7話 初めてのおつかい(依頼)
ヤバい! まさか、こんな事になるなんて……
土柱撲殺殺人事件になっちゃう!
「だ、大丈夫ですか?」
念のため、側で控えていたヒーラーの女性が慌てて駆けつけ、呪文を詠唱する。
手のひらから光が発し、イケメン青年へと降り注ぐ。
「気を失ってはいますが、大丈夫。そこまでの怪我ではありません」
修平は本心から、ほっとする。
たけのこ殺人事件にならなくて良かったと。
「ケビンさんはDランクなので。うーん、簡単に倒してしまうとなると、そうですね、少し初期ランクを上げた方がよさそうかな」
おぉ、スピード出世である。
元の世界では係長どまりだったのだが……
そして、イケメン青年はケビンというのか。
名前もイケメンだな。
「とりあえず、最初はFランクで。更に何個か依頼をこなしたら、次はEランクにあげましょう。それなりに実力はありそうですしね」
ありがたい事だ。
ランクが上にあがれば、高額な依頼料も貰えるだろう。
それとは別に、副産物でお宝とかが手に入るかもしれない。
ニヤニヤしているおっさん、周りから見ると、とてもキモいのだが……
「ではギルドカードを更新しますので、再度、受付にお願いします」
修平はカードの更新を待つ間に、依頼に何があるかを見てみる。
「ええと、今のランクで受けれそうなのは……」
ゴブリンの巣の駆除、キラーラビットの納品、北の廃墟のアンデットの間引きあたりが金額的には無難か。
薬草の納品とかもあるが、報酬が安い。
緑色の怪物は、やはりゴブリンだった。
定番中の定番は、そのままであった。
一度は見た魔物であり、毒消しや回復薬など、準備をしっかりすれば倒せるかもしれない。
「とりあえず、ゴブリンの依頼でも受けてみるか」
カードの更新が終わったみたいなので、修平は受付に依頼票を持っていく。
しかし、リリアは言いにくそうに修平にこう語る。
「あの……ソロでこの依頼はきついかもしれません。三十体はいるみたいですよ、ゴブリンの数が……」
おっさん、回れ右をする。
そんな数のゴブリンを倒せるのは、某ゴブリン◯レイヤーだけである。
「じ、じゃあ、このウサギのやつで……」
修平は怖じ気づいた。
「はい、では荷車をお貸ししますので使って下さい。一応、壊したら弁償してもらいますので、気を付けて扱ってくださいね」
「に、荷車が必要なの? ウサギなのに?」
リリアは不思議そうに、修平を見る、
「キラーラビットの体長は2メートルくらいなので、運ぶのに荷車はあったほうがいいですよ」
なにそれ、異世界怖い。
この時期に繁殖するらしく、ちゃんと間引かないと、増えすぎて生態系のバランスを壊すそうだ。
しかし、このウサギは群れでは行動しないようだ。
動きは単調らしく、狩るのはそこまで難しくないらしい。
ゴブリン程度の生き物は、足で蹴り殺すそうだが。
「血抜きの方もしっかりお願いします、ちゃんと処理がされてないと、査定で安くなってしまいますので……」
「了解でーす!」
仕方がない、稼ぎがないと返済もできない。
ウサギ一匹、銀貨15枚。
生息地の平原までは街から歩いて2時間程。
今からでは、帰って来る頃には城壁の門が閉まってしまう。
「そうだな……出発は明日にする事にして、色々と他の準備を済ませることにしよう」
トゥランの店はひととおり揃っているらしいし、なにより、タダにしてくれるらしい。
タダ、なんという甘美な響きだろう。
ありがたく、その言葉に甘えよう。
ギルドを出る際に、先程の破落戸にヤジをかけられる。
「おっさん! 棺おけ屋は出て右だぜ、ギャハハァ!」
うるさい! 飲んでばっかりいないで、ちゃんと働けダニエウ!
怖くて口には出せないが、修平はヤジを無視して進むのだった。
しばらくして、トゥランの店に着く。
「修平さんですね、旦那様から伺っております」
やはり、タダだった。
トゥラン、最高である。
「水袋とランタン、干し肉、乾燥ベリーと、くるまれるサイズの布、虫よけの塗り薬も、ポーションはあるのかな? 顔を拭くタオル、着替えの服と下着もなん着か……」
次々と注文するのだが、後半、店員の顔が怖い。
すいません、次からはちゃんとお金を払いますので。
ポーションは入っているビンを回収してくれと言われた。
どうやら、魔法でビンが割れにくくなっているようで、再利用して使うらしい。
「お、重い……」
リュックにパンパンの荷物を詰めて、宿へと戻ってきた。
昼はソイジョ◯を食べただけだったので、流石にお腹がすいてきた。
ダイエット女子か。
しかし、夕飯まではまだ少し時間がある。
仕方ないので、井戸水で水浴びをすることにした。
まだ季節が夏だからいいのだが、冬とかは無理だ。
恐らく、凍えて死ぬだろう……
「お風呂に入りたい……」
異世界生活2日目にして、修平は少々、ホームシックの様だ。
3日目の朝。
徐々に規則正しい生活になっていく。
疲れているのもあるのだが、夜は真っ暗で、別にする事もないので……
え、自家発電?
