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カギとしての生

「今入ってきたのは、魔道具搬入用のトラックだ。いくらこの都市に魔法使いが多いといっても、自給自足には程遠くてね。戦闘用の魔道具を各地からかき集めているんだ」


「その、レオニードさん」


「どうかしたかい?」


「いくら何でも、理由を教えてくれませんか?」


 突然始まった面と向かったレオニードとの話し合い。翔には彼の目的が分からなかったし、彼がただの思い付きでこれを実行するほど愚かな人間ではないことも理解していた。


 だから翔は理由を欲していた。こんな奇妙な行動をレオニードが取った理由を。


「君と世間話がしたかった。これではダメかい?」


「ダメですよ。申し訳ないですけど、俺には政治は分かりませんし、今がどれくらい切羽詰まった状況のなのかもはっきりとは分かりません。けれど、あなたくらい偉い人が世間話で時間を潰して良いほど、余裕があるとは思えません」


 取って付けたかのような理由を、翔は首を振りながら否定する。


 別にレオニードと面と向かって話し合いをするのが嫌なわけではない。だが、彼は翔達の人となりを知りたかったという理由で、襲撃を企てた過去がある。


 その件については許したが、それでも理由の伴わない行動には不信感を抱いてしまうようになってしまっている。彼は指導者として見れば、賢君で名君だ。だが、それが必ずしも翔に害を為さないとは限らない。


 得てして名君とは、正しき選択を即座に下せる人間を指す。それは、必要な時に必要なものを切り捨てられると言い換えることも出来る。


 突然の話し合いと称して、翔と二人きりの時間を取ったレオニードの思惑。それを見極めるまでは、翔も不用意な行動を取るわけにはいかなかった。


「困ったな。話し合いをしたいというのは本当なんだが......」


「ならせめて、話し合いの内容を話してくださいよ。世間話ってジャンルだと、悪魔との戦いが目前に迫ったこの場所も世間と言えますし、何も知らなかった頃の俺が過ごしていた日常も世間になってしまいます」


「ははっ、それもそうか。ふむ、それなら今回の世間話が指す世間、それは悪魔の影も形も無いこの地の日常としようじゃないか」


「地獄門に誰一人興味を示さなかった世界の話ということですか? それとも魔法すら無い一般人の話ですか?」


「今回の場合は、この地に生きる魔法使いの一般としよう。翔君がこの地を訪れて、少なからず負の側面も目にした上で何を感じたのかを聞かせてくれないかい?」


「そういうことなら」


 どうやら世間話と言っても、レオニードが求めるものは翔との問答らしい。


 ようやく彼の目的の片鱗が見えてきたことで、翔も少しばかり警戒を解いた。


「俺がこの地を見ていて感じたのは、恵まれているってことですね」


「恵まれている? こんな場所より恵まれた土地は、腐るほどあるだろうに」


「確かに土地だけを語れば、砂漠のど真ん中にあるこの都市を恵まれているとは言えないかもしれません」


「なら_」


「けど、今日街に出てみて思いました。この土地には秩序がある。心の底まで真っ黒な悪人でも無ければ、どんな人間でも援助を受けられる。俺程度が、世界を知っているなんて口が裂けても言えません。でも、この都市はあなたのおかげで恵まれている。そう思うんです」


 昼間のステヴァンとの観光。それは翔にこの都市の高い秩序と、それを敷き続けるだけのレオニードの手腕を教えてくれた。


 彼が都市の運営を行うことは、自身がカギであるという点ももちろんあるだろう。けれど、それだけでは都市が栄える理由にはならない。運営する知識と長年の努力、これが実を結んだことで現在の繁栄があるのだ。


「嬉しいことを言ってくれるね。そんなことをしても、明日の朝食が一品増えるくらいだぞ?」


 翔の誉め言葉に、茶目っ気たっぷりの冗談を返すレオニード。そんな言葉一つ取っても、彼には余裕がある。とても自分の喉元にナイフを突きつけられている人間とは思えない。


「別に冗談ってわけじゃ......」


「そうかいそうかい。 ......なら私の人生も捨てたもんじゃなかったというわけか」


「レオニードさん?」


「生まれた時からレールが引かれた人生だった。カギの血筋として生まれ、生きているだけで補助金が出され、日々の生活でも常に魔法的な守りが張り巡らされる人生。幼い頃は随分と鬱屈したものだよ」


「それは......」


 翔はそんな人生を想像してみる。


 お金に不自由せず、常に誰かに守ってもらえる安心感。そこだけを切り取れば、素晴らしい人生だと言えるかもしれない。


 しかし、それは裏を返せば何一つ決定出来ない人生だ。危険なスポーツなど以ての外だし、警備の穴を作らないために大勢が集まる場所へは出入り禁止にされていただろう。友達関係も信用出来る相手としか続けられなかっただろうし、将来の夢は生まれた瞬間からほとんどの選択肢を削られていたはずだ。


 金や安全が約束されている分、恵まれているだろうと言われるかもしれない。しかし、その二つは自由があるからこそ輝くものだ。ただ与えられるだけの金と安全は、不自由を自覚させる鎖でしかない。


 少なくとも翔は、そんな人生を歩みたいとは思わなかった。


「ただただ封印を守る一族として、血筋を繋いでいくだけの存在にはなりたくない。そう思って、最大限の努力をした。金をドブに捨てずに済んだのは、才能があったおかげだよ」


 この都市の発展は、自分の人生への当てつけなんだ。レオニードはそう(うそぶ)く。自嘲的に浮かべる笑みも、その言葉が真実であると物語っていた。

次回更新は4/1の予定です。

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