65話 ドレッドでアンデッド退治
山本さんが仲間になりました。
山本さんを連れ、宿に戻る。
皆も宿へと戻ってきていたのだが……
「む、お前は山本さんではないか。何故、お前がここにいる? お前には王の座を渡しておいただろう」
「ニャフ、お前はレオニアル。なんでこんな所にいるのニャ! あの後が大変だったニャ! ダラケようとしても、あっちで魔物、こっちで魔物。戦闘の連続なのニャ!」
いや、お前達、獣同士仲良くしてほしいのだが……
「フニャャ! ここで会ったがお前の運の尽きニャ、ァァニャフゥ〜ン……ゴロゴロ」
とりあえず、リリアから渡されたマタタビで大人しくしておいた。
まったく、獣だけに血の気が多いのか、なんなのかわからないが、こんな場所で争ったら宿が壊れるだろうに。
「修平、なんだこの猫は? ゴロゴロ言ってて可愛いぞ!」
そ、そうか、アリエルには山本さんが可愛く見えるのか。
どうみても、スレンダーで長身の、黒い化け猫にしか見えないのだが……
「おいっ! そこの猫! 俺達が旦那の一番弟子なんだぜ! ちゃんと弁えておけよな!」
弟子にした覚えも、何かを教えた事もないのだが……
変なところで対抗心をむき出しにするのは止めてほしいものだ。
カミュもファンケルも一緒になって、山本さんを撫でている。
「ニャフゥン♪ 女の子がいっぱいニャ。あっちでは何故か男ばかり寄ってくるから困ってたのニャ。吾輩はノンケなのになんでニャのか……」
化け猫のオーラがそうさせるのだろうか?
男ばっかり寄ってくるのか、それは嫌だな。
それはそうと、初心者用お試しダンジョンはどうだったのか?
「私には簡単すぎたけど、ファンケルやカミュには丁度良かったわね。魔物も自然に出てくるのだけど、どういう仕組みなのかしら」
この街だけではないのだが、この世界には、今の時代に合わない物が多々ある。
もしかして、これらは過去の文明の遺産なのだろうか……
しかし、魔石が紛失してしまった為、追加でお金を手に入れるのが難しくなった。
また何か金策を考えないと……
娘の事や、西から冒険者達が応援に来てくれている事を、皆に話したのだが……
うっすらと微笑む、ラミィの顔が怖い。
頼むから、娘には色々とチクらないで、一生のお願いだから!
ファンケルも"娘さんにも許可を貰わないと"とか言わないでくれるかな!
娘に"変態ね、お父さん"とか呼ばれちゃうから、本気で止めて!
はぁ、疲れる。
皆で話し合った結果、ドレッドのアンデッド掃討の依頼を受ける事にした。
アンデッド相手ならば以前の魔法も使える。
一気に片付けて、終わらせてしまおう。
それに、山本さんの実力も見てみたい。
猫だけに、いったいどのような動きをするのだろうか。
馬屋で馬車を二台借りた。
仕方ない。現在、総勢十二人になったのだ。
レイリーの特殊な馬車ならともかく、二台使っても、結構ぎゅうぎゅう詰めだ。
あの馬車を欲しい気持ちはあるが、金貨千枚越えは少し無理がある。
馬屋に聞いてみたところ、今、手に入れようとしても、オークションでの出品でさえ、かなり珍しいそうだ。
なんでも、世界に数える程しか無いらしい。
昔はこの特殊な馬車を手に入れる為に、殺人事件が起きた事もあるとか。
確かに、権力者はこぞって欲しがりそうだもの……
馬屋も修平達のニンフでの功績は知っており、尚且つドレッドのアンデッド退治の話をすると、かなりいい馬を選んで貸してくれた。
おかげで、日が沈む前にはドレッドの近くまで来ることができた。
しかし、ここからはアンデッドの時間だ。
明日の朝早くに依頼に取りかかる事にして、夜営の準備にかかる。
交代で夜の番をすることになったので、修平はシールドの効果を試してみることにしたのだが……
「これ結構、魔力をもっていかれるぞ……」
範囲は一つだけでも、前の腕輪より広い。
二つを合体させると、かなりの広範囲をカバーできる。
更には、絞る事や、形を変える事も可能だった。
狭くすると、シールドの厚みが増す様だ。
強度は一度試してみないとわからないが、これならばムーアの一撃でさえ、完全に防げそうな気がする。
「誰が作った物なのかな? 中々に凄いぞコレは」
新しい装備に、胸踊らせるおっさんなのであった。
次の日。
天気は……とうとう雪が降ってきた。寒い筈だ。
しっかりと防寒の準備はしてきたが、上に羽織る厚手のマントは動きを阻害しそうだ。
戦闘中は脱がないといけないかもしれない……
少し離れた所からドレッドの街を見ると、かなりの数のアンデッドが徘徊している。
レオニアルとカミュ。アリエルとラミィ。ファンケルとサイコ達。ダニエウ達、三人。修平と山本さんで各々チームを作る。
最初は修平の魔法で奇襲する。
無理はせず、確実に数を減らす作戦をとる。
「それでは始めるぞ! 溢れだす霊山の後光!」
その光は街の大半を照らし、弱いアンデッドはそのまま崩れ落ちる。
残っているアンデッドも動きが鈍くなっている。
各自、街中に散り、アンデッドを各個撃破していく。
修平は驚いた。
山本さんの動きが予想以上だったのだ。
黒い影が過ぎ去ると、アンデッドが崩れていく。
爪を上手く使い、的確にコアを破壊しているのだろう。
しかし、普段とのギャップが凄い。
これが男の獣人にとって、萌えなのだろうか?
