魔族領の発見
元魔族領に最も近い大陸
その沿岸部を占める王国は、勇者からの報告を受け、元魔族領の開拓を検討していた。
「勇者様によれば、元魔族領は跡形もなく更地になり、今は緑の茂豊かな島ということです」
「うむ、分かった。では、開拓を推し進めるとしよう」
「お待ちを、しばらくはこのまま放置しましょう」
「む?何故じゃ」
「今、開拓すれば、戦争で略奪しかねません。それに、勇者が所有権を主張しかねません」
「では、どうせよと言うのだ」
「はい、まずは、落ち着くまでの間、我が国が管理している現状を維持したまま、他国の勢力争が治まるのを待ち、気づけば我が国の領地、と言うのが最も妥当であり、確実であると愚考します」
「しかし、それでは時間が」
「ご安心を。それならば、島にはいまだ瘴気が満ちており、地質の検査を建前に、開拓団を指揮すればよろしいかと」
「ふむ。勇者はどうする」
「彼らならば、王国での立場を与え、幾分かの庇護を与えればよろしいかと」
「うむ、それで行こう。では、地質検査のための団体を組織する。選出は、頼んで良いな?」
「はっ、お任せを」
「うむ。期待している」
こうして、元魔族領への開拓が始まろうとしていた。
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元魔族領にて
「なあ、この城壁必要なのか?」
「もちろんです。この島には今でも強力なモンスターが、多く出現するのですから」
魔族領の島を一周するように城壁を建てていた。
「まあ、良いけど。それで、どうするんだ?」
「はい、この上に、砲台を並べてください。周りを一周するように」
「こうか?」
「はい、オッケーです」
「これ、城壁と言うよりも、塀って感じなんだが」
「ここの中心地は屋敷なので、その様に考えていましたが」
「あ、そうなの」
「はい、今日はお疲れ様でした」
「ああ、じゃあまた、用があったら屋敷に来てくれ」
「わかりました」
これでもかと、科学を使った一つの都市と言っていいほど大きくなった屋敷周辺。
周りには、天文台らしき場所や、人口の貯水炉、発電所、等々様々だ。
ちなみに、リーネと言う少女は、非常に学欲が高い。そのため、ほとんどが科学の力によって動いている施設に興味があるらしく、様々な施設を回っているそうだ。
城壁を建設し終わり、暇になった俺は、屋敷でお茶を飲んでいた。
「しかし、ここも随分変わったな」
「そうねえ、まさか、ここがこんなに様変わりするなんて、思いもしなかったわ」
リエルがお茶を啜りながら話す。
「まあ、恐らくだが、ここは世界で一番安全だと思うけどな」
俺は、決め顔を作って笑顔を見せる。
「何よその顔は、あんまに会わないからやめなさい」
俺は心に百のダメージを負った。
机の上にうなだれながら言う。
「なあ、本当にここには誰も来ないのか?」
「来ないんじゃない?こないだの勇者は、ここを問題ないと判断したようだし。にしても、勇者を欺くほどに、あなたの魔術は優れていたのね。正直、驚いたわ」
「ああ、それね。俺も意外だった。にしても、勇者が問題ないって言ったら、開拓団とかが出そうだけど」
俺の言葉に、リエルが同意のように声を漏らす。
「そうなのよね~、どうしたものか」
「おいおいおい、さすがに島全体の隠蔽は無理だろ。と言うか、国が開いてだったら必ずばれるぞ」
「ま、大丈夫でしょう。それより、お昼にしましょう」
「…本当に大丈夫か?」
という具合に、また一日が過ぎていく。
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元魔族領沖
そこでは、二隻の船が止まっていた。
「おい、あれ見ろよ、なんかとてつもなくでけーのがあるぞ」
船のデッキから、ガタイの言い男が言う。
「ああ、どうやら未開拓地ではなかったようだな。だが、ここは王国の領地、今すぐに退去願いたいところだが、この戦力では無理だ。出直すぞ」
話しかけられた、長身の男はそう言って、撤退の準備を判事める。
「見た事もない船だ。あれはいったい何なんだ」
こうして、初めて王国側に認知されたタイラの軍艦。
後に、国の滅びの危機が訪れることをまだ知らなかった。