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閑話 ガストンのその後の話

前回の閑話、ガストンの話からの続きです。

 カンッ! カンッ! カンッ!


「ふぅ、今日はここまでにしておくか……」


 俺の名はガストン。


 夢破れて、都落ちした情けねぇ、ドワーフさ。

ロマンを求めすぎて、鍛冶の本質が疎かになっちまってた。


 西大陸の北の山脈近くにある、ドワーフの集落。

ここには、俺の実家があるんだ。

今は戻って来て、修行の日々を過ごしている。


 なんでも、母ちゃんのお陰らしいが、ここなら魔物の素材が山ほどあるんだ。

鉱物もある程度は揃っている。

流石にミスリルやオリハルコンはあまり無いが、それでも、鍛冶の材料には困らねぇ。


 その母ちゃんは、"やることがある"って何処かに行って、今はいねぇんだけど……


 ドカドカドカッ!


「おいっ! 見てくれ、ガストン! この剣はここを押すとよ、剣先が四つに別れてな、相手の武器をはさんでこう、ガキッてな。ロマンだろ! スゲェだろ! ん、どうした?ガストン」


 このロマン馬鹿が、俺の父ちゃんだ。

ちょっと前の自分を思い出して、少々恥ずかしくなるが……


「なんだよ〜、ガストンもノリが悪いな。前までは新作が出来る度、俺の所によ、喜んで持って来てたじゃねぇか。ほらっ、お前がいない間に作ったんだ。これなんかどうだ?」


 おおっ、相反する属性を合わせることによって、見たこともない色に変わってやがる。

スゲェ、ロマ……って、そうじゃなくて……


 いかん、いかん。

ついつい父ちゃんに乗せられちまう。

どうやら、問題のロマン思考は、この父ちゃん譲りらしい。

マジな話、母ちゃんはいったい、この父ちゃんの"何処"に惹かれたんだろうな?


「母ちゃんは何時帰ってくるんだ? 俺の鍛冶の出来映えを見て、評価してもらいたいんだけどな……」


 父ちゃんだと、"ロマンが足りねぇ"とかしか言わねぇからな……

全然、参考にならない。


 その点、母ちゃんは細かい指摘をしてくれる。

前までは、"ウザってぇ"なんて思っていたけど、姉御の説教から俺は目が覚めたんだ。


「あいつは風だからな。たまにふらっといなくなる。まあ、気がすんだら戻ってくるだろ。そんなことよりも、俺ともっと、ロマンとは何かを語り合おうぜ!」


 ……駄目だな。

このままじゃ、俺の頭の中が、またロマン思考に染まっちまう。

よしっ! 決めた。

母ちゃんを探しに行こう。


 母を訪ねて三千里だな!

え、意味がわからないって?


 なんとなく、言っただけさ。



 思い立ったが吉日。

俺は集落を出て、港町のヘレナに来ている。


 母ちゃんが集落を出て行く前、父ちゃんに言伝てを言っていた。

父ちゃんはすっかり忘れていたけど、流石は母ちゃんだ。

いつも床の間に飾ってある、この大剣。

そこに手紙がぶら下がってた。

鍛冶の修行に夢中で、今までまったく気づかなかったけどよ。



《手紙》


親愛なる、ガストンへ。

あたしはやることがある。

今回は、もしかしたら、もう帰って来れないかもしれない。

あんたも、父ちゃんみたいにロマンばっかり追いかけてないで、ちゃんと、自分の足下も見るんだよ。


もし、あんたが旅に出るときは、この大剣を持って行きな。

見る人が見れば、きっと、お前の力になる。

金に困っても、絶対に売るんじゃないよ!

