69話 墜落と驚愕と
場面は修平目線に戻ります。
「いっけぇぇぇ!」
修平達は奈落から飛び上がり、ガリオン帝国の軍艦を追う。
高度は五十メートル程、スピードは風の聖霊と同じくらいだろうか。
これならば、あの軍艦に追い付くまで、それほど時間はかからないだろう。
ドラッドの街が見えてきた。
しかし、まだ軍艦の姿は見えない。
しかも、なんだか、妙に煙たい、けむたい……?
「修平さん! 背中に着けている装置から煙が!」
修平は顔を後ろに向けると、五つある内の両肩、腰の3つの装置から、もくもくと煙が上がっている。
「やべっ! 早く高度をもっと下げないと!」
ボンッ! ボンッ! ボンッ!
急遽、真下に軌道修正するが、その途中で3つ共、小さな爆発を起こし、砕ける。
「あだだっ! 衝撃が……この鎧じゃなかったら、体が吹き飛んでいたかも……しかも、バランスが……おわっ、おわわっ、お、おちるぅ〜!」
残っている装置は、背中と腰の一つだけ。
修平の体勢が崩れ、ファンケルを抱き抱えたまま、きりもみ状態でドラッドの街へと突っ込んでいく。
「スピードが……目が回る、風でクッションを……だけど、魔力が……」
修平が思っていたより、この装置は魔力を使う様だ。
全快近くまで回復していた筈だが、既に枯渇しようとしていた。
「僕に任せて!」
ファンケルが風の膜を複数、間隔を開け、展開する。
「あだっ! アダッ! あダッ!」
地面よりはマシといっても、それなりの衝撃が修平を襲う。
「せめて、土魔法で地面を柔らかく……」
最後の魔力を振り絞り、硬い地面を変化させる。
そこで修平は意識を失ったのだった。
なんだろう……妙に温かい感触が口の中に……気持ちいい。あ、離れていく。でも、このまま寝て……あれ? 何かやらなきゃいけない事が……
ガバッ! ポニョン!
「いてて……、あ、アリエル……ごめん、大丈夫か?」
修平は勢いよく起き上がった為、アリエルの胸に顔を埋めてしまう。
役得だが、今はそんな場合では無い。
「ファンケルは無事か? それに、何があったんだ、アリエル?」
よく見ると、アリエルには涙の後がある。
まさか、誰か……
「あっちで皆と一緒だ。たぶん、レオニアルの治療をしてる。たまたまエリクシールがあったから……なんとかなりそうだって……ラミィが言ってた。本当にヤバかったんだ……」
アリエルから話を聞くと、巨人と軍艦はドラッドの街には直接来なかった。
そのまま街の横を抜け、クロイツに向かおうとしたらしい。
そこに、レオニアルは単身で巨人を止めようとしたのだ。
皆は反対したのだが、あっという間に一人で飛び出し、レオニアルは巨人の群れに突っ込んだ。
結果、三体の巨人は倒したものの、巨人達の勢いは止まらず、レオニアルはリーダーらしき巨人に踏み潰され、最後はハンマーで打ち上げられてしまった。
一瞬だったので、アリエル達は見ている事しかできなかったそうだ。
巨人達が去った後、レオニアルは、生きているのが不思議なくらいのダメージを受けていた。
右腕と右足は潰れ、黒いハンマーで殴られた衝撃で、内臓もかなり損傷していた。
カミュが全力で回復魔法をかけたが、命を繋ぎ止めているくらいの効果しかなく、皆、絶望していた。
そこに、自分達が街に突っ込んできたらしい。
しかし、リヴァ○兵長もびっくりだよ!
いくらレオニアルが強くても、流石に無理し過ぎだ。
偶然とはいえ、エリクシールがあって本当に良かった。
「早く、クロイツに向かおう。もう手遅れかもしれないが、被害を少しでも食い止めないと……」
アリエルが肩を貸してくれる。
今日はポーションを飲んで、何度も無理矢理回復している。
その反動が今になって、体にきているのだ。
「あの兵士が残っていた通信機を使って、クロイツに連絡はしたみたいだぞ」
それならば、住民の避難は……
しかし、巨人達のスピードはそれなりに速かった。
それだけに、あの大きな街の住民全ての避難が、間に合うのだろうか?
「そういえば、修平、背中のコレは何だ?」
アリエルは、残っていた二つの飛行ユニットを指差す。
「奈落の底でマジックバックを手に入れたんだけど、その中に入っていたんだ。3つは壊れたけどな」
修平は装置の説明をざっくりと話す。
アリエルはよくわかっていなかったが、何かを思いついたのか、欲しいと言われた。
まだ壊れていない残りの二つを渡したのだが……
アリエルは、いったい何に使うのだろう?
どのみち残りの二つでは、空は飛べない。
先ほども体勢を崩して、落ちてしまった。
レオニアル達のいる所に行くと、皆集まっていた。
流石のレオニアルも、まだ起き上がる事ができず、寝ている様だ。
だが、見たところ呼吸も安定している。
これならば、おそらくは大丈夫だろう。
修平は皆とこれからの事を話そうとした。
そこに、いきなり声をかけられる。
「おーい!」
声のした方を見ると、声の主はレイリーだった。
前に修平も借りた馬車で、こちらへと向かって来ている。
「おやっさんから伝言だ! クロイツに早く戻って来てくれってよ!」
レイリー達は、ドラッドからの通信があってすぐ、ゴルドの指示により、巨人を迂回しながらこの街に来たそうだ。
皆、急いで馬車に乗り込む。
レオニアルの他は怪我をした者もいない。
皆も無事で良かった。
作戦も無しに、あれと対抗するのは無理がある。
しかし、レイリーが来てくれて、正直助かった。
借りてきた馬車は、巨人の群れが起こした振動で恐慌状態になり、皆が気づいた時には、何処かに逃げていってしまっていた。
また弁償ですか……仕方ないのだが……本当に乗り物運が無い。
馬車の中で、現在のクロイツの状況を聞く。
レイリーの話では、比較的外側の住民は各衛星都市に、中央に近い住民は街の中心部に避難すると、ゴルドが言っていたそうだ。
なんでも、街の中心部近くには、外壁の特殊防壁とは違う、もう一つの特殊な結界が張れるそうだ。
一応、これは極秘情報らしいのだが……
「俺も見たことないけどな。Sランクになったら教えてくれるんだとさ。なぁ、あのライオン寝てるけど、鎧とかボロボロだな。どうしたんだ?」
レイリーに、巨人の群れに単身突っ込んだ話をするのだが、ふと、気になった。
エリクシールの値段って、いったいどのくらいするのだろうか?
「エリクシール? オークションでも滅多に出ることがないからな……俺は知らねぇ」
レイリーの後ろから、ニナがひょっこりと顔を出す。
「私、知ってるよ。オークションに一回だけ出品された時、たまたまその場にいたんだよね〜」
ニナが代わりに答えてくれたのだが……
エリクシールの値段を聞いて、倒れそうになった。
「え! し、白金貨十枚……だと……」
白金貨一枚で、金貨千枚分。それが十枚。
日本円で十億円……
ど、どんだけ〜!
最初の方をふと見ると、気になって、軽く修正しています。
話の筋は変わりませんが、修正頻度が……