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それぞれの役割

「分かった分かった! ならば何らかの悪魔の痕跡が発見された時点で、結界は発動させよう! だが、それまでは何を言おうと発動はさせん。文句があるのなら、いち早く悪魔の痕跡を見つけるのだな!」


「いいわよ。落としどころとしては、そこが一番ちょうどいいものね。その代わり、侵攻が察知され次第、迷いなく発動しなさい。日和(ひよ)ったりしたら、許さないわよ?」


「フンッ、何年魔法使いをやってると思ってる。そこの判断を間違えるようなら、とっくの昔に墓に入っるわ」


 まるで喧嘩別れのような決着ではあったが、一応結界発動の件は双方の同意が成されたらしい。


 決定した内容としては、悪魔侵攻の痕跡が発見された時点で完全障壁型の結界を発動するというものだ。


 一見落としどころとしては中途半端な形になってしまったようにも見えるが、元々マルティナが言い出さなければ存在すら明示されなかった結界の発動条件を決めれただけでも大きな進歩と言えた。


「余計な時間がかかってしまったが、次は緊急時の人員配置を決めるぞ」


「えぇ。決められるものは、出来るだけ決めておくべきだわ」


 さっきまで喧嘩腰だったのはどこへやら、息の合った進行で次の議題が始まった。あるいは馬が合わないと気付いたからこそ、事務的に進行を早めようとしているのかもしれないが。


「まず、都市外部にステヴァン。召喚魔法を用いた哨戒(しょうかい)任務と、開戦時には森羅の悪魔が用いる使い魔討伐を担当してもらう」


妥当(だとう)ね。文句は無いわ」


「配置される俺としてもありがたい。なんせいくら砂漠のど真ん中って言っても、都市内部じゃ使い魔の素材も(ろく)に無いからな」


 まず初めにステヴァンの配置が決定した。全員が即座に同意したように、彼の配置は間違いなくそこが適所と言えるだろう。


 ステヴァンの魔法は、砂を魚類型の使い魔へと変える召喚魔法。その能力の性質上、砂が多ければ多いほど戦略の幅が増す。また、彼の使い魔は砂の中を泳ぐことが出来る。魔力感知を持たない相手であれば、ほぼ確実に奇襲が成功する能力だ。


 それらを駆使することで都市への使い魔の侵入を抑える。これが彼の役割だ。写真で確認した森羅の悪魔の使い魔相手であれば、砂漠というフィールドアドバンテージを活かして確実に有利を取ってくれるはずだ。


「次にマルティナ嬢。君の役割は都市内部に侵入した使い魔の討伐、加えてどこかで使い魔達を指揮しているであろう森羅の悪魔の討伐だ。両立した場合の優先はもちろん森羅の悪魔。君が討伐出来るかどうかが、都市防衛の(かなめ)だ。よく覚えておくように」


「えぇ。分かったわ。それと、一々指摘しなくても理解しているわよ」


「こっちも念を押しただけだ。深い意味は無いわい」


 次に決められたのはマルティナの配置。それぞれの言葉に若干の棘を感じた以外は、これまた妥当な配置と言える。


 マルティナの主戦法は、数の概念を操る始祖魔法を利用した範囲攻撃。森羅の悪魔が使用する召喚魔法とは、相性面で有利が取れる魔法だ。彼女を都市内部に配置することで、ステヴァンの打ち漏らした使い魔を確実に討伐しようという算段だ。


 加えてマルティナが用いる二つの奇跡、イアソーの腕とダイダロスの翼も今回の相手とは相性が良い。


 イアソーの腕は、自らの魔力で傷付けた相手の感覚を奪う奇跡だ。翔もひょんなことから味わった奇跡であるが、あれは文字通り全ての感覚を奪う。


 触覚はもちろん、痛覚や命に関わる危機感すら消滅してしまうのだ。あの奇跡を貰った状態で戦い続ければ、戦闘の途中で必ずボロが出る。


 そしてもう一つの奇跡ダイダロスの翼は、マルティナに空中を翔ける(すべ)を与えてくれる。


 都市内部という乱戦が予想される場所だ。悪魔を発見しようにも、あらゆる魔力が混じり合うことで、索敵は困難を極めるだろう。そんな中で空からの視点で何かを探せるというのは莫大なアドバンテージだ。


 広い視野。言葉にすると大したことは無い様に聞こえるが、戦場におけるその能力の有用性は計り知れない。


「最後に翔君だ。君の役割は翼を用いた零氷の悪魔の発見、及びこれの討伐だ。こちらも言うまでもないが、都市の命運を左右する極めて重要な役割だ」


「はい。全力で当たります」


 そして翔に割り当てられた役割、それは長距離狙撃を行ってくる悪魔の発見と討伐であった。


 持ち得る魔法はお世辞にも射程距離が長いとは言えない。むしろ他者と比べても、一段と短い部類に入るだろう。そんな翔が零氷の悪魔を相手にする理由とは何か。それは彼の機動力にある。