「ニャ、ニャ、ニャ、ニャァァァー!」
のびのびとしているな。
よし、こちらも負けてはいられない。
研いでもらったツヴァイフェンダーは、心なしか切れ味も増している気がする。
縦に横にと振り回し、次々とアンデッドを倒していく。
勿論、落ちている魔石の回収も忘れない。
今回手に入れた魔石は、全て自分達の物になるのだ。
気合いを入れていかないといけない。
「あれは、赤いスケルトン?」
少し前方に、汚れた白色ではなく、色の赤いスケルトンが立っている。
赤いスケルトンは、こちらには聞こえないが、なにやら言葉を発した様だ。
すると、他のスケルトン達が赤いスケルトンへと集まっていく。
「でっかいニャ!」
ジャイアントスケルトンはこうやって出来上がるのか……
だが、レイリー達のジャイアントスケルトン戦の話も聞いているのだ。対策は可能だろう。
ジャイアントスケルトンは、砕けた骨の欠片を修平達二人に向かって投げつける。
「山本さん、俺の後ろに! シールド!」
ガガガガガガガッ!
一つのシールドでも充分、防げるみたいだ。
ならば……
「二つを掛け合わせ、突撃する!」
シールドをドリル状に変化させ、放出しながら前に進む。
魔力がゴリゴリと減っていく感覚はあるが、コアまで一気に突き進む。
後ろには、しっかりと山本さんがついてきている。
「隙ありニャ! ネコカッター!」
コアが一瞬だけむき出しになったところで、山本さんの鋭い一撃が決まった。
その攻撃はコアを真っ二つにする。
暫くすると、ジャイアントスケルトンは音を立て崩れ落ち、後には大きな魔石が転がっていた。
「プッハァ、よし! 次に行くぞ!」
修平は魔力ポーションを一気に飲み干し、次のアンデッドに向け走りだしていく。
昼過ぎには、街にいるアンデッドは、ほぼほぼ倒し終えた。
後は隠れて見逃している奴や、目には見えにくいレイスなどを片付けるだけだ。
みんなの所にも上位のアンデッドが出たらしいが、ダニエウ達以外は、苦戦しながらも倒せたそうだ。
どうやら、ダニエウ達はレオニアルの所まで逃げてきたらしい。
「だってよぉ、大きくて、グッチョグチョなんだぜ!」
「俺らの武器じゃ通用しなかったんだよ!」
「腐肉がこびりついて、とっても気持ち悪いんだな!」
ダニエウ達の所にはジャイアントゾンビが出たそうで、カミュの火の聖霊で燃やしたそうだ。
魔石も大小様々だが、かなりの数が集まった。
この街で亡くなった人の事を考えると複雑だが、こちらも生きる為なのだ。
「街で亡くなった人を想い、みんなで黙祷しよう」
自分達には、冥福を祈ることしかできないのだから……
念のため、一晩を街の中で過ごし、出てきたアンデッドを順次、始末していく。
朝になり、最後に強めの光魔法で街全体を照らした。
倒れそうになるが、アリエルとラミィが体を支えてくれる。
「まったく、修平はちょっと頑張りすぎだぞ!」
「まぁ、あなたらしいけどね」
誠に申し訳ない。
だが、これでこの街からアンデッドの脅威は去っただろう。
これから復興が順調に進んでくれるといいのだが……
だがその想いは、街に急遽駆けつけた兵士の言葉によって砕かれた。
「凶報です! 国境沿いの砦がガリオン帝国の攻撃により、壊滅しました! ギルド長から、あなた達はこの街で待機して欲しいとのことです!」
その報せは、ガリオン帝国による宣戦布告であった。