67話 奈落の底にあるものは……
久しぶりの休みで、昼からアルコールを飲んだら早く寝てしまい、変な時間に起きてしまった。
寝れないので、朝早くに書きました(笑)。
話は、おっさん達が奈落へと落とされたところからです。
「うっひいぃぃぃ〜〜!」
自然のフリーフォール、そして、フワッと内臓が浮く様な感覚。
修平はファンケルを抱きかかえ、奈落へ向けて真っ逆さまに落ちている最中だ。
できるだけ落下を緩やかになる様に、腕を広げ、面積を大きくするのだが、高度からの落下速度に加え、スキルによる重力の追加効果が加わり、落ちていくスピードが尋常じゃない。
このまま地面に落ちたならば、砕けた果実の様に、ぐちゃぐちゃになってしまうだろう。
「な、奈落の壁際にマグネットでブレーキを、やれるか? やらなきゃどのみち……死ぬか……」
奈落の入口、壁際ギリギリを狙う。
一歩間違えれば、地面にキス。ジ・エンドだ。
「頼むぞ、俺のちょい運。アンデッドとの戦闘でゲージが貯まっている事を信じるしかない」
感覚が研ぎ澄まされ、景色がスローに見える。
結果は…………とりあえず、第一段階は成功した。
奈落に入った瞬間、壁にマグネットを下に長く伸びるように設置。
違う極を自分側に生成し、右手に固く固定する。
命がかかっているのだ。
魔力を惜しんではいられない。
「もってくれよ、俺の腕! 折れるかもしれないが、まだ死ぬわけにはいかないんだよっと! ぐぅぅぅぅ!」
ギャィィィィィィ!
金切音と共に、凄まじい負荷が右腕へとかかる。
今にも腕が千切れてしまいそうな感覚。
更に魔力を放ち、下へ下へとマグネットのラインを伸ばす。
スピードは落ちてきた……だが、まだ止まらない。
「フェッ! し、修平さん! 僕は……」
激しい衝撃と音により、ファンケルが起きた。
「起きて直ぐで悪いが、左手も使いたいんだ! 落っこちない様に、おもいっきり俺にしがみつけ!」
ファンケルは言われた通りに、修平の首に腕を回し、足を腰に絡ませ、体をしっかりと修平の胴体に固定する。
既に右腕の感覚はあまり無いが、やるしかない。
修平は左手で背中からツヴァイフェンダーを外した。
そして両手を使い、おもいっきり壁へと突き刺す。
ガガガガガガガッ!
「止まれぇぇぇぇぇぇ!」
ガガガガガガガッ………ガガ……ガッ……
どのくらい経ったのだろうか……
時間にすれば一瞬だったのかもしれない。
「と、止まっ……た……のか?」
痛みがじわりじわりと襲ってくる。
両腕の感覚がまったく無い。
自分でも、剣をどう握っているか不思議なくらいだ。
額から流れる、油汗が止まらない。
魔力もかなり減ってしまっているのだろう。
今にも意識がとびそうだ。
どのくらい落ちたのだろうか?
しかし、ここから這い上がらねばならない。
「修平さん、大丈夫ですか? 汗が……」
一人なら諦めていたかもしれない。
ファンケルがいてくれたから、気持ちが保ったのかもしれない。
「ライトボール」
残り少ない魔力を使い、光魔法で周辺を照らした。
すると、少し下には地表が見える。
どうやら、最下層まで落ちてしまった様だ。
「危なかったな……ギリギリだった……」
ファンケルを抱えたまま、ツヴァイフェンダーを壁からどうにかして引き抜き、地表へと降り立つ。
周りを警戒するが、魔物の姿は無いようだ。
良かった。この状態での戦闘はかなりキツいところだった。
上を見上げてみるが、空の風景がまったく見えず、見えるのは暗闇だけだ。
奈落の底か……いったいどれだけの深さなのだろうか。
マジックバックはレオニアルに預けてきたが、ファンケルがポーション(上)を持っていたので、それを両腕へとかけてもらう。
すると、少し痛みが引いた。
完全には治らないが、何もしないよりはマシだろう。
「なんだか少し暑いですね……」
この場所はマントルに近いのだろうか?
