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61話 始まりの森でリーネ様と……

仕事柄、御盆は休めないので、過ぎてから墓参りに行かないと……

台風も近づいているので、皆様も気をつけてお過ごしください。


 パッカ、パッカ〜


 高いだけあって賢い馬達である。


 おおまかな方向を指示するだけで、適度なスピードで向かってくれる。

揺れもかなり少ない。

行者はあまり慣れていないが、これならば問題無く行けるだろう。


 だがそれよりもビックリしたのが馬車の中であった。


 レイリーは"ちょっと広いだけ"と言っていた。


 だが、60㎡くらいあるぞ!

広さの感覚がおかしくないか?

ライオンなんて早速筋トレを始めちゃってるよ!


 しかもこの馬車、冷蔵庫までついているのだ。

ラミィが仕組みを調べる為、分解しようとしていたので急いで止めた。


 値段を聞いてはいないが、おそらく、凄く高いと思われる。

冷蔵庫なんてこの世界に来てから初めて見たぞ。


 よく見ると高そうなワインが既に何本か空いている。


 ダニエウ達が勝手に飲んだのか?

しかも、大きなイビキをかいて早々と寝ている。


 お前ら、どんだけ自由なんだよ!

頼むからこれ以上借金を増やさないで!


 そんなこんなで心労が増えながらも、日が沈む頃にはツヴァクに着くことができた。




 衛星都市ツヴァク。


 始まりの森に一番距離が近く、森が崩壊するまではエルフとの交易もあったらしい。


 現在はドラッド襲撃の余波もあり、寂れた印象はいなめない。


 宿も閑散としていた。

九人の大所帯なので、女将に凄く喜ばれたくらいだ。


 食事込みで、一人辺り銀貨十枚。

チップ込みで金貨を一枚支払っておいた。

あまり足しにもならないかもしれないが、少しでも復興が進むといいと思う。


 夜の食事は湖も近いからか、淡水の魚が出てきた。


 ふむ、淡白ではあるが、中々の美味である。

こら、アリエル! 頭から齧るんじゃない!

わんぱくすぎるだろ!



 次の日、朝早くにツヴァクを出て、日が沈む頃には始まりの森があったと思われる場所までは来たのだが……


「本当に何にもないな〜」


 アリエルが言った通り、これは木が燃え尽きた後だろうか……

残骸が多数転がっているだけで、見渡す限り何も無い。


 かつてここには、豊かな森が広がっていたとは考えられない程、凄まじく荒れ果てていた。


「目的地は始まりのエルフの大木でしょ。でもここから先は馬車は無理そうね……」


 まともな道が無い上、残骸が邪魔をして馬車で進むには無理がありそうだ。


 馬車を放っては行けない為、ダニエウ達とラミィを置いていく事にした。

少し心配だが、ラミィがいればおそらく大丈夫だろう。


 ここからは身体能力任せで、無理矢理に進む。


 レオニアルがカミュを、修平がファンケルをお姫様抱っこしながらアリエルを背中に担ぎ、森であった場所を全力で駆ける。


 背中に当たる胸の感触が、かなり凄い事になっているが、気にしてはいけない。


「無だ。無になるのだ」


 煩悩を振り払い、先へ先へと進んで行く。


 時折休憩を挟みながら、半日くらいは経ったであろうか。

遠目にうっすらと白い巨木が見えてくる。


「あれがそうなのか?」


「他にはなさそうですね、あれが……」


 近づくにつれ、木の大きさに度肝を抜かれる。

樹齢が何年経てばここまでの大きさになるのか、想像もつかない。


 やがて、白い巨木の根元に辿り着く。


 近くで見ると凄い迫力だが、うん? なにやらファンケルの様子がおかしい。


 ファンケルが巨木に触れると、ファンケル自身が薄く発光しだす。

そして、そのまま倒れてしまった。


「ファル?」


 カミュが心配になり、ファンケルの体を揺さぶるが、全く反応がない。


 レオニアルは周りを警戒しているが、敵の姿は無いようだ。

いったい何があった?


 ガバッ!


