73話 再開と裸のおっさんと
戦い終わって……
スケアという女が適正だった指輪は、返済ボックスに入れ、消滅させた。
ナキュレイの鎚も入れようとすると、この鎚には意思があり、抵抗されたのだ。
しょうがないので、グリーフが作った対抗液で、できる限り浄化をしておいた。
不安も残るが、鎚が言うには、"暫くはこれで大丈夫"とのことだった。
そして、修平達は街へと戻る。
「むう、流石にこれは……」
改めて街を見ると、その損害が酷い。
中心部こそ、結界のお陰で無事だが、外側部分は巨人が踏み荒らし、瓦礫の山と化している。
住民達の姿も、ちらほら見える。
破壊された家を見て、嘆く者。命が助かったと喜ぶ者。
皆、様々な想いがあるのだろう……
「これから復興しなくちゃいけないのか、でも……」
防衛しているだけでは、被害が収まらない。
おそらく放っておけば、奴らはまたやってくるだろう。
ナキュレイの協力の元、ガリオン帝国内部の情報も知ることが出来た。
「そういえば、あの兵士達はどうするのニャ?」
わ、忘れてた……
最後のインパクトが強すぎて、記憶が空の彼方に旅をしていた様だ。
「ゴルドに聞いてから決めよう」
修平はゴルドに丸投げした。
一応は敵の兵士なのだ。
勝手にこの場に出すわけにはいかないだろう。
「おーい、修平!」
アリエル達もやってくる。
あの後、こちら側には敵の部隊はこなかったそうだ。
今回の戦いでも、皆無事だった。
街の損害を考えると頭が痛いが、生きていればなんとかなるのだから……
修平達は冒険者ギルドに着く。
前回と違い、人の数が減っており、すし詰め状態は無くなっていた。
リリアはすぐに修平に気づき、ゴルドのいる会議室へと一緒に向かう。
心なしかリリアの顔が赤い気がするが、働きすぎて熱でもでたのだろうか?
彼女も頑張りすぎるところがある。
もう少し、自分の事も自愛して欲しいものだ。
「皆はここで待っててくれ。俺はゴルドの所に行ってくるから」
自分以外の仲間は、ギルドのロビーで休んでもらう事にした。
連日、連戦、皆の疲労もピークだ。
まだ人は多いが、全員が座れるくらいのスペースはあるだろう。
部屋に入るなり、修平はゴルドに抱き締められた。
勘弁してほしい。
抱きつかれるならば、女性の方がいい……
修平はオッサンズラブではないのだ。
「助かった。お前にゃ、もう足を向けて寝れねえな!」
修平はゴルドに、戦闘での詳細を話す。
それを聞いたゴルドは唸っているが……
「リンネ? ガリオンの次期帝王がそんな名前だったな」
次期帝王か……
しかしあの調子だと、またやってくるだろう。
その前に、こちらから攻めることはできないのだろうか?
「街がこんなだからな。衛星都市も少なからず被害が出ている。敵は待ってくれねぇが、出せる戦力も限られてくる。はあ、次から次へと……髪の毛が生えてたら全部抜け落ちそうだぜ……」
「ゴルド、ただいま〜」
口調の軽いエルフがいきなり会議室に入ってきた。
後ろにいるのは、もしかしてアメリアか?
生きていたのか……良かった。
それに、一人の男がドワーフらしき女性を抱えている。
「お、おまっ、今まで何処に行ってたんだ! こっちは滅茶苦茶大変だったんだぞ! おいっ、エネル! ちゃんと聞いているのか?」
エネルと呼ばれたエルフは"もう疲れた"と言って、椅子にドカッと座る。
「アキュレーの遺体を頼みたいんだよね〜、できれば西の故郷へ還してあげたいから〜」
あの女性は既に亡くなっているのか……
どのように優れた薬でも、命を取り戻す事はできない。
それにしても、人の話を聞かないエルフだな。
「ん、君がアメリアに聞いた勇者君か〜。ふむふむ、あれ? その鞄はどこで〜?」
エネルは驚いている様だ。
もしかして、彼の魔法の鞄なのだろうか?