外では雪が降り始めるほど寒いのだが、ここは確かに少し暑い。
クラッ……
「安心したら意識が……これは魔力欠乏か?」
修平はその場に倒れる。
「あっ、修平さん!」
ファンケルの声は聞こえるのだが、体が動かせない。
修平はそのまま意識を失ってしまった。
どのくらい経ったのだろうか……
気がついた時、頭はファンケルの膝枕の上だった。
真っ暗闇の中、ファンケルはずっと待っててくれたのだ。
「悪いな、ファンケル。怖かっただろう」
「気にしないで下さい。僕にできる事はこんなことぐらいですから……」
修平はファンケルの頭を撫でながら、再び空中にライトボールを灯す。
それにしても、レオニアル達は無事だろうか?
あの大きさの巨人の群れでは、流石に手が出せないだろう。
上手く逃げてくれているといいのだが……
心配ではあるが、今は考えてもしょうがない。
とりあえずは周辺を調べてみることにしたのだが……
「あれは?」
こんな場所なのに、あの白いモヤが見える。
誰かの未練がこんな所にあるのだろうか?
見た目が幽霊みたいで少々怖いのだが……
「なんだ? 一ヵ所でくるくると? ふむ、ここを掘るのか?」
修平は独り言を言いながら、ツヴァイフェンダーをスコップの代わりにして掘っていく。
だが、掘っても掘っても何も出てこない。
修平は自棄になり、かなりの深さまで掘っていく。
「修平さん! どうしたんですか! しっかりしてください!」
ファンケルから見た修平は、ぶつぶつ喋りながら、いきなり変な行動を取り始めたとしか見えなかったのだ。
既に穴の深さは五メートルになろうとしていた。
諦めかけたその時だった……
カツンッ!
硬い何かにぶつかったのだ。
「これは……まさか、マジックバックなのか?」
土の中に埋もれていたのは、古びた鞄?だった。
形状が今まで見たことが無いような形をしている。
大きさはそれほど大きくもないのだが、材質があのスーツケースに似ているような気がする。
白いモヤは、暫くの間鞄にまとわりつくと、スッと消えていった。
修平は鞄の中に手を入れてみる。
そうする事で、マジックバックの中に入っている物が、頭へと浮かんでくるのだが、結果、鞄の中身が凄かった。
各ポーションの最上級だけでなく、欠損部位さえ治すといわれる、幻のエリクシールまで入っていたのだ。
更には……
「飛行ユニット? なにそれ?」
物がよくわからないので、とりあえず出してみる。
すると、五つの四角いパーツと一枚の紙が出てきた。
紙には試作品と書かれており、どの様に使うのかが、事細かに書かれていた。
どうやら、これは胴体の背中側に装着するみたいだ。
試しに鎧の上から書いてあった場所へと装着していく。
両肩、背中の真ん中、腰に二つ。装着完了。
「ふむふむ、これで魔力を軽く流すと……ファッ!」
体が徐々に浮き上がり、空中に固定される。
よく見ると、装着した各々のパーツから、小さい魔方陣が浮かび上がっている。
「凄い、凄い! 修平さんが空も飛べる様になった!」
ファンケルが凄く喜んでくれている。
確かに、ちょっとワクワクする。
心配なのは、これが試作品だということだ。
いきなり落っこちないだろうな……
念のため魔力ポーション(最上級)を飲んだ。
これで魔力の心配ないだろう。
修平はファンケルを抱き抱える。
ファンケルは鞄を落とさないように、しっかりと胸に抱きしめた。
「先の魔力で浮くだけだったからな、これならどうだ!」
そして、修平は魔力をかなり強めにして、飛行ユニットへと流し込んだ。
ブゥゥゥゥゥ!
シュゴォォォォォォ!
風が周囲に巻き起こる。
すると、ジェット噴射の様に勢いをつけ、二人の体は上空へと上がっていく。
「いっけぇぇぇぇっ!」
ライトボールを先導させながら、凄まじいスピードで奈落を駆け上がる。
「修平さん、空が!」
ああ、空ってこんなに青かったのか……生きているって素晴らしいな!
「奴らの狙いはクロイツを落とすことだろう。急いで奴らに追い付くぞ!」
修平とファンケルはクロイツめがけ、全速力で翔ぶのであった。