戦場〔1〕
眩しい。
ここは森か?何故俺は青空を見上げている?
そこで気がつき、勢いよくローリングし物陰に隠れる。
「そうだ、確か神? だかに異世界へ行くって言って、それで武器を貰ったんだっけ」
改めて自分の体を見る。相変わらず着なれたボディーアーマーは身につけておらず、代わりに白銀とも言えるゴツイ鎧を着用している。これがその「鎧」と「刃」の鎧に当たるのだろう。
「これガチャガチャとうるさいな⋯でも金属っぽいし仕方ないか。後は武器だけど」
そこまで言って魔法を使う。《ディメンジョン・ストック》というもので、別次元に二立方メートルまでのあらゆる物を収納できる。もちろん取り出せるが何もない所からいきなり出てくるので慣れが必要である。
「銃火器とかは...ある、弾薬もグレネードもあるな」
地球に居た時かなりお世話になったアサルトライフル、ハンドガン、ロケットランチャー、グレネードetc⋯これら全て、取り出して使用できそうなので一安心。
「しまった、刀剣類を入れとくべきだった」
あちゃ~と声を漏らす。なぜなら銃火器の弾薬は有限であり、無くなったらそこでオシマイなのだから。
どうしたものかと考えていると神(?)がくれた「刃」の事を思い出す。しかしあたりを見回すが、どこにもありそうにない。かといって《ディメンジョン・ストック》にも入っていない。何故わかるかって?勘でわかるんだよ。
唸っていると、いきなりゲームのメニュー画面のようなものが浮かび上がる。
「何だコレ? ゲームのメニュー画面?」
恐る恐る画面に触れると、問題なく機能する。
「すごいな。色々とある」
画面には「アイテム」「装備」「ショップ」「ヘルプ」の項目が左端にあり残りのスペースには自分のステータスが表示されている。
名前〈神風紫電〉
Lv ???
HP/10000
MP/50000
スタミナ/500
パワー/325
スピード/250
物理攻撃力/800
物理防御力/127
魔法攻撃力/820
魔法防御力/120
これは高いのか低いのかわからん。まだ誰にも出会ってないからな。
「まあ、まずはヘルプから見るよな」
「ヘルプ」の項目をタップし、画面を切り替える。ヘルプには十を超える内容があり、充実している。
「何々、〈この世界について〉この世界は「ミル・ヴィートゥウィル」と呼ばれ、多種多様な種族が生息しています。大きく分けて「人種」「狩狼種」「翼妖種」「魔人種」の四つに分類されます。その中に、さらに細かく分類されているため、そちらの項目を参照してください、ね。なるほど」
さらに十件ほど項目が追加される。どんだけあるんだよオイ。
「何だ、さらに〈魔物〉まで居るのかよ。相当に厄介そうだな」
この〈魔物〉というのはどちらかと言うと昆虫や鳥とかが凶暴化したり巨大化したものを指す。しかも結構強いので討伐するのに苦労する。
「後は武器とかの項目があればいいんだけど⋯⋯おコレかな〈装備品〉」
装備品はメインウエポンを二つ、サブに四つまで携行することができます。変更は「装備」から行ってください。
防具は「胴」「腰」「足」が基本となりステータスの変動はありませんが、被ダメージを軽減出来ます。
「今着てるこの鎧も変えられるのかな? 試してみるか」
画面を「ヘルプ」から「装備」に変え、何があるかを見る。
鎧「シルバーアーマー」/聖なる力が宿っている鎧。被ダメージを50%カット
「まだこれだけかよ、他には無いのか?」
いじっていると、他に使えそうな装備一覧が表示される。
「へぇ、これだけあればしばらくは何とかなりそうだな。あれ? この最後のって」
最後にあったのは「迷彩」だった。
「迷彩か、良さそうだな。早速着用っと」
装備を迷彩へと変え、自分の姿を確認する。鎧ではなく、近代的な防弾ヴェストに近いフォルムをしており、「胴」「腰」「足」の全てが迷彩服なっていた。しかし、迷彩であるはずなのに、マッドブラックである。正直なところ、暗闇以外では使い道がなさそうだが⋯⋯
「コレ、忍者装束じゃあるまいし、何か効果は無いのか?」
鎧「多目的特殊迷彩」/周囲の風景に似た色に擬態する事が出来る迷彩。ただし光化学迷彩では無いので透明になるわけではない。擬態したい風景に数秒間留まると、その効果を発揮する。
⋯⋯前言撤回。コレすげー有用じゃなねぇか! さっそく試してみよう。
草原に寝そべってみる。すると、みるみる迷彩服の色が変わっていく。
「ほんの三秒ぐらいで完全に変わった⋯⋯これは使えるぞ!」
君を今から俺のお気に入りに登録しよう。そう思っていると。
『わ⋯私で⋯良いんでしょうか⋯⋯?』
待て、今しゃべんなかったか?というか、脳にダイレクトにしゃべりかけてると言った方が近いか。
「何処だ?」
『ここです、迷彩です⋯⋯』
迷彩ってしゃべったっけ?いやそんなはず『しゃべれますよ⋯⋯』あ、はい。
『私、女神様に「あの子絶対に何かやらかすから、そうならないように補佐してあげて」って言われていて』
やらかすって。何か酷くない?