「君の翼は下手な航空戦力の倍以上の機動力を持つ。こちらが初撃を貰うのは残念だが防ぎようがない。けれどもその発射地点を予測し、いち早く駆けつけられれば距離の有利は逆転する」


 ボルコの言葉通り、翔の擬翼はスピードに特化した飛翔魔法だ。そのスピードはドローン程度は相手にならず、最高速度は大型鳥類の滑空に迫るほどである。


 このスピードを活かした悪魔本体への強襲、それは翔に求められる役割なのだ。


「もちろん、遮蔽物の無い大空で探索を行うのだ。君自身が狙われる可能性は十分にあるし、相手は狙撃の天才だ。翼を用いた前面の防御だけでは、何かしらの方法で攻略してくる可能性が高い」


「でも、俺が狙われている時間が長いほど、他の人が犠牲にならずに済みます」


 そう、翔の役目は何も悪魔の捜索と討伐だけではない。


 悪魔陣営からすれば、積極的に戦闘に参加せず何かを探すように飛び回る翔は、零氷の悪魔を探しているのだと早々に感付くだろう。


 だが、気付いたところで鬱陶(うっとう)しいことには変わらない。仮に乱戦状態に持ち込まれたとしても、森羅の使い魔達では翔まで届かず、零氷の悪魔本人が攻撃を仕掛けるのにもひと工夫がいる。むしろ、積極的に攻撃を仕掛ければ仕掛けるほど、翔に居場所が露見する可能性が上がってしまう。


 そうなると彼の行動を(とが)める事が出来るのは森羅の悪魔しかいなくなるが、自身が戦闘を始めてしまえば、必ず指揮がおろそかになる。


 後はステヴァンがじわじわと外側の戦力を削り、マルティナが内側の戦力を討伐すれば、森羅の悪魔は敵陣で孤立することになる。


 相手の注意を引き付ける囮役。この人員配置にはそういった意味も含まれていたのだ。


「君には大変な役割を押し付けることになってしまう。しかし、これが最善の人員配置なのだ。分かって欲しい」


「もちろんです。俺一人の苦労でたくさんの人の命が守れるのなら、どうってことないですよ。この戦い、必ず勝ちましょう」


 申し訳なさそうに目を伏せるボルコに、翔は気にしていないと首を振った。


 そもそもこの地に赴くことを決めた時点で、命を失うリスクは承知済みなのだ。それでも戦う選択をしたのは、力を手に入れた責任感故。


 翔にとっては自分の命が危険に晒されるよりも、自分が動かなかったことで誰かの命が失われる方が何倍も嫌だったのだから。


「この都市を治める領主としてもお礼を言わせてもらいたい。ありがとう、翔君、マルティナ君。君達が増援に応じてくれたからこそ、ここまでの戦力を整えることが出来た」


 話がまとまりかけたからだろう。レオニードが二人に向けて、感謝の言葉を口にした。


「いえ、感謝されるようなことでは......」


「ふん、そこで殊勝な態度を示すんだったら、最初からふざけた事をするんじゃないわよ」


「ばっ! おい、マルティナ......!」


「はははっ! これは一本取られた!」


「ふふっ、実行犯としても、やっぱりあれはやりすぎだったと思いますよ......」


 しかし、そんな言葉は一方には謙遜され、もう一方には響きすらしなかったらしい。せめて襲撃騒動が無ければマルティナも形だけは感謝したのだろうが、今更思った所でもう遅い。


 彼らはやらかし、許され、それでもわだかまりが残った。それだけのことなのだから。


「後ほど儂の方で、都市内に配置される魔法人員図も用意しよう。移動の疲れもあるだろう。今日の会議はここまでに_」


 ある程度の作戦と行動が決定したことで、終了ムードが室内に漂う。


 それに逆らうことをせず、ボルコが会議の終了を宣言しようとした時だった。彼の端末らしきスマホが音を立てた。


「ん? あぁ、儂だ。あぁ。 ......分かった。それ以上の情報は出ないだろうが、一応の調査は頼む。それではな」


「ボルコ。何の連絡だ?」


 レオニードが問いかける。


「つい先ほど、この都市と残ったカギが管理するちょうど中間地点の道路で、魔法使い複数名の遺体が発見されたようです。遺体の状態からして、間違いなく悪魔の犯行かと」


 その言葉によって、和やかさを見せていた室内には再び緊張が走った。


 そして、翔も思い知った。一度目の襲撃から沈黙を保っていた悪魔達だったが、別におとなしく隠れ潜んでいわけでは無かったのだと。


 むしろその悪意を研ぎ澄まし、新たな襲撃の準備を整えているのだと。

次回更新は3/16の予定です。

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