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待たされる側の人間

 雲一つない秋晴れの空。そんな快晴の空を姫野はただまっすぐに見つめていた。


 容姿端麗なその顔と、まるで幽鬼のような表情一つ浮かばない顔は、一目見た人間の目を捕らえて離さない幻想的な光景に見える。


 しかし、そんな光景は日常の一瞬でふと垣間見えるからこそ特別なのだ。休み時間のたびに同じ光景を見せられていればどうしたって飽きが来るもの。


 授業時間と食事中を除いた姫野の奇行とも言い切れない不思議な行動は、いつしかクラスの日常として受け止められてしまっていた。


「ちょっとちょっと大悟さんや。どうにか姫野ちゃんを元気付けてあげられる方法の一つくらい、思いつかないの?」


「その言葉、そっくりそのままお返ししてやるよ」


 だが、そんな光景を良しとせず、改善に動こうとする者もいる。


 こそこそと教室の入り口で内緒話を続けるのは大悟と凛花。内容は最近になって浮き彫りになってきた一つの問題についてだった。


「お返しバリアー! はい、そういうわけで大悟が方法を考えて!」


「てめっ、しょうもない逃げ道を......はぁ、そんなこと言ってもどうしようもないだろ。解決できそうな唯一のアホが、自分の成績可愛さに留学に行っちまったんだから」


「だから、翔無しで姫野ちゃんを元気付けられる方法を考えてってことだよ! 今の姫野ちゃんは初めて会った時に戻っちゃったみたいで悲しいじゃん」


「そんな簡単に思いついたら苦労してねぇっての」


 最近二人を悩ませる問題。それは、前述の姫野の態度についてだった。


 翔が突然の留学を決めてしまった当初、彼抜きでもそれなりに仲良くなっていた三人は、翔に対する愚痴を言い合うなどしてまだ会話が出来ていた。


 だが、それが一週間、二週間と続くと状況に変化が起こった。


 何度も窓の外を眺めながら黄昏たり、会話が途切れる回数が増えたり、常識から外れた言動が連続したりと、彼女の態度は初めて出会った頃にどんどん逆戻りしてしまっていたのだ。


 他のクラスメイトからすれば、違和感に思わないほどの小さな変化。しかし、翔経由で親交のあった二人からすれば、その変化は見過ごせないほどに大きくなっていた。


「先生の話だと、もう少しかかるんだっけ?」


「そうみたいだな。というか、日程があやふやってどういうことだよ! 留学生の人数不足から始まって、出発はぎりぎり帰りは確認不足。うちの校長はお役所仕事が過ぎるんだよ!」


 姫野の変化に気付いた二人は、ひとまず翔の帰国時期について担任に確認した。帰国時期さえ分かっていれば、あと何日だと姫野を元気付けられると思って。


 だが、担任から返ってきた言葉は、まさかの帰国時期不明。自分の仕事は終わったと、校長が日程の資料さえ貰っていなかったと聞かされたのだ。


 受け持つ生徒の日程を把握していなかった担任も担任だが、不祥事レベルの失敗をしておいて後始末さえ適当な校長に二人は憤慨した。近日中に確認を取ると言われなければ、あまりの適当さに職員室内で怒鳴り声をあげていたかもしれない。


 なお、このようなあやふやな状況になったのは、翔が新たな戦いに駆り出されたのが原因だ。これさえなければ校長は日程をしっかり把握していたし、そもそも留学生制度の対応もしっかりと行っていた。


 けれども、教育関係の表の顔を持つ防人(さきもり)派の人間が、翔を血の魔王との戦いに参加させるために情報を捻じ曲げたのが原因だったのだ。どちらかといえば校長は被害者と言える。


「やっぱりこういう時はラブコールだよ! 翔のことを考えて気が抜けちゃってるんだから、あいつの声を聞かせてあげるのが一番だって!」


 二人は未だに翔と姫野の関係を勘違いしている。そのため、姫野の元気が無くなっていくのは翔に原因があると考えていた。


「ばっか! 国際電話なんて滅茶苦茶高額だってのが常識だろうが。それに、神崎さんは会えないモヤモヤが溜まっている状態なんだぞ。一度かけたりしたら長電話になるに決まってる」


「じゃ、じゃあ何かのアプリ経由で、声を聞かせるとかは? 今のご時世、通話無料のアプリなんてごまんとあるよ!」


「設定は?」


「へっ?」


「設定はどうするんだって聞いてるんだよ。仮にアプリで通話しようたって、翔がそんなのを入れてるとは俺は思えねぇんだがな......特定のアプリを入れろって翔に連絡してみろ。本末転倒だろ?」


 そもそも二人が考えているほど国際通話は高くない。だが、小さい頃に聞かされた内容というのは、一種の常識として定着してしまうものだ。


 ここで実際の通話相場を調べてみようと考えつかないのが大悟と凛花という人間であり、二人の成績が悪い根本でもあるのだろう。


「うぐっ、じゃあこのまま薄幸の美少女になっていく姫野ちゃんを見捨てろと?」


「そんなことは言ってねぇだろ。俺達は俺達が出来ることをやっていくしかねぇってことだよ」


「出来ることって?」


「見守る。そんで、少しでも話に加えてやることだ。あっちがうっとおしいって思っていても話しかける。そうやって少しでも寂しさを和らげてやる。あいつらの仲を取り持ってやるのが、友人である俺達の役目だろ?」


「そっか。一番簡単な解決法ばかり考えて、肝心なことを忘れてた。私達は姫野ちゃんの友達なんだもん。仲良くするのが一番だよね!」


 勘違いに次ぐ勘違い。それでも姫野を思って一つの回答を導き出せるのは二人の人の好さゆえだろう。あるいはこんな性格だからこそ、命を懸けて世界を救うと決めた翔と気が合ったのかもしれない。


「それはそうと、彼女をほったらかして海外観光を楽しむ男には、どんな制裁が似合うと思う?」


「プロレス技フルコース」


 しかし最近の付き合いの悪さゆえに、世界は救えたとしても自分は救えなくなる可能性が、一人の少年に差し迫っていた。世界の裏側を知りながらも、表の顔を守り続ける。それこそが一番の難題なのかもしれない。

次回更新は年明けの1/3となります。


本年もたくさんの閲覧と評価。本当にありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いします。

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