔は見た目こそモデルとなった動物と変わらないが、命令を理解するだけの頭を持ち、例え肉体が崩壊しようとも命令をこなす忠実さを兼ね備える。


 また、製造時に肉体を構成する物質を捧げることで、生産に必要な魔力を軽減することが可能。都市一つ分の命を使用したとなれば、悪魔殺しでも手こずるほどの使い魔軍団が生まれてもおかしくはない。


 眷属と異なり、使い魔は本体の悪魔が討伐されても消滅はしない。陥落した都市の解放には、数年の月日を必要とするだろう。


 ミエリーシはこの魔法と根源魔法の効果を融合させることで、強力無比な使い魔軍団を生み出した。彼女の真名が示すは自然の繁栄。()()()()()()を象徴する彼女だからこそ、代表に選ばれる逸材だったのだろう。




昇華以前


 生前の彼女は、貧しい寒村の生まれだった。冬場は当たり前のように餓死者が多発し、資源の奪い合いによって村同士の抗争が絶えない地獄。そんな場所で生まれ育った彼女は、ある日貧しさゆえに森の中に置き去りにされた。


 幼子が森に捨てられる。その地域一帯では実にありふれた話であり、末路にも大きな差異は無い。死因は餓死か、凍死か、はたまた獣の餌食になるかの三択のはずだった。


 しかし、彼女はいずれにも選ばれなかった。彼女の柔らかい肉に牙を突き立てる筈だった獣達は、率先して母乳を与えた。冬場に果実を作るはずの無い樹木達が、自らが枯れ果ててでも(みの)りを生み出した。


 そう、彼女は生まれながらにして森を支配する魔法使いだったのだ。


 人に捨てられたことと森の王になったこと。この二つは少女の有り方を歪めるのに十分だった。


 数年かけて森の全てを治めた彼女は、恵みを求めて立ち入った狩人や村人達に試練を課すようになる。ある日は女鹿に、小鹿の仇はあいつだと吹き込み襲わせた。ある日は森の木々に願い、伸ばした枝によって迷路を作り上げた。


 明らかに常識から外れた森の計らい、それでも人々は少ない恵みを求めて森に入らざるを得ない。ここで立ち入った村人全てを殺めるような邪悪であれば、昇華後の彼女はもっと矮小な悪魔だっただろう。


 しかし、彼女はそれを選ばなかった。殺意持つ女鹿を返り討ちにした狩人には、抱えきれないほどの鹿の生肉を。命からがら迷路を抜け出した村人には、籠いっぱいの恵みを。


 彼女の存在は人々にとって邪悪であった。しかし、彼女が課す試練はどこまでも平等であったのだ。いつしか人々は森に挑む者達を勇者と呼び、彼女のことを厳しくも慈悲深い森の女神と呼んだ。


 信仰と畏れ、それはとある国家に所属するための最低条件である。もし、彼女の名が一つの森を巡る数十ヵ所の寒村に収まらず国を跨いで轟いていたら、所属する国は森羅などではなく十位の国であったかもしれない。


 けれども、彼女は道半ばで魔法使いに討伐された。髭面で淫猥(いんわい)で、とても勇者とは呼べない老爺によって討伐された。


 この事態が無ければ、彼女はさらなる力と星の魔王如きに左右されない権力を有していただろう。しかし、これはもしもの話。実際の彼女は森羅の悪魔の一国民に過ぎない。


 しかし、それでも彼女の名は轟くはずだ。あまりにも無様を曝した先代代表と異なり、多くの人々の心に恐怖を植えつけたのだから。





 61位 零氷の悪魔、白霊のコッラー


 ミエリーシ同様に頭部をすっぽりと覆う白色のフード付きコートと、常に周囲に発生する冷気が特徴の男性型悪魔。吐息からも冷気は放出され、魔力を込めれば触るだけで対象を凍らせることも可能。


 性格は忠実な仕事人。何よりも任務の達成を最優先にし、そのためならば自身の討伐すら気にしない。あまり口が回る方ではなく、よくミエリーシにはからかわられ、星の魔王からは有能な彼女の代わりに圧力をかけられている。