 いきなりファンケルは立ち上がると、自分の体をペタペタと触りだした。


「ふーん、今回は子供か。ま、いいや。んで、君たちは何の用でここに来たの?」


 ファンケルとは口調も変わっている。

考えられるのは……


「あなたはリーネ様ですか?」


 ファンケル? はニコリと笑みを浮かべると、手頃な石に腰かける。


「そーだよ。今はこの子の体を依り代にしてるだけ。森が焼ける時に力を使い過ぎてね。中々適正者がこなくて困ってたんだよね〜、うん、魔力は問題ないか。なら……」


 ファンケルの体を借りたリーネは、地面に向け複雑な印を結ぶ。


 すると、地面からいきなり、木がにょきにょきと生えてくる。

木は凄いスピードで育ち、周りが森になっていく。


 リーネはその内の一つを変形させ、椅子とテーブルを造り出すと、自身も椅子に座る。


「立ち話も疲れるでしょ、はい座って座って! そうだ、君たち、紅茶とか持ってないかな?」


 凄いのか、軽いのか……複雑だな。


 とりあえず促されるまま、皆席へと座る。


 マジックバックからティーポットのセットを取り出し、カミュが全員分の紅茶を入れる。

勿論、お茶菓子もである。


「至福♪ さて本題に移ろうか。君は勇者だね。懐かしいものだ……」


 修平を見ながらも、遠い目をしながら、リーネは語り出す。


「何度も魔王とは相対しているんだ。最初はまだ体があった頃、依り代の体を使い闘った事もあったね。私は君の先代の勇者にも会っているのさ」


 それでも今回は異常だと言う。


 先代の勇者が難しい事を言って説明してくれたそうだが、いまいち理解をできなかったようだ。


「そもそもシステムがおかしいとか? 彼女の話はよく分からない言葉が多くてね、何度も足を運んでくれたのだけど……それと"欠片を追っている"と言っていた」


 自分の体に特殊な手術を施し、三百歳くらいまでは生きていたそうだが、晩年は西の大陸に行き、その後どうなったかは知らないそうだ。


「最後に訪れた時、まだ二つと言っていたね。最大で何個あるかはわからないとも。エネルが生きているなら、彼に聞くといいよ。彼は先代勇者のパーティーメンバーだったから。彼、一度依り代に使って"ある事"をしたら怒っちゃってさ、それからまともに来てくれなくなっちゃったんだよね〜」


 いったい何をしたのだろうか?


 それにしても欠片か……


 闇の片鱗でもある魔武具がそれに当たるのだろうか?

現在、砂漠で一つ、港町で一つ消している。


 レオニアル達が闘った後、手に入れたという鎧は、北の里崩壊時におそらく失われているだろう。


 だが、レオニアルに聞いた話だと、少し弱すぎる気がする。

単純にレオニアルが強すぎただけかもしれないが……


「ゲートという魔法は知ってますか?」


 行った場所に行ける魔法。

これがあればかなり自由に動ける。


 だが、返ってきた言葉は無情なものだった。


「知っているけど、まだ使うのは難しいね。君の魔力でも足りないと思う」


 マジかよ! 魔力も常人を遥かに越えているのだが、これでも無理なのか……


「とりあえず使う時の為に、呪印とやり方を教えておくよ。それとコレを持って行くといい」


 大ぶりの魔石を幾つか譲ってもらった。

ここに有っても、どうせ使わないからとの事だった。

ありがたい。

お金に変えるかもしれませんが……


「そろそろ体を返さないといけないね。まだ幼いから仕方ないか、もっと色々したかったのだけどね……最後に……」


 リーネは修平に近づくと、胸の辺りから首にかけ指を艶やかに滑らせる。

突如、修平にキスをすると、強引に舌を絡ませてくる。


「んはっ!」


 慌ててファンケルの体を引き離すが、唾液の糸がお互いの唇から垂れる。


「ご馳走さま。じゃあね、また会おう……」


 それだけ言うと、フッとファンケルの体から力が抜け、テーブルに伏せる。


 き、気まずい……


 カミュさんや、そんな好奇心旺盛な目で見ないでおくれ。


 ラミィがこの場所にいなくて良かった。

おそらく、いたら何