あんたのお祖父さんから預かった、とても大事な物だからね。

じゃあね、元気でやっておくれ。


      アキュレーより



 母ちゃんの目的は、いまいちよくわからねぇ……

だが、もう帰れないとは、穏やかじゃねぇのはわかる。

いい加減、父ちゃんに愛想尽かしたなら話は別だが……


 集落の村長には、"東の大陸に行く"って言ってたみたいだからな。


 男、ドワーフ、海を渡る。ロマ……いかん、いかん。


 しかし、丁度、船が出るタイミングで良かったぜ。

最近、魔物が活発になっているらしく、船もなかなか出ないみたいなんだ。


 横を見ると、あれは女の冒険者か?

エルフの女に背を擦られているが、無茶苦茶、海に向かって吐きまくってやがる。

あれじゃあ、せっかくの綺麗な顔が台無しだな。

なんだが、見ているこっちまで、ウプッ!


「オエッ〜〜〜〜〜〜!」


 ま、まぁ、寝ていれば、いつかは着くだろ。

ドワーフは、海とか水は苦手なんだよ……


 道中、何度か魔物の襲撃があったみたいだが、エルフが迎撃してくれたらしい。

俺は寝ていて、まったく気づかなかったが……

しかも、港町からは、離れた場所に着いたらしい。


 あの吐いていた女は、エルフ達と一緒に、ここで降りて何処かに行くみたいだが……


 船の方は、このまま港町へと向かうそうだ。

ならば、俺はまだ船の上だな。

もう少し寝るとするか……


 港町に着いた。


 東の大陸は初めてだが、活気があっていいじゃねえか。

俺もワクワクしてきたぜ。

この町にも、世話になった武防具店の系列店があるみたいだ。

一応、挨拶しておくか。

母ちゃんの情報も、何か分かるかもしれないからな……


「あれ? 姉御? 姉御じゃないっすか! どうしてこの町に?」


 王都にいる筈のルミルの姉御が、何故か港町にいたんだ。


「ガストン、私程の大物になると、世界を股にかけ飛び回るものなのです。決してとばされた訳ではありません。おや、なかなかにいい大剣を持ってますね。見せてもらえますか?」


 流石、姉御。

この大剣に目をつけるとは、やるじゃねえか。

かなりの業物だからな。


 え、調べてみたいから、大剣を暫く貸して欲しい?


 いくら姉御の頼みでも、これは売りませんからね。

貸すだけならいいですが、売ったら、俺が母ちゃんに殺されるんで……


 母ちゃんの情報がないか、酒場や酒場や酒場に行って、聞いて回ったんだが、情報は全然手に入らなかった。


 え、酒場しか行ってないって。

何言ってるんだ! ドワーフといったら酒場だろう!

ドワーフから酒と鍛冶を取ったら、何も残らねぇ。

決して、飲んでるだけじゃねぇからな!


 そんなこんなで数日が経ち、大剣を返して貰おうと、俺は店に行ったんだ。

そしたら、"まさか"だった。


 姉御が大剣と一緒にいなくなっていた。

店員の話では、ファーデンの首都、クロイツに行ったらしい。

しかも、書き置きが……金貨二十枚だと!

姉御には、売らねーって言った筈だよな。

それに、いくらなんでも安すぎだろ!

年代物のオリハルコンだぞ!


 俺は直ぐ様、クロイツに向け、必死で走った。

母ちゃんが本気で怒ると、天地がひっくり返るくらい恐ろしいんだ!

まあ、ドワーフの走る速度では、時間がかかり過ぎる事に気がついて、結局は一旦港町に戻り、馬車で行ったんだが……

無駄に時間を消費しちまった。

姉御に追い付けるだろうか?


 衛星都市を経由して、クロイツには着いたんだが……


 スゲェ! これがクロイツか!

ついつい立ち止まって、上を見上げちまった。

しかし、大きい……西の王都なんて目じゃねえな!

