70話 サザンジャイアントとの攻防
はっ! あまりのショックに、暫し気を失っていた様だ。
白金貨十枚か……
エリクシールさえ量産できたら、このくらいの借金なんて、すぐに返済できるのではないだろうか?
「なぁ、レイリー。エリクシールってどうやって作られているんだ?」
レイリーは首を降る、他の皆を見てみるが、皆、首を降っている。
「おそらく、今は誰も作れないわ。だからこその値段ね」
メイの一言により、おっさんの思惑は崩れ去る。
「それもそうか、十億だからな……グスン……」
やはり、現実はそう上手くいかないものである。
これは涙ではない。おっさんのエリクシールなのだ。
「おいおい、しっかりしてくれよ。もう少しでクロイツに着くみたいだぜ」
馬にはかなり負担を強いているが、現在、かなりのスピードで馬車は進んでいる。
この強い馬達でなければ、この強行軍は耐えられなかっただろう。
馬車の中はさほど揺れていない。
だが、最初に行者をしていたサイコが交代で戻ってくる時、入ってすぐに、吐いて倒れてしまった。
表は凄い事になっていそうだ。
今でも、外からはパスモンの雄叫びが聞こえてくる。
おそらく、彼らはクロイツに着いたとしても、戦闘には参加できないだろう。
「おい、旦那! 窓の外をみてくれ!」
ダニエウの言うとおり、窓から外の様子を覗き込むと、クロイツの外壁が……既に崩れて無かった。
街も瓦礫の山だ。
ここからは馬車では無理だろう。
街の中心部を見てみると、凄まじい光景だった。
中心の小高い位置にある建物から、半径三百メートルの円形状にドーム型の結界が張られ、巨人達の攻撃を防いでいたのだ。
巨人達も囲む様に、結界を必死に攻撃しているが、今の所、たいした効果は無いようだ。
未だ結界にはヒビも入っておらず、これならば耐えきる事もできるのではなかろうか。
「修平、急ぐぞ! 大丈夫そうに見えるが、維持にはかなりの量の魔石が必要なんだ。"備蓄が底をついたら壊れる"っておやっさんが言ってたからな!」
しかし、巨人達はいるが、軍艦の姿が無い。
軍艦は何処にいったのだろうか?
「軍艦なんだから、もしかしたら湖の方にいったのかもしれないわね」
「修平、急ごう。どうすればいい? 作戦を教えてくれ!」
作戦か……
「難しい事は考えニャいで、一人一体倒せばいいニャ」
山本さん……見た目によらず、なかなか豪快だな。
確かに時間もない。
巨人側からすれば、後ろからの奇襲だ。
こちら側の有利に進むかもしれない。
「修平さん! あれを!」
ファンケルが叫ぶ。
次から次へと何だ? あれは……
ツェーン側から、違う巨人の群れがやってきている。
一、二……全部で五体もいる。
背丈はクロイツを攻撃している巨人より小さいが、奴等の援軍だろうか?
「あれは……やっぱり!あの巨人はジュエルジャイアントといって、味方です。もしかしたら、爺やが呼んだのかもしれません!」
カミュ、爺やって誰? しかも、巨人が味方?
色々ありすぎて、わけわかめ〜、なんだけど……
カミュの話によると、彼らジュエルジャイアントは知能も高く、宝石が好物らしい。
カミュ達、北のドワーフとは協定を結んでいるそうだ。
目を凝らしてよく見ると、ジュエルジャイアントの肩には、一人のドワーフが乗っている。
よく落ちないな……
ジュエルジャイアント達はそのまま、サザンジャイアントと激突するつもりか……
だが、大きさもさながら、数でも負けている。
このまま放っておけば、いずれやられてしまうだろう。
「急いで加勢しよう! 皆、無理はするなよ!」
レオニアルはまだ意識が回復しておらず、ダニエウ達に任せる事に。
サイコとパスモンもダウンしている。
安全策として、ファンケルもこの場で待機させる。
残りのメンバーでサザンジャイアントへと向かう。
どうやら、リーダー格の巨人はいないようだが、それでも六体は残っている。
北側に二体、東側に二体、南と西に一体ずついる。
レイリー達はパーティーで南側から、北側はやって来たドワーフとの連携の為、カミュと山本さんを、修平達はそのまま突っ込み、東側から叩く。
作戦が決まると、各々、素早く動きだす。
「じゃあお先ニャ、しっかり掴まっているんニャよ!」
カミュは山本さんが背中に担ぎ、凄まじいスピードで消えていった。
やはり、凄いな山本さん。
こちらも負けてはいられない。
「まずは巨人を駆逐するぞ!」
進○の巨人みたいだな、立○機動装置は持っていないが……
巨人の足下近くまで来たのだが、流石に大きい。
だが、結界を攻撃するのに夢中で、まだこちらには気づいて無いようだ。
巨人とはいえ、体の構造は人体とさほど変わらない筈。
「チェーンソー! からの〜! ふんっ!」
修平は持てる限りの力で、一体の巨人の足、それもアキレス腱の部分を切りつける。
その一撃は巨人のアキレス腱を切断し、巨人は膝をつく。
三つの目が修平を睨む。
巨人もようやく、こちらに気づいたようだ。
しかし、巨人の頭が下がった事で、顔が狙いやすくなった。
そこにラミィが風の矢を使い、巨人の三つの目を、全てい居抜く。
目を全て失った巨人は、痛みからか、黒いハンマーを無茶苦茶に振り回すが、運悪く(こちらにとっては運がいいのだが)、もう一体の巨人の顔に命中した。
顔にハンマーの一撃を喰らった巨人は、ふらつき、後ろに倒れてしまう。
「はあっ!」
そこに、アリエルの土の大剣が振り下ろされる。
アリエルが使っている土の大剣が、いつもより大きい気がする。
どうやら、前にルミルに買わされたアクセサリーのおかげだろうか。
アリエルの胸元を見ると、ペンダントがうっすらと光っている。
一千万もしたのだから、このくらいの効果はあって当たり前か。
……結果オーライだな。
アリエルの振り下ろした剣は、そのまま巨人の喉を切り裂いた。
巨人の首からは、噴水の様に血が吹き出る。
そのまま巨人は絶命した。
「デカいだけで、大したことは無かったわね」
ラミィの方を見ると、目を潰された巨人も既に倒されていた。
巨人の顔は燃やされた後に、凍っている。
氷は顔全体を覆っており、おそらく、巨人は呼吸ができなかったのだろう。
巨人のお漏らしで、地面が濡れている。
敵とはいえ、嫌な死に方だな……
しかし、良いことなのだが、あまり出番がないまま戦闘が終了してしまった。
南側のレイリー達はまだ戦っているようだが、北側からは"姫様〜"とドワーフ達の叫び声が聞こえてくる。
あっ、山本さんの影が……
刹那、サザンジャイアントが血を流しながら倒れると、ジュエルジャイアント達がフルボッコにしていた。
……酷い……
しかし、これならば、あちらも心配はないだろう。
劣勢と悟ったのか、西側の巨人が逃げ出した。
その直後、南側の巨人も倒れたのだが、瞬間、結界が音を立てて崩れ去る。
間一髪、危ない所だった。
軍艦の行方は気になるが、修平達はとりあえず、ゴルドの所に行くことにしたのだった。