 ミエリーシ同様、所属国家の意向に従い人魔大戦に参戦。持ち前の狙撃能力と魔法を活かし、短時間で一都市の陥落を成功させる。


 その後にミエリーシと共に挑んだ三都市目の攻略でも、後方から狙撃を行うことで前線を混乱させ、悪魔殺し達の集中を乱すことに成功した。


 しかし、翔の擬井制圧 曼殊沙華によって根源魔法が看破される事により状況が一変。近接戦闘に持ち込まれ、都市への援護射撃を完全に封じられる。


 それでも技術と魔法、とっておきの隠し玉によって翔をあと一歩まで追い詰めることに成功するが、最後は参戦してきたステヴァンの魔法に対応しきれず討伐された。


 だが、討伐寸前に彼が都市に向けて飛ばした眷属、その活躍によって都市内に星の魔王を顕現させることに成功する。戦果を考えれば、彼の最後の選択はまさに妙手と言えただろう。


ただそこに在る者(ルミエッタアーヴェ)


 コッラー本人が視認されていない状態であることを条件に、彼が発するあらゆる気配を滅茶苦茶に発現させる事が出来る根源魔法。都市全土の認識に働きかけることも可能であり、この魔法によって彼は姿の見えない()()()()()()()


 上記の能力の他にも、個人を指定して認識をずらすことも可能。その場合はさらに強力な気配偽装が可能となり、使用された翔は、まるですぐ真後ろにコッラーが存在するような違和感に襲われながらの戦闘を強いられた。


 この魔法の明確な弱点として、視認される事が上げられる。


 意識的、無意識的に関わらず、視認された時点でこの魔法の効力は消滅してしまう。そのため、そもそも人の往来が少ない場所でしか使うことが出来ない。そういう意味では、砂漠は彼にとって理想の狙撃点だったと言える。


 また、気配を偽装するだけであり、事実を歪められない点も弱点の一つ。彼が何かの拍子に缶を蹴り飛ばしてしまった場合、蹴り飛ばした気配や転がる音は偽装出来るが、缶が動いた事実を歪めることは出来ない。


 この弱点を利用され、ステヴァンの使い魔による飽和攻撃によって、彼は引くに引けない状況を作り出されることとなった。


雪那の墓氷(ルミナスコリアクシ)


 自らが止めを刺した生命の死体を、冷気振りまく氷像へと変化させる契約魔法。コッラーはこの魔法を駆使して、頭数という都市の戦力を逆手に取った。


 また、負傷を与えただけでもこの魔法は発動し、被害者の身体をゆっくりと凍結させる呪いと化す。しかし、そのスピードは戦いの中においては遅きに失するため、もっぱら前者の利用法のみが用いられる。


 そして翔との戦いで用いたように、この魔法は敵味方の区別を問わず発動が可能。この特性を利用して、コッラーは戦場に冷気を振りまいた。



深淵の冷気(コキュートス)


 零氷の悪魔達がよく用いる、ごく一般的な始祖魔法。温度に働きかけ、例え砂漠のど真ん中であろうと瞬時に対象を凍結させる。


 コッラーはこの魔法を主に弾丸の生成に使用していた。自身の魔力が籠った狙撃で止めを刺し、犠牲者を雪那の墓氷で氷像へと変える。このコンボこそが、ただの狙撃手を都市を制圧可能な大戦力へと変じていたカラクリだった。


 太古の時代において、冷気とは死の象徴だった。恵みを減らし、生物の姿を隠す冷気は大いに恐怖され、零氷の悪魔達に繁栄をもたらした。


 しかし、時代の流れは人々から冷気の恐怖を忘れさせた。発展は吹きすさぶ冷気以上の温もりを与えるに至った。そして、零氷の悪魔を発展させた太古の魔王と悪魔達は、とっくの昔に魔力へ還っていた。


 現状に胡坐をかいた零氷の悪魔の衰退は、必然だったのだろう。


意思持つ引き金(ノントリガー)


 中世に生まれた力の悪魔、残響が生み出した召喚魔法。引き金を引いて弾丸を発射する道具を、獣型の眷属へと変える魔法である。


 残響はニンゲンが生み出した銃という道具に、強い執着を持った。相手を一方的に仕留める優越感、防御を無視する破壊力、音が魂に刻み込む恐怖など、どれを取っても最高の道具だった。