「ふ~ん、それで君には何ができるの?」
『私はあなたの⋯⋯なんて呼べばいいですか?』
「紫電でいい」
『わかりました。私は主に紫電さんのHPやMPなどを視覚上に追加表示できます』
なるほど、拡張現実といったとこか。中々便利そうだな。
『その他人は⋯⋯』
「ちょっと待て、その他の人?」
『はい、他の鎧や刃には違った事が出来ます』
あの時の七つの光はそういう事なのか。
『紫電さんが私を選んでくれたのはうれしいです。私これぐらいしかできないから⋯⋯』
「何言ってやがる。俺にとってはこっちの方がありがたいぞ」
変にファンタジーなものよりも、こちらの方が使いやすそうだし。
後は適当に武器いじって、戦場でも探すか。
紫電は《ディメンジョン・ストック》から違う迷彩服を取り出し、付いていたマガジンポーチを外して、着ている「多目的特殊迷彩」に付けていく。
『あ⋯あの⋯⋯コレ何ですか?』
「ただのマガジンポーチだが?」
『何でこんなに付けるんですか?』
いちいち《ディメンジョン・ストック》から出すのが面倒だなんて言えない⋯⋯
「その⋯⋯こっちの方がリロードが早いから」
『そうなんですか⋯⋯』
納得する「多目的迷彩」そんなのウソに決まってるだろ⋯⋯
「そういや、君の名前は?」
『私は「多目的迷彩」ですけど⋯⋯』
流石に名前を付けてあげた方がいいだろう。「多目的迷彩」なんて長い名前は似合わない。
「なら、君は今から「彩」だ」
『サイ⋯⋯ですか』
メイだとジ〇リのとなりのなんちゃらのヒロインになっちまうからな。だがそんなぞんざいなネーミングに対して、満更でもないようで。喜んでいるのがわかる。
『ありがとうございます! 私これから頑張ります!』
「よし! なら早速戦場を求めて放浪するか!」
『あ、それなら放浪する必要はなさそうですよ。ここからすぐの所に大規模、とまではいきませんがそれなりの大きさの戦場があります。今は両軍睨み合っていますが、いつ激突してもおかしくありません』
ならいそがないとな。《ディメンジョン・ストック》から大量にマガジンを取り出し各所のマガジンポーチにセットしていく。すると気を利かせたのか、サイが戦場の位置を教えてくれる。
『目標を視覚に反映。どうですか? 見えます?』
位置が小さな四角形となって表示され、その下に距離も書かれている。首を動かすと、背景と一緒に動かずにしっかりと固定されている。
「千メートルなら走ってすぐだな」
立ち上がり、足に力を込める。それと同時に「龍化」して筋力を強化する。
『本当に走るんですか?』
「もちろん。さ、行くぞっ!」
込めた力を一気に開放する。何かが弾けるような音と共に地を駆ける。こんなに走ったのはいつ以来だろうか。そんな事を考えているとすぐに目標の手前、約百数メートルの所まで来て止まる。
『どうしたんですか?』
「先に戦力の確認をしておこうかと思ってね。どれ⋯⋯」
《ディメンジョン・ストック》から双眼鏡を取り出し覗く。恐らく両軍とも一万か一万五千ほどの兵が睨み合っている。それにしても女性が多いのが気になる所だが、それ以前に俺もそうだが人外が多いな。
「サイ、迷彩を解除してくれ」
『はい、迷彩解除』
草原の色から元のマッドブラックへと色が変化する。
「サイ、俺はどっちの軍に加勢するべきだと思う?」
紫電の質問にサイは少し考えてから答えた。
『私は手前の⋯⋯シャルロッテ王国側に加勢した方がいいと思います』
「手前⋯⋯人が多い方か。何でそう思うの?」
『紫電さんは魔人種に近いですけど、一見しただけじゃあわからないと思うので』
