71話 ファーデン防衛最終局面(前編 )
巨人を倒し、ギルドに向かう修平達。
冒険者ギルド本部は中心に近く、建物は無事だった。
しかし中心部に近づくにつれ、道から建物から、避難した民で溢れかえっている。
修平達は人をかき分け、ようやく、ギルドに入る事ができたのだが、ギルド内部にも人の波が押し寄せている。
あまりの人の多さに、ゴルドの姿を見つける事ができない。
「修平さーん! こっちです!」
どこからか、聞き慣れた声がする。
声のした方向をみると、人混みの中から、手だけ見えた。
修平はやっとのことで、手のあった場所に辿り着く。
手はリリアの手だった。
「気づいて良かった。おかえりなさい、修平さん。え……修平さん? その二人の女性は……」
リリアはアリエルとラミィを交互に見て、涙をうっすらと浮かべながら、修平を見つめる。
「私とは遊びだったんですね……」
リリアたん、いきなり何言ってるの?
君とは"C"どころか"A"もしていないよね!
アリエルとラミィも、そんな目で見ないで!
無実だから! リリアとはまだ何もしてないから!
我が息子はそんなに暴れん棒じゃないから!
まったく説得力は無いかもしれないが……
「リリア……勘弁してくれ……」
「嘘です。すいません。最近、ちょっと疲れていたので、からかってしまいました♪」
酷いよ、リリアたん……
そんな可愛く舌をだされても……許すけどね!
おっさんは単純だった。
修平達はリリアの案内により、ゴルドのいる会議室に連れて行ってもらったのだが、それにしても移動に時間がかかる。
「リリアです。入ります!」
会議室に入ると、疲れた顔のゴルドが書類の山に囲まれていた。
「おう、ギリギリ間に合ったな。助かったぜ。あの装置があんなに魔石を喰うとは思ってなかったからな……」
街が創設されてから、使うのは初めてらしい。
まさかのぶっつけ本番とは……
成功したから良かったものの、失敗していたらと考えると、なんと恐ろしいことか。
ゴルドから使った魔石の総額を聞き、倒れそうにはなったのだが……
なんと、白金貨百枚分だそうだ……
それだけの魔石を、よく備蓄していたものだ。
「持ち運び用の通信機は一つしかなくてな。そいつの報告では、軍艦は湖に着水したそうだ。最終的には、川を下って、西大陸まで行こうとしているのかもしれねぇ……湖近くの街には避難警告は出したが、ノンノは連絡がつかねえし、頭がいてぇぜ……」
「おやっさん!」
レイリーも遅れて、会議室に入ってきた。
山本さん達は沢山のドワーフに囲まれている為、外で待つそうだ。
「おう、レイリーもご苦労だったな。お前らも疲れているところ悪いが、アハト経由で港町に向かってくれ。西の本部には一応連絡したが、もし軍艦が川を下るとなると……はぁ」
改めてゴルドは修平に向き直る。
そして、意を決し、口を開く。
「なぁ、勇者さんよ。あの軍艦、なんとかならねぇか?」
リリアは凄くびっくりしている。
どうやら、リリアは修平が勇者だとは、本部から知らされていなかったみたいだ……
開いた口が塞がっていない。
そんなリリアも可愛いのだが……
実は黒い鎧の軍団に対し、修平は一つ、作戦を思い付いたのだ。
だが、その作戦にはそれなりに力をもった者が必要なのだ。
故に、レオニアル、山本さん、修平の三人で向かうつもりだ。
敵がクロイツに向かって来る事も、想定しておかなければならない。
アリエル達は街に残り、防衛にあたってもらおう。
修平は山本さん達と合流する。
「もういいから、いい加減に離れるニャ!」
山本さんはドワーフにもモテる様だ。
あまり嬉しくはなさそうだが……
だって、髭面のじいさんばっかりだから……
カミュにはアリエルと合流するよう、お願いをした。
カミュの後を、ドワーフ達がぞろぞろとついて行っている。
姫様も大変だな。
修平達はレオニアルの所に戻ってきた。
馬車の前にはレイリー達がおり、レオニアル達を降ろすと、急いでアハトに向け走って行く。
レオニアルも既に起きており、今は軽く体を動かしている。
「レオニアル、体はもう平気なのか?」
腕と足が潰れるほど、酷いダメージだったのだ。
エリクシールの効果により、どういう過程で治ったのかは知らないが、神経等は大丈夫なのだろうか?
