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62話 それぞれの過去と因縁と

「なぁ、この頭、なんとかならないか?」


 ラギアは雷によってアフロになってしまった頭をかきながら、三人についてくる。


「なんで俺は解放されてるんだ? おまけに短剣まで渡されて、後ろからブスりとか思わないのか?」


「早く死にたかったらね、勝手にやればいいよ〜」


 エネルは興味が無くなった様に、まったく気にも止めていない。


 アキュレーも肩を竦めるだけだ。


 アメリアは緊張しているのか、お互いを見比べキョロキョロしてはいるが……


「必要な事は聞けたんだ、もうあんたは用無しさ。何処へでも行けばいいんじゃないのかい?」


 ラギアは、ばつが悪そうにエネル達を見る。


「魔武具を無くして帰った日には、真っ先に粛清されるだろうからな。娘を助けだしたいんだよ。出来れば手を貸してほしい」


 エネルは手をヒラヒラと振ると、マジックバックから荷物を取り出し、夜営の準備に取りかかろうとする。

だが、ラギアは頭を地面に擦り付け、懇願する。


「頼むよ、この通りだ! 狂人だらけの中枢では、俺だけだと流石に無理なんだよ!」


 アキュレーはため息を吐きながら、飯の準備をしだす。


「都合のいいことばかり言ってもねぇ、あたしらも暇じゃないんだよ。まずはあんたから聞いたジューレイド城にいるっていう、因縁のある、あのくそ(じじい)をぶっ殺さないといけないからね」


 アキュレーは何かを思い出したのか、苛立ちながら持っていた斧で周辺の木を一気に薙ぎ倒した。


 その木を細かく切ると、アメリアに魔法で水分を抜いてもらい、薪へと変えていく。


 それでもラギアはすがりつく。

藁にもすがる思いでエネル達に頼むしか方法がないのだ。


 ラギアの妻は、娘が小さい頃、娘の心を壊す為だけに殺された。


 娘も適正の選抜で大ケガこそしたが、今になってようやく普通に戻ってきたのだ。

だが、それがバレてしまえば、娘も粛清の対象になりかねない。


 チルドレンと言われる者達。


 適正を持つ子供達を国中から集め、施設の中で戦闘技術を幼い頃から叩き込まれる。

現適正者の子供も例外では無く、逆に施設へと優先的に加えられる。


 今思えば、確かに妻を愛していたのかと言われると、よくはわからない。


 自身も同じ様に物心つく頃には殺し、殺されの現場にいた。

武具に選ばれ、たまたま生き残り、たまたま心が保っただけだ。


 妻も器量良しの女性を、国に只あてがわれただけかもしれない。

最初に会った時、妻は人形の様に感情が無かった。


 だが娘が産まれ、その顔を見た瞬間から、妻も自分も感情が徐々に戻っていった様な気がする。


 それがまさか、あんな事になるなんて……


 娘を守る事は妻の遺言でもある。

故に必ず守り通したい。

例え自分の命と引き換えにしたとしても。


「どのみち、君たちの言う魔武具は全て浄化する。遅かれ早かれね」


「頼むよ、娘は今まで適正が現れなかった鎚を持っているんだ。いつ心が闇に呑まれるかわからないんだ!」


 どうするんだ? とアキュレーはエネルを見る。


「はぁ、めんどくさいね。どのみちこのまま城に突っ込むわけにはいかないからね〜 近々ガリオン帝国が攻めてくるって言っていたけど、本当?」


 ラギアは頷き、地面に地図を書いていく。


「何をするにもファーデンの存在は邪魔になる。前回の同時に魔物が襲撃したのも、このお嬢ちゃんを拐ってこいと言ったのもロッドマンの実験の為だからな。魔物で成功したなら、次は人に試すと言っていた……」


 アキュレーが信じられないといった顔になる。


「まさか、自国民に使うというのかい? 正気じゃない! 戦いをしらない者もいるだろう?」


 ラギアは大きなため息をつく。


「言ったろ、だから狂ってるんだよ。ロッドマンは人の事など駒としか見ていない。現王であるリンネ様には一部の側近しか会っていない。もしかしたら既にロッドマンの傀儡になっているかもしれないけどな」


 エネルは考えながら焚き火をつつく。


「う〜ん、なら帝都に向かおうかな〜? ここからなら、途中に"あれ"があるところを通るはずだからね〜」


「"あれ"ってな〜に?」


 アメリアはエネルとアキュレーの会話に割り込み、不思議そうに聞いてくる。


「あんたは母親からあまり聞いてないんだね。まぁ、ホルンらしいちゃらしいけど……」


 アキュレーはどこまで話していいのか思案している。

エネルを見ると頷き、続きを促す。


「あたしとあんたの母親は異父姉妹なのさ。あたし達は第二世代でね、産まれて五十年くらいでコールドスリープってやつに入れられたのさ」


 アメリアは聞きなれない単語が出てくるが、とりあえず最後まで話を聞くことにした。


「次に目覚めたのは、だいたい三百年程前だったか……眠る前に母様には愛を育み、子供を作れとだけ言われたのさ。三人とも中々相手が見つからなくて、しばらくはできなかったけどね」


 アキュレーは苦笑いだ。


「更に、あんたの母親は長く眠っていた影響なのか、体が弱くなってしまっていてね。あんたが産まれた時にはあたしもその場にいたんだよ。結構な難産だったからさ、心配し過ぎて、こっちまで疲れちまったもんだ」


 アメリアはその話を初めて聞いた。

母親は産まれた時の事など全然話してはくれなかったから……


「ちゃんと紋様をつけて産まれてきたからね、母様の言った通りだった。でもホルンはそんな事は関係ないみたいだったね。嬉しいそうに泣いていたよ……あたしはどっちかっていうと闘いに明け暮れていたからさ、五十年程前にようやく授かったんだけどねぇ。紋様はついてない上、どこで教育を間違えたんだか……」


 アキュレーは手を目に当て、頭を項垂れている。


「もう一人は目覚めた後、砂漠に鬼の爺さんと行ったっきりでね。風の噂で何十年か前には亡くなったそうだよ。子供はどうだったか、よくわからない……」


ラギアが話に割り込んでくる。


「凄い話だな、何百年も眠っていたのか? 何の為に?」


 アキュレーは苛立ったのか、ラギアの頭を軽く小突く。


「全てはあんたが持っていた物の為さ。その時に力を持った者が現れる様に保険をかけた。母様の悲願を果たす時がきたのかもしれないね」


 話すべき事は話したとばかりに、先に眠ると言い残し、アキュレーは自分のテントに入っていった。


「おじいさん……」


「僕も、アキュレーも昔に囚われているだけかもしれないね〜 アメリア、君は自由に生きればいいと思うよ。それが娘、ホルンの願いでもあるからね〜」


 アメリアは祖父から渡されたエストックを握りしめる。


「そのエストックは僕が千年前に使っていた物でね〜 未だに無くした瞬間を忘れられないでいるんだよ。もう千年も経つのにね〜」


 エネルも"話は終わり"とばかりに焚き火を調整する。


「さあ、明日も沢山歩かないといけないからね。アメリアもそろそろ休もうか」


 そう言いながらテントに入っていくエネルの背中が、少し寂しそうに見えるアメリアであった。


 そして、アメリアも自分に与えられたテントに入っていく。


「あれ? 俺のテントは? え、そんなものは無いだと……」


 ラギアは寒さに耐える為、強制的に火の番を任され、一睡もできなかったのだが……


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