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見えない敵を見抜く無茶

「気配をめちゃくちゃに発現させる魔法!? そんなのどうすりゃいいんだよ!」


 ずっと零氷の悪魔を探し続けていたマルティナからの解答、それは二人の士気に影を落とすには十分な情報であった。


 魔力、銃声、おそらく単純な生活音に至るまでの全てをランダムに発現させる。狙撃手がそんな魔法を使用するという脅威は計り知れない。


 見つけられない。その一点だけでも、狙撃手にとっては大きなアドバンテージだ。


 前衛を味方に任せることで、自身は永遠に後方支援を行うことが出来る。相手の防御の隙を突くことが出来る。遮蔽物に隠れることを強要することが出来るのだから。


「......これだけ強力な隠蔽魔法よ。おそらく姿だけは偽装できないと思う。けど、その姿を捉える至るまでの足掛かりが何もない」


 悔し気に奥歯を噛みしめるマルティナ。


 自身と翔という特記戦力を遊ばせておきながら、何の成果も得られなかったことに歯噛みしているのだろう。


「でもっ! お前が零氷の悪魔を探し始めなければ、そんな事実にも気付かなかったじゃないか!」


 どうにかマルティナをフォローしようと、慰めの言葉をかけた翔。しかし、この慰めが何の意味も成さないことは彼自身も分かっていたし、言われたマルティナ自身も痛いほどの分かっていることだろう。


「気付くか気付かないかなんて、この際どうでもいいのよ! 問題は零氷の悪魔を探し当てる手段が私達には無いってことよ!」


「......くそっ!」


 ずっと零氷の悪魔を探し続けていたマルティナだ。気配を偽装するという一点においてのみ、相手の魔法が無類の強さを発揮するのは一番理解しているだ。


 だが、それを理解したところで盤面は変わらない。悲劇は終わらない。


 優れた謀略家でありながらも前線指揮官もこなすことが出来る森羅の悪魔、自身の気配を完全に偽装する狙撃手である零氷の悪魔。この二体を討伐しない限りは、人類に勝利は訪れないのだ。


「......マルティナ、森羅の悪魔の居場所は分かるか?」


「そっちは把握してる。でも、二人がかりで討伐しに行くなんてふざけたことは言い出さないで。そうなった瞬間に、あっちは全力で逃走を始めるわ」


「っ! それでも、俺達の翼があれば!」


「零氷の悪魔の狙撃と使い魔の群れを掻い潜りながら? そんなの適当にあしらわれるのがオチよ! せめて二体の悪魔が連携を取れない状況を作れなければ、被害だけが加速することになる!」


「......ちくしょう!」


「アマハラに頭脳労働は頼んでいないわ。あんたの役割は私を守り切ること。......だから、もう一度探させて」


 じわり、じわりと真綿で首を絞められるかがごとく、各地の状況が悪化していっている。


 都市内の守りは意図的に削られ、頼みの結界も機能を活かす前に停止させられた。レオニードがまだ存命であるのは、偏に悪魔達が慎重であるが故だ。


 ゆっくり、ゆっくりと制圧していき、イレギュラーや伏兵を許さない。そんな悪魔達だからこそ奇跡的にレオニードの首が繋がっているだけだ。むしろ、そんな悪魔達が相手だったからこそ、ここまでの窮地に立たされているとも言えるだが。


 詰将棋のようにじわじわと勝利を重ねていく相手に勝つには、予想外の一手か相手の包囲を食い破る圧倒的な暴力を示すしか無い。


 その内の予想外の一手は、稀代の謀略家である森羅の悪魔に全て潰された。ならば、残されているのは暴力しかない。悪魔に対抗する希望の力、悪魔殺しの戦闘力しか残されていない。


 しかし、そんなことは悪魔達も承知している。だからこそ、彼らは勝負の舞台に立たない。魔法を以て、戦術を以て、人心を以て、巧みに悪魔殺しとの対決を避けている。


 彼らの目標はあくまでカギであるレオニードの殺害。その一点のみを考えるのであれば、実に有効な戦略と言える。しかし、だとしても悪魔は力を誇示したがるものだ。人間を徹底的に見下し、油断するものだ。


 それが此度の悪魔達には一切ない。まるで命令に忠実な特殊部隊が如く、まるで神の意思を代弁する宗教家の如く、徹底して作戦の遂行のみを優先していた。


 これでは暴力の使いようがなかった。優れた暴力は、対象に振るわれて初めて力として機能するのだから。


(......このままじゃダメだ。このままじゃレオニードさんだけじゃない。ボルコさんも、この都市に暮らす大勢の人達もみんな犠牲になっちまう!)


 マルティナが現状を変えるのに苦心し、歯噛みをしているように、翔もまた、何も出来ない自分の無力さに苛立ちを覚えていた。


 翔の魔法は多くが悪魔と一対一で戦うことを想定した魔法であり、このように逃げ回り、隠れ潜む悪魔が相手では全く機能しない。唯一機能しそうなものは今もマルティナと自分を守る結界魔法、擬井制圧(ぎせいせいあつ) 曼殊沙華(まんじゅしゃげ)だが、この魔法はとにかく燃費が悪い。


 いくら翔が魔力量に優れているとしても、都市全域を覆うほどの結界を使用などすれば、一瞬の内に魔力が枯渇してしまう。


(見つけられない零氷の悪魔、そのせいで捕まえきれない森羅の悪魔、二体を討伐しない限り都市は救われない。考えろ、考えるんだ。正攻法はマルティナが考えてくれる。俺が考えるべきは抜け道、もしくは俺だからこそ出来る()()な方法だ)


 散々格付けされたのだ。今更作戦の立案能力でマルティナに敵うとは思っていない。だから正攻法においてはマルティナの指示に従うだけでいい。


 けれど、それではこの盤面を返すには至らない。だからこそ翔は回転の鈍い頭を必死になって回すのだ。どんな無茶な方法だろうと、どれだけ後に負債が回ってこようと。


 お互いを思うレオニードとステヴァン、毎日を必死に生きる都市の人々、彼らが死すことで終わりが近づく世界、スケールこそ違えど、そのどれか一つでも悲劇に変わることは決して許せなかったから。


「......あっ」


 そんな裏技ばかりを模索していたからだろう。マルティナよりも早く、翔の頭にとっておきの無茶が舞い降りた。


「なに呆けてんのよ! 今はそんな場合じゃ_」


「マルティナ! お前が前に言っていた魔法、あれって俺にも使えるのか!?」


 思い出したのはマルティナと二人きりで行った一つの会話。


 都市の門を二人で眺めていた際に何の気まぐれか話してくれた、彼女の新たな魔法についてだった。


「は、はぁ!? ......そ、そりゃあ、使えなくは無いけど」


 困惑しながらも答えてくれたマルティナ。その答えだけで十分だった。


「なら悪ぃ、今から準備をしてくれないか」


「......何に使うってのよ?」


「決まってるだろ。このクソったれな盤面をでっかくひっくり返すためだ」


 そう言ってマルティナに告げられた作戦内容。その内容は流石の彼女と言えども驚愕せざるを得なかった。


 だが、そんな表情を見たことで、翔は作戦の成功を確信する。


 レオニードという名君の話に付いていくことが出来る彼女が驚愕した。それすなわち、レオニードほどの頭脳を以てしても、そして彼と知恵比べを続ける森羅の悪魔にも思いつかかもしれない、あまりにも力技な奇策だったということになる。


 だからこそ、実行する意義がある。


 無茶をするのはいつものことだ。そして、そんな無茶で盤面を返せるのなら、翔に実行しないという選択は存在しなかった。

次回更新は6/4の予定です。

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