 何としても銃が欲しい。しかし剣などとは違い、一丁の銃が人類史に名を遺すほどの恐怖を与えることは滅多に無い。マイナスの魔力が充填されていなければ、魔界に銃は落ちてこない。これではいつまでも手に入らない。


 そこで彼は考えた。無いのであれば作ってしまえば良いのだと。


 (つるぎ)の悪魔達の中でも、自身が生み出した使い魔を悪魔へと至らせることに心血を注ぐ鍛冶派。その内の飛び道具を専門としている悪魔に頼み込み、彼は遂に銃を手に入れることが叶った。


 しかし実際に使ってみると、両手は塞がるし、対悪魔では火力が足らないし、そんな武器では恐怖も得られないで良いところが一つもない。


 求めていた物とは何もかもが違った。それでも彼は銃の可能性を捨てきれなかった。


 そうして生み出されたのが、この召喚魔法である。


 眷属そのものに弾丸を放たせることで、両手が塞がることを回避した。眷属へと変えることで、弾丸の威力が向上した。そのおかげで大量の恐怖を手に入れ、彼と彼の生み出した軍団は遠距離から命を奪い去る恐怖の軍団として、悪魔史に名を刻むことすら叶った。


 現在でも彼の眷属から悪魔へと至った者達は、剣と力の国に多数存在する。それほどまでに、彼の生み出した軍団は画期的で強力だったのだ。


 余談だがこのような経緯もあり、この魔法には実物の銃が必須だ。コッラーは自身と共に魔界に落ちてきた二丁の銃に、この魔法をかけたのだ。





59位 星の魔王、軌跡のオリアス


 どこまでも尊大な態度を崩すことは無い、ライオンの頭部を持つ異形の悪魔。太古の戦いを知る始まりの悪魔の一体でもあり、その態度を取るだけの実力も十分に有している。


 都市の戦いでは、森羅の悪魔の計画を軽んじながらも静観。戯れに眷属を放ったりこそしたが、それ以外は潜伏を続けていた。


 そして戦況が完全に傾いた段階で、コッラーの使い魔によって都市中心に出現。瞬く間に結界を生成すると、レオニードを殺害して去って行った。


 その後は人間達の追跡を完全に撒き、どこかへと逃走した。


 悪魔が永きを生きるにはコツがいる。そのコツとは決して戦いの強さではなく、確実に逃げ切る手段を用意していることだ。オリアスも、そして知識の魔王ダンタリアも、本気で逃げられたら人類どころか悪魔でさえ追跡するのは困難だ。


 だからこそ彼らは生き残った。そして全盛を継続しているのだ。


 例えこの手段が割れた所で、彼ら二体は困ることは無いだろう。真の逃走手段とは、分かっていても防げないものなのだから。



星の真名(アスタリスム)


 星の魔王が用いる根源魔法。指定した軌跡を己の魔力で描くことで、あらかじめ用意された眷属を即座に呼び出すことが出来る。この魔法で生み出される眷属は、いずれも下級悪魔一歩手前レベルの強力な眷属である。


 そんなものを生み出せば即座に魔力切れや魔法の使用不可状態になってしまいかねないが、オリアスの魔法は眷属をストックしておくことが可能なのだ。


 呼び出すまでは彼の魔力は圧迫されず、あらかじめ生み出した眷属のため、討伐されても痛くない。これらの効力によって、オリアスは狼、水瓶、サソリと複数の強力な眷属を操ることが出来たのだ。


 また、呼び出す際には自身の魔力と描く軌跡さえ合っていれば問題は無い。そのためオリアスはコッラーに魔力を付与した弾丸を預け、静観に徹していたのだった。


 それでも此度の戦いは撤退した。あまりにも単純なトリックに引っかかった。


 彼は今頃、憎悪の炎を燃やしているだろう。その炎はいつか、どこかへと燃え移ることとなるだろう。


 騎士団は今も健在しており、いまだに主力達の半数は顕現にすら至ってないのだから。

これにて第四章は完結です。お付き合いいただき、ありがとうございました。


今までと同様二週間のお休みをいただき、次回第五章、勝者踏み越えし先の景色は10/8更新開始となります。これからもこの物語を楽しんでいただけたら幸いです。

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