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全てを略奪した者

「まずは今回の襲撃について、詳細を語っておかなければならないだろうね」


 そう言ってダンタリアは、翔にスマートフォンをスピーカーモードにするように指示を出す。


「スピーカーにはしたぞ。けど、どういうことだよ?」


「こういうことさ」


 ダンタリアの言葉と共に、スマートフォンの画面が勝手に動き出す。


 そのままいくつかの資料を複数窓で表示すると、その内の一つを拡大表示した。


「ちょっおまえ、これってハッキング......」


「ふふふ、セキュリティは失って初めて大切さを学ぶものだよ。それと少年、今回のような悪意ある不正操作は、ハッキングではなくクラッキングだ」


「どうでもいいわ! ってか、マジでハッキングしやがったのかよ......」


「今回は少年自身が遠方にいる上に、視覚による説明が難しい場所だからね。お望みであれば空港の映像端末に情報を流してもいいけれど_」


「やるなよ、絶対にやるなよ! それをやりやがったら、今すぐお前を討伐しに行く!」


 空港という大衆施設で魔法情報が流れようものなら、情報秘匿にどれだけの費用がかかるか分かったものじゃない。


 そもそも、さも当然かのように魔法を使用せずに翔の端末をハッキングし、必要な情報を転送している時点でどれだけ滅茶苦茶なんだと翔は言いたかった。


「ふふっ、もちろん冗談さ。それじゃあ、説明に移ろうか。少年、端末に地図が表示されているだろう?」


「......あぁ、表示されてる」


 疑わし気な視線をスマフォに向ける翔だが、当然その視線がダンタリアに届くはずもない。


 あきらめて地図を見ることにしたが、すぐさま一つの問題にぶち当たった。


「これ、どこの地図だ?」


 近くに海が見える上に特徴的な形をしていないことから、これがアフリカやアメリカ大陸の地図ではなく、ユーラシア大陸のどこかを拡大表示した地図だということは翔でも気が付いた。


 しかし、彼ではそれが限界だった。仮に世界地図のどこを表示しているか分かったとしても、今度は国名が分からずに頭は疑問符で埋まっていただろう。


「ここは中東。そして中央に表示されている国はトルクメニスタンという国さ」


「教えてもらってもピンとこねぇ」


 そもそも翔は、中東がどこからどこまでを指す言葉かも分かっていないレベルだったため、当てずっぽにしたって国名が出てくることは無かっただろう。


「そうだね。元々ただのニンゲンだった少年からしてみれば、日本から遠く離れたこの国に対する理解度は低くて当然さ。けれど、魔法世界からしてみれば、この国は非常に大きな歴史を持つ国なんだよ」


「大きな歴史?」


「そう。とある魔王によって、完全なる侵略が成されてしまった地としてね」


「んん? なんだよその、完全な侵略って。人魔大戦中に侵略されたって、悪魔が魔界に帰れば土地だって元に戻るはずだろう? いくら魔力汚染が酷くて浄化に数十年かかったとしても、それを完全な侵略と言うのはおかしいだろ」


 翔は以前、とある質問を麗子に投げかけたことがあった。それは、悪魔が残っている状態で悪魔殺しが全滅してしまった場合はどうなるのかということ。


 普通に考えれば、答えはその時点で終了か略奪の開始かの二択。


 前者であれば抗う相手がいないのだ。戦いの勝者が名誉を手にして魔界に凱旋(がいせん)するほかないだろう。


 しかし、それでは悪魔殺し百人を生贄にしてしまえば、悪魔の被害は最小限に抑えられるはず。それでは悪魔側に旨味は少なく、おまけにサブプランである契約悪魔の成長は望めない。


 かといって後者は、下手をすれば人類が滅亡してしまう。ならばどうするのが双方が丸く収まるのか。その答えが勝ち残った悪魔に、一年間現世への滞在権を付与するという折衷(せっちゅう)案だったのだ。


 これであれば勝者は期間限定とはいえ、満足いくままにマイナスの魔素を集められるし、敗者は決められた期間を耐え抜けばいいという希望にすがれる。


 実にちょうどいい案を考えついたものだとあの時は考えていたが、それと照らし合わせた場合、ダンタリアの言葉は矛盾しているように感じた。


「そうだね。()()であれば、少年の言葉が正しい」


「だろ?」


「けれどね少年。何事にも例外というのは付きものだよ」


「何だよ、例外って......」


「過去に侵略と呼ばれた魔王がいた。彼はその圧倒的な強さとカリスマ性でもって一団を率い、とある国を滅ぼしたことによって初代略奪の魔王という名を手にした」


「真名そのものみたいなやつだな」


「そう、さらに根源魔法もこれまた真名そのものな魔法でね。名を征伐(ビクロ・)戦旗(スェリペリアム)。略奪という概念を操る始祖魔法だった」


「略奪の始祖魔法......それだけでやばいことが分かるようになったのは、悔しいけどお前のおかげだ」


「こちらとしても成長が伺えて嬉しいよ。簡単に説明すると、彼の根源魔法は全てを接収する魔法だった。魔力、資産、土地、配下、当然命さえも」


「なんかそれだけ聞くと、契約魔法って感じがするな」


「そうだね。これだけだと敗北を条件にした契約魔法と大差が無い。けれどここからが侵略の魔法の真骨頂だ。略奪とは奪い取ること、そして奪い取られたということは、付与されていたあらゆる概念がリセットされたということ。どういうことかわかるかい?」


「はっ? えっ、えーと......要するに、元々所有していた奴が千円の価値だと思ってた物を、侵略は百円の価値しかない物だって宣言できるようになったってことか? あー、あとペットとか飼ってたんなら、その名前とかも自由に変えられるよう、に......」


 翔は自分が言ったことに、口からこぼれた事実の恐ろしさに戦慄した。


 悪魔というのは人間の何十倍も自らの名を大切にする。それは、名前というのが自らの存在を司るものであり、自らの価値を世界に知らしめる重要なツールであるからだ。


 それを変更される。そんなことをされてしまったら、悪魔は何よりも大切な自身を失う。今まで生きてきた存在そのものが否定されてしまう。


「悪魔だってニンゲンのように感情があり、ニンゲン以上に恨みが深い。所属する国を奪われでもしたら、その恨みは想像を絶するほどだ。けれど、侵略が奪い取った国では残党による反乱は一つとして起らなかった。皆本質を捻じ曲げられてしまったんだ」


「......」


 本来は敵対する関係である悪魔の末路と言えど、そのあまりの惨さに言葉を紡げなかった。


「徹底抗戦派だったある悪魔は、矛盾する性格、信念、真名を付与され自己崩壊した。逆に早期に降伏したとある悪魔は、略奪の国に相応しい真名を授かり、所属を新しくするだけで済んだ。これが魔界の歴史上、最も鮮やかな国盗りと呼ばれた戦いだよ」


「このトルクメニスタンって国と、その侵略って野郎が関係してるんだな」


「そう。侵略が参戦した人魔大戦。ありとあらゆる勢力全てを敵に回した、たった一度きりの参戦で彼はこう宣言したんだ」


 ダンタリアがわざとらしく言葉を切った。


 翔の喉が無意識の内に生唾を飲み込んだ。


「この土地の新たな名は、「略奪の国」であるってね」

次回更新は12/10の予定です。

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