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番外から転がり込んだ駒

「おい! 今の話は本当なのか! おい! おい! くっ、ダメです。返事が返ってきません。先ほどの破砕音を考えるに、大規模な魔法攻撃に巻き込まれたものかと」


「......所詮私達には無事を祈ることしか出来ない。それならばもたらされた貴重な情報を一刻も早く、良い形で各方面へと伝達するべきだ」


「......そうですな」


 刻々と切り替わっていく各地の戦局、その内の一局からもたらされた情報の大きさにボルコとレオニードは頭を悩ませていた。


 もたらされた情報は、森羅の悪魔、繁茂(はんも)のミエリーシが振るう根源魔法の本質について。そして、その根源魔法によって遠くない未来に戦局が一変することについてだった。


「戦況を覆すたびに多大な恩恵を得る魔法。条件だけを見るのなら、ごく一般的な契約魔法と言えるが」


「得られる()()()()()が、まさに根源魔法ですな。推測が入り混じっているでしょうが、たったの五パーセント制圧するだけで、半永久的に使い魔を生み出すことが可能になる。これが脅威にならぬはずが無い」


 本来の使い魔とは、主の魔力を消費して生み出すものだ。そのため数を揃えるとなればその分魔力が必要となり、回復を挟みながらであれば、相応の時間を必要とする。


 だが、森羅の使い魔は違う。魔力を回復させる時間も、そもそも生み出すための魔力も、なんなら本人が関与する必要さえも無い。


 生産ラインに沿った商品を無限に生み出し続ける工場。こんな不条理がまかり通っていることこそ、根源魔法の恐ろしさなのだ。


「......わざわざ戦況を覆すたびと言ったのだ。逆転された際のリスクも相応の物が予想されるが」


「だからこそ奴は、自身を優秀な謀略家へと育て上げたのでしょう。逆転されればリスクが舞い込む。ならば事前に、そもそも逆転されないほどの完璧な盤面を作り上げてしまえばいい」


「相手の性格だけでそこまでを見抜く。それこそ奴ほどの戦略眼が無ければ難しい話だ」


 あまりにも強力な恩恵ゆえ、効力が反転した際のリスクも相応の物と予測を立てる二人。しかし、そのリスクをミエリーシに背負わせるには、あまりにも盤面が苦しすぎた。


 今もなお各方面では、悪魔殺し達と魔法使い達が死力を尽くして戦っている。だが、無限湧きする使い魔が相手であれば、有利は得られても勝利は難しい。


「それにあの小娘からもたらされた、もう一つの情報もあります」


「あぁ。これでステヴァンからの情報にも納得がいった。小さな林なら、そこに住めるのは小動物がせいぜいだ。だが大きな森の中では? さらに大きく、魔力が満ちる森の中では? まさに真名にふさわしい()()と言うわけだ」


「こちらをじわじわと()め上げるに(とど)めるわけです。防衛戦を徹底させるだけで、破産させることが出来るのですから」


 通信が途絶する寸前にマルティナからもたらされた情報。そしてレオニード達の頭を悩ませている大半の理由が、この情報だ。


 制圧率の上昇による恩恵。その中でも十パーセントを突破した際の恩恵である強化使い魔の生産開始が、何よりも恐ろしい恩恵であるのだ。


 今まで悪魔殺しがいない拠点が防衛線を保ち続けていられたのは、森羅の使い魔に魔法を用いる個体がいなかったおかげだ。


 これまで向かってきた使い魔は、言ってしまえば所詮は凶暴な獣の群れ。どれだけ死に物狂いの突進を仕掛けて来ようとも、どれだけ連携に優れていようとも、やっていることはフィジカルに任せた正面突破に過ぎなかったのだ。


 だが、その個体群の中に魔法使いが混じってしまえば、一気に話は変わってくる。


 使われる魔法によっては即死の可能性を考慮しなければいけない、防衛線をすり抜けてくる可能性を考慮しなければいけない、付近の使い魔を強化する可能性を考慮しなければいけない。


 そして、そんなことを考え出したら、防衛はままならない。間違いなく防衛線は崩壊してしまう。


 そうなってしまえば、後は攻め込まれた都市の二の舞だ。じわじわと制圧拠点を増やされ、最終的には同じ末路を辿ることになるだろう。


 そうならないために、やらねばならぬことは分かっている。


「制圧された拠点の解放。それも使い魔達を生み出している拠点の解放を優先しなければ我々に勝ち目はない」


「ですが、すでに使い魔の巣窟と化した場所に向かうであろう兵士達は、まず助かりますまい。加えて解放すべき拠点の具体的な位置は分からず仕舞いであり、防衛ラインをギリギリまで下げたとしても、多くの人数は割けません」


「そうだ。何をするにも、我々には一手が足りていないのだ。せめてステヴァンが都市内部に戻れていれば......」


 やらねばならぬことは分かっているのに、それを成すだけの人材が足りていない。二人が頭を悩ませながらも、実行の指示を出せない理由であった。


 きっとそこまで理解しているからこそ、わざわざミエリーシはべらべらと、自分の魔法について語っていたに違いない。


 そのまま防衛戦を続けるままであればそれで良し。打って出てくるのであれば、それだけ防衛線の崩壊が早まってくれる。


 リスクになり得る悪魔殺し達は全員縛り付けている。そうなれば情報を漏らすことは、リスクでは無くメリットへと変わるのだから。


「せめて、せめてあと一つだけでもこちらの利となる要素があれば...... そうなれば打って出れるというのに......!」


 戦いが始まった当初と比べれば、人類陣営には僅かな希望の光が差し込んでいる。


 防衛ラインの確立、翔とマルティナによる悪魔本人との決戦、悪魔達の所持する魔法の詳細など、勝利に必要なパズルのピースは一つまた一つと組み合わさっているのだ。


 だが、希望の光を掴み取るにはあと一手が足りていない。謀略によって散々に削り取られた一手が足りていないのだ。その一手を掴まなければ、ここからの行動は無茶では無く無謀、あるいは無理矢理な破滅的行動に過ぎなくなる。


「......ボルコ、そろそろ時間切れだ」


「......レオニード様」


 けれど、頭を悩ませているだけでは何も解決しない。むしろ状況は時間が進むたびに不利へと傾いていく。


 マルティナからの連絡を受けてから、まだ防衛線側で強化使い魔の発見報告は来ていない。だが、それがいつまでかは分からないのだ。


 ならば例え無理であろうと、下がれる余裕がある内に、攻められる余裕がある内に行動は起こさなければいけない。


 レオニードが口元を苦渋に引き結びながら、決断を使用とした時だった。


 突然ボルコの端末が音を立てたのだ。画面にはこの建物の防衛任務に当たっている筈の、隊長の名前が表示されていた。


「ボルコ様」


「どうした! 何かあったか!?」


 緊急事態かと慌てた様子でボルコが返事を投げかける。しかし、当の電話をかけた隊長は、なぜか煮え切らない困惑気味の声音をしていた。


「いえ、それが、なんと言いますか......」


「なんだ! いったいどうしたかはっきりと言え!」


「その、先ほどこの建物の前に、不審な男が現れまして......」


「不審な男?」


「はい。なんでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと。ここのトップにどうしても伝えたい情報があると言っているのですが......」


「何だと?」


 それは悪魔の(たわむ)れが起こした一手だった。謀略によって手数を奪われた人類陣営に、本来は存在しないはずの一手だった。

 

 誠実さと生存能力に長けていただけの魔法使いでもない男が、盤外から新たな一手として参戦しようとしていた。

次回更新は7/18の予定です。

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