中に入っていた各種ポーション、既に結構使ってしまったのだが……
エリクシールやキュアオールのお金なんて、とてもじゃないが払えないぞ。
「そうか……巡り巡ってか〜、ふふっ、気にしないでそのまま使うといいよ〜、あ、そうだ! 中に一枚のカードが入ってない?」
修平は鞄の中を調べる。
すると、確かに一枚のカードがあった。
「うん、西の大陸に戻る事があったら、使うといいよ〜、今は何処に埋まっているかな〜、探してみてね!」
エネルの言っている意味が訳がわからない。
だが、今考えてもしょうがないか。
西の大陸には、まだ戻る事はできないのだから。
「すいません、リリアです。敵の捕虜である彼女を連れてきました」
そういえば、ゴルドにも詳しい話をしてもらおうと、リリアにはナキュレイを呼んでもらった……
「ナキュレイ?」
ナキュレイが入ってくるなり、男が口を開いた。
「え、お父さん?」
は? 親子? この男とナキュレイが?
二人は抱き合い、涙を流している。
感動の再開なのだが、情報量が多くて……
二人から詳しい話を聞くと、運命とは、なんとイタズラなものかと修平は思う。
男の名はラギアというらしい。
エネルからも、魔武具は浄化できるとの事を教えてもらった。
なんということだ。
ほとんど消滅させてしまったではないか。
浄化してから返済ボックスに入れれば、かなりの額になっていたかもしれない。とても悔やまれる。
誰かお金下さい!
エネルには、ナキュレイの鎚を完全に浄化してもらった。
「ごめんね〜、もっと詳しく話してあげたいんだけど、思い出すと胸がぎゅ〜ってなるんだよね〜、辛くて……」
嫌な思い出なのだろう。
誰しもあるものだ。仕方ない。
そちらの話も大方終わり、次は捕虜の話になった。
千人もの兵士なのだ。
普段なら問題無いが、今は扱いに困る。
捕虜を入れておく牢屋は外壁近くにあった為、破壊されてしまっているのだ。
かと言って、このままボックスに入れておいていいのかもわからない。
今まで人は何度も入れた事があったが、だいたいはすぐに取り出しているからだ。
「黒い鎧は精神を蝕む。無くなったんなら、案外手助けしてくれるかも知れんぞ」
ラギアの言葉により、ゴルドも覚悟を決める。
「少しずつ解放してみるか……おいっ、すまねぇがロビーを空けてくれる様、手配してくれ!」
暫く経ち、ロビーから全ての人はいなくなった。
併設してある酒場は二階にあり、他の者はそこで待機している。
これで万が一捕虜が暴れだした場合でも、すぐに取り押さえれる。
「よし、出してくれ!」
ゴルドの指示で、修平はボックスからボードを呼び出し、とりあえずは、十人の捕虜を取り出す。
出てきた屈強な男達は、皆裸だ。
これも仕方ない。
生き物以外は、全て返済にあてられてしまう。
それには服も含まれる。
だが、オッサンズの裸。
いったい、誰得なんだろう?
捕虜の男達は互いに見合うと、涙を流して抱きしめ合った。
一瞬、そのケがあるかとも思ったが、男達の話を聞いていると、無理矢理にあの鎧を着せられていたそうだ。
修平に感謝の言葉を告げ、端へと寄せられる。
「これなら、復興の手助けになるかもな。よし、次だ!」
修平は再びボックスから取り出そうとしたのだが、間違って"全て"のボタンを選択してしまった。
「あ、やべっ!」
修平は急いで、その場から離れようとしたのだが、時既に遅かった……
出てきた裸の男達でロビーが埋め尽くされる。
更にはロビーに入りきらずに、二階の酒場まで人の波は到達しようとしていた。
「おいっ! 何やってんだ!」
ゴルドの怒りの声が修平に向けられる。
「いや、わざとじゃ……」
修平の周りも、裸の男達に囲まれおしくらまんじゅう状態だ。
だが、修平は目の前を見ると、あの眼帯をしていた女が、裸でピッタリとくっついている。
「おい、これはどういうつもりだ!」
そういえば、最後に入れたのは……この女だったな。
「裸にして、私を辱しめる気か!」
いや、誤解です。裸なのはボックスの仕様なんです。
「なんだ? おいっ、固いものが私の下半身に当たっているぞ!」
せ、生理現象です。男なので……
「お、大きくなっていくぞ! なんだこれは?」
さ、最近ご無沙汰なもので……
酒場からは、女性達の冷たい視線が修平に浴びせられる。
「ふ、不可抗力だから、狙ってやってないから〜〜〜!」
全て言い訳にしか聞こえない。
前屈みになりたくてもなれない、裸のオッサンズに囲まれた、不憫なおっさんなのであった。