すると、ライオンはニヤリと口角を吊り上げる。
「なかなかできない経験だった。だが、借りは返させてもらおう」
やる気満々だな。頼もしい。
修平は思い付いた作戦を、レオニアル、山本さんの二人に話す。
「ふむ、では儂はあの巨人を押さえよう。なあに、一対一なら次は負けはせん」
一体逃げたから、二体いるかもしれないが……
レオニアルなら大丈夫だろう。
ファンケル達にはカミュと同じく、アリエルと合流するようお願いした。
「わかりました。修平さんも無理だけはしないで下さい!」
修平は頷く。
そして、三人は軍艦が停泊する湖に向け、走り出すのであった。
《ガリオン帝国side》
バタンッ!
現在、湖に停泊している軍艦、その一室の扉が勢いよく開かれる。
「おい、サラ。結界が消えたみたいだぞ。今がチャンスじゃないのか?」
どうやら、ネディは乗り物酔いから復帰した様だ。
ネディ達はクロイツの結界を巨人達に任せ、ノンノの街を壊滅させていた。
時間がかかるようなら、ツェーン、アハト、アインスも順次壊滅させる予定だったのだ。
だが、クロイツの結界は壊れた。
ならばと思い、ネディはサラ達に報せにやって来たのだが……
部屋の中には、スケアとサラ、そしてナキュレイが紅茶を飲んでいるところだった。
「ガールズトークに華を咲かせていたの。ネディ、邪魔しないでくれる?」
青い顔をした、ナキュレイは思う。
(捕虜の拷問の話はガールズトークと言えるのかしら? もう勘弁してほしいのだけど……)
スケアは無表情だ。
「そんな事を言っている場合か! 速く、クロイツを落とすぞ!」
バタンッ!
再び扉が勢いよく開き、一人の黒い兵士が飛び込んでくると、一体の巨人が逃げ帰ってきた事を告げる。
「何? 結界を攻略したのではなかったのか?」
巨人に対して命令することはできるのだが、話を聞くのは無理なのだ。
「……いったい何が起きた?」
「ネディ、落ち着きなさい。巨人は軍艦を運ぶ為に必要だっだ。クロイツを攻略するだけなら、私達だけでも大丈夫でしょう?」
サラは自身の装備を整え、部屋に入ってきた兵士へと出撃の準備をするよう言伝てする。
兵士が勢いよく部屋を出ていくのを見送ると、サラはスケア、ナキュレイ、ネディの順に発生させた"黒いモヤ"を纏わせる。
「あなた達の恐怖は"忘却"させたわ。さて、戦争を始めましょうか♪」
サラは沢山殺し、拷問する事により、既に、力をかなり蓄えていた。
だが、まだ足りない。もっと、もっとだ。
リンネの為に、更に力を蓄えないといけないのだ。
スケアとネディも頷く。
ナキュレイも頷くが、頭では違う事を考えていた。
(何故か巨人がやられたけど、考え様によっては……チャンス到来ね……)
四人は軍艦の甲板に出ると、そこには既に千人の兵士が、一子乱れぬ綺麗な隊列を組んでいた。
何かを叩く音が聞こえる。
ナキュレイはふと横を見る。
リーダー格の巨人が、逃げ帰ってきた巨人を折檻していたのだ。
気を失っているのか、逃げ帰ってきた巨人は、既にまったく動いていない。
口から泡を吹いているが、大丈夫なのだろうか?
「それでは、クロイツを落としましょう♪」
「皆、行くぞー!」
ネディの号令と共に、千人の兵士達は怒号を響かせる。
黒き軍団は、クロイツに向けて進軍を開始したのだった。
AとかCとか、今の人はわかりますかね?
わからない場合はご想像にお任せします。