とりあえずは、おっさんの名誉のために黙っておく。
どうやら、スマホの電池は着実に減っているようだ。
夜中に井戸でこっそり水を汲んでいたら、女将に怒られたのは内緒である。
だって、手が……げふん、げふん……
リュックの中に必要な物だけを詰めて、ギルドから荷車を借り受け、修平は平原へと向かう。
城門の所に門番が一人いるが、ギルドカードを提示すれば、出るのはオッケーらしい。簡単だな。
「あれ? ナタリー?」
門の所に、ナタリーが馬を連れて待っていた。
「キラーラビットを狩りに行くと聞いてね。あたしも店の用事で結構頼まれるのさ。昨日、店からあんたが帰った後、狩りに行くって聞いてね。旦那様が一緒に行ってやれってさ!」
話を聞くと、ナタリーは護衛兼、店の専属の狩人らしい。
この時期になると、よくウサギを狩りにいくそうだ。
ティアナ達が襲われた時も、狩りに出掛けていた為、護衛には付いて行かなかった。
なんでも、今年は異常に数が多いとか……
その為、今年は狩りにいく回数も増えているそうだ。
「まぁ、肉はそれなりに旨いし。手足の腱は色々と使い道があるからね、数があるに越したことはないのさ!」
巨大なウサギを、あの曲刀でばったばったと倒すナタリーさん。
うん、創造できるな。
毎年の事なので、平原には処理するための小屋も設置されているそうだ。
なので、荷車と馬はその場所で待機させる。
「うん、準備オッケー!」
「ここから少し東に向かうと、ウサギの狩場に着く。準備はいいかい?」
一応は修平も作戦を考えておいたのだ。
後は現地で試してみるだけである。
「いた……」
聞いてはいたが、やはり大きい。
後ろ足で立ち上がると、頭一つ草むらの丈を越える。
数は……1、2匹いる。
群れないのではなかったのか………
「番かね、あたしは右をやるから、あんたは左を仕留めてもらえるかい!」
ウサギまでの距離は50メートル、こちらは風下だ。
それ故、まだ向こうは気づいていない。
ナタリーが駆け出す、そのスピードは速い。
ウサギがようやく、こちら側の動きに気付く。
ウサギがジャンプの動作に入る瞬間。
ウサギの後ろ足が、地面へと縫い付けられる。
ナタリーが腰に挿していた"ショートスピア"が、見事に後ろ足に命中している。
ウサギが前のめりに倒れると、ナタリーは剣を一閃!
ほどなくして、首から上が上空にはね上がり、ウサギは血飛沫をあげ倒れる。
この間、15秒しか経っていない。
修平も、ナタリーの動きを見ていただけではない。
もう一体のウサギも、相方が殺られた事に気付き、怒りながらこちらに向かってくる。
「地震! からの、血吸い棒!」
まず土魔法を使い、ウサギの足元周辺を揺らす。
バランスを崩してウサギが倒れたところに、地面から首周辺に向かって、土の槍が何本か突き刺さる。
次は地面から、槍の切り離し。
土の槍の根元から、ウサギの血が勢いよく吹き出す。
槍の中は空洞になっているのだ。
暫くふらつくと、ウサギはまったく動かなくなった。
「よし、成功!」
いくら修平が、ナタリー並みに力があるとはいっても、剣の技術がないのだ。
首の骨は硬い筈。
そう思い、修平が考えたのは、血抜きも済ませ、そのまま倒す方法だった。
これならば、獲物の傷も最小限で済む。
ナタリーが感心するように見ていた。
「なかなかやるね。これなら……それなりの数いけそうだねぇ……」
ナタリーさん、目が怖いです。
どうやら狩人スイッチが入ったみたいだ。
残りの処理を済ませ、次の獲物を探す。
同じ要領で、ウサギを見つけ次第倒していく。
修平達が帰る頃には、首の無い、15匹のウサギが荷車の上に横たわっていた。
修平が6匹、ナタリーが9匹倒す事ができた。
「なかなかの収穫だな!」
馬があって助かった。
これだけの重量のウサギを、人力だけで運ぶのは無理があるだろう。
これからは、馬の購入も考えておかないといけないな。
日が傾きかけた頃には、街に戻って来ることができた。
ナタリーの仕留めた分の獲物は、直接店の方に持って行くそうだ。
修平は荷車の返却とともに、ギルドにウサギを納品する。
状態もそこそこだったので、1匹、銀貨15枚で引き取って貰えた。
「異世界うまっ! 今日だけで銀貨90枚、日本円にして九万円かよ! 元の世界基準で考えると、凄い日給だな!」
この時期しかない常設依頼なので、いつもこう上手くいかないだろうが。
おっさん、笑顔ニマニマである。
「お疲れ様でした。傷も少なくて助かります。またよろしくお願いしますね、修平さん♪」
リリアの笑顔が眩しい。癒される。
しかし、彼女はその後に、冷たい目線を酒場の方に向けている。
酒場ではダニエウ達が大笑いして、酒を飲んでいる。
いや、君達いつまで酒場にいるの? ちゃんと働け、若者よ。
「まぁ、俺も今日ぐらい酒を飲もうかな〜」
ナタリーの助けはあったが、初めての依頼達成に、とても満足するおっさんなのであった。
しかし、異世界のビールは温かったのだが……
「キンキンに冷えてないのかよ……」