おっと、こんな事をしている場合じゃなかった。

早く店に行かねえと……姉御は何をするかわからんからな……


 これがクロイツの店舗。

なんて大きさなんだ。

半端ねぇ、自分がケツの穴くらい小さく見えるぜ。

俺は、なんて狭い世界しか見ていなかったのか、今思うと恥ずかしい。


「あっ、いた! 姉御!」


「ゲエッ、ガストン! こんな所まで追ってきたんですか?」


 姉御の話を聞くと、どうやら大剣は売っちまったらしい……

なんてこった、あれほど言っておいたのに……


 その事で、姉御と言い争っていたら、一人の中年の男が店に入ってきたんだ。

よく見たら、そいつの背中には、俺の大剣があるじゃねぇか!


「おいっ、お前!」


 男に話を聞くと、金貨四百二十枚だと……

どんだけだよ! 見ると、男の方も引いていた。

姉御、いくらなんでも、それは悪徳商売すぎるぞ!

俺は文句を言おうとしたんだ。


 そこに店の奥から、一人の男が出てきたんだが……


 え、姉御が怯えている。

オーナーだと、偉い人じゃねえか!

え、俺にも話がある? なんでだ? こっちは被害者……


 とりあえず、俺は別室に連れていかれた。

酒が出てきたもんで、ついつい飲んだんだが……

無茶苦茶いい酒じゃねえか!

いったい、これはいくら位するんだ?

後で金、取られねえだろうな……


 暫くすると、オーナーが部屋に来た。


「待たせてすまないね。アキュレー様には私も世話になっていてね、君の事も話には聞いていたんだ。ところで大剣の事は……」


 あの大剣は、あの男が持つ事に意味があるらしい。

話はオーナーの方から、母ちゃんにしてくれるそうだ。

俺にはよく分からねえ、だが、母ちゃんには殺されなさそうだ。


「この腕輪は君が作ったのかい?」


 あー、あのシールド付きの腕輪か。

そういえば、姉御に言われて前に作ったな……

ん、壊れている? なんでなんだ?


 オーナーから話を聞いてく内に、俺の目ん玉、飛び出そうになったぜ!

あんな、のボーッとした見た目の男が、そんな激戦を連戦してるだと!

スゲェじゃねえか!


「それでなんだが、ここをこうして……」


 オーナーからは、更にパワーアップできないか? という話だった。


 俺の作品が壊れるなんて、許せねぇ!

分かった。死ぬ気でやってやるよ!

装飾は専門じゃねえが、構想は出来た。


 え、金に糸目はつけなくていい?

マジかよ……なら、俺に任せとけ!

あんたも驚く程の、凄い品物を造ってみせるぜ!



 四日後……


 眠い……だが、出来た。完璧だ。


 出力も前とは比較にならねぇ、魔力の供給が多く必要だが、あの男なら問題無いらしい。

人は見かけによらないもんだな。

ただのスケベそうな、中年のおっさんにしか見えねえんだが……


 母ちゃん、今、何処にいるんだ?

は、早く会いたいぜ……グーグー……




 こうして、俺はオーナーに見初められ、この店専属の装飾師になった。

鍛冶も続けていいと言われた。ありがたいことだ。

俺はこの街で一人前になって、母ちゃんに褒めて貰うんだ。


 そう思っていたのに……まさか……


 オーナーの報せで、俺は急いで冒険者ギルドに駆けつけたんだ。

母ちゃんが、あの強い母ちゃんが死んだって……

嘘だよな。

あの母ちゃんが死ぬわけない……

でも……本当だった。


 母ちゃんの死に顔は安らかだった。

自分がやるべき事をやりきったんだろう。


 母ちゃんは、生前、よく言っていた。

自分に恥じない生き方をする様にって……


 俺も前を向く。


 一度故郷に戻り、母ちゃんを還した後、またこの街に戻ってくる。

一人前の男になって、天国の母ちゃんに恥ずかしくない生き方をするんだ。

俺は必ず、世界に名前を残す職人になる。

もう決めた。


 そうだ! 俺の事はいいけどよ。

母ちゃん……父ちゃんの事を見守っててやってくれよな!

"ロマン飛行"で、どっかに飛んで行きそうだからな……

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