なるほど、安全性か。
『あ! 開戦しました!』
考え込んでいる顔を上げると両軍の前衛部隊が激しくぶつかり合い、血を流している。
観戦していると、火の玉や氷の塊が飛び交い命中したりしなかったり。精度はそこまで良くないようだ。
メニュー画面を開き武器をセットする。試しに今回は女神(?)から貰った長剣と短剣の二刀流で行こう。サブにハンドガンを二丁持っておいた方が良いかな。
「んじゃ、俺も行きますかっ!」
再度地を駆け、接近を試みる。だが魔法の流れ弾によって上手くいかない。
すると、すぐ近くに岩石が飛来し数十人の兵士を巻き込んだ爆発が起こる。
「うわっぷ⋯⋯いてて、何だ? 一体」
体を起こそうとする。しかし誰かが上に乗っかっていて起こせない。
「大丈夫か? 生きてる?」
声をかけると弱々しくだが返事をする。
「は⋯⋯はい⋯⋯なんとか⋯⋯」
「よかった。ついてたな、俺がクッションで」
声からして少女だろうか。ケガの具合を確認するために急いで身を起こす。
「どこか痛いところはあるか?」
「ぜん⋯⋯しんが⋯⋯」
少女の言うとうり全身いたるところに擦り傷や火傷の痕が見られる。
「これは⋯酷いな。すぐに治そう」
回復系の魔法は得意ではないが⋯⋯ゴタゴタ言ってられないよな。
「龍の血族が天に命ずる。彼の者に再び活力を与えたまえ!」
手を少女の上にかざし、詠唱を開始する。紫電が詠唱を必要とする唯一の魔法であり、不得意な分類に入るものである。
「どうだ? 動けるか?」
「はい⋯⋯ポーションですか? 使ったのは」
「いや、回復魔法を」
「え? そんな御冗談を――だってあなた男でしょう? 魔法が使えるはず⋯⋯」
そこまで言いかけた時、またも岩石が飛来する。
驚いた紫電は急ぎ防御魔法を発動させる。半球状に展開した魔力の壁に、「ごん」と岩石がぶつかり、崩れ落ちる。
「ま、間に合った⋯⋯」
ほっと胸をなでおろす紫電。対して少女は驚愕で目を見開いている。
「今、何が⋯⋯魔法なのですか?」
「そうだけど? あ、立てる? まだムリそう?」
「い、いえ。大丈夫です。」
そう言って立ち上がる少女。足取りはしっかりしていて、特に痛いところも無さそうだ。
「ありがとうございます。それで、その⋯⋯お名前を伺っても⋯⋯?」
「神風紫電だ。君は?」
「アイズ公爵家長女、フェルミ・アイズと申します」
丁寧におじぎをする少女――もといフェルミ。育ちの良さを感じさせる仕草や顔立ち、そして特徴的な碧色の髪。
「紫電さんはどちらの軍なのですか? 場合によってはここで倒さないといけませんから」
「そう構えるなよ。俺はこっちの軍に加勢しようとして来たんだから」
でなけりゃ君を助けたりしないよ。
「君は一人か? 部隊の仲間は」
「恐らく先ほどの爆発で⋯⋯」
確かにあの爆発では耐えられないだろう。
「もし⋯⋯もしよければ、少しの間でいいので私のバディの代わりをやってもらっていいですか? 先ほどから姿が見えなくて⋯⋯」
「敵前逃亡かよ、とんだ腰抜けだな」
まったく度し難いな――おっと、これではどっかの大佐になってしまうな。いかんいかん。
「ええ、いつもならこんな事するような人ではないのですが⋯⋯見ず知らずのあなたに頼むのは気が引けてしまうのですが――お願いです!私のバディになってください!」
いつ以来だろうか。こんなにも力強く言われたのって。まあ、やれるだけやろう。
「わかった、俺でよければその腰抜けの代わりやろう。何をすればいい?」
「ありがとうございます。それでですね、私達の隊に課せられた司令は。敵の頭を潰す事です」