生を終えてるのに転移とは
「それは…俺は死んだってことですか…?昨日までいつも通りに過ごしていたんですが…?」
確かに昨日、仕事の後飲み、少しゲームをして寝る、という行動をしたという記憶がある。寝てる間に突然、何てことも可能性としてはあるが、少なくとも体調には気遣って来たのだ。まさかそんな自分がとは思えない。
「そこが謝罪をしないといけないところでして。先ほど転移は誰でもいいという話をしましたけど、それで世界をまたぐ時に少なからずその人の魂と呼ばれるような根本的な力が摩耗するんです。転移して肉体が世界に定着した後に補填をするんですが、この『世界に定着した後に補填』というのがデメリットでして…」
「なんでランダム要素でそんなデメリットつけてんだよ。それだと話の流れ上、俺は拒否しても帰れないってことになるんじゃないのかそれ?」
思わず荒げてしまったが戸部としてはそんなことに気にしている余裕はない。
つまるところ、この『転移』には魂とか言う力がどれだけ残っているかという選別がなされていないということになる。よくこれまでこの方法でうまく機能していたと思う。
「偶然転移対象に選ばれて、こっちに呼び出されたけどその過程で摩耗し切って『戸部貴司』としての生は終わってるってことだよな?ふざけてるにもほどがあるだろ」
「いえ、確かに『戸部貴司』としての生は終えている、と言っても過言ではないでしょう。ですが、転移の過程で急ぎ私の力と回路を強引につないだのであなたの生は終わっていません。証拠となるかはわかりませんが、記憶が残っているはずです。ただし、生きて渡ってもらうという事のみに費やしすぎたので、肉体は消失してしまったんです」
「ん?肉体が滅んだ?でも確かに俺は自分に手足があるし、この通り心臓も動いてると感じてるが?」
とは言うが、確かに肌の感じが若くなっている気がするし、年相応に筋力も衰えたりしていたはずが、まるで若いころに戻ったかのように感じている。というよりは先ほどの少しの探索で朧気ながら疲れないなとは思っていた。
「その身体に関しては私が用意しました。というよりあなたの魂を生かすために回路をつないだ時に読み取った記憶から再現しました。若くしたのは完全に片道切符になってしまったせめてものお詫びの一つとなります」
なるほど、若く感じていたのは本当に若返っていたかららしい。戸部はそこのみに一応の納得を示した。それよりも聞きたいこともできたわけだが。
「読み取った記憶ってのはどういうことだ?まさか俺の事調べたって言ったが…」
「あっはいその通りです。何とかして肉体を戻そうと調べてる時にあなたの記憶をそれはまぁ色々と見させていただきました。いやぁ面白かったですよ」
「いやまぁなんとかして命つないでもらってるわけだが、とりあえずこれだけは言わせろ。プライバシーの侵害だ、すぐに見た記憶消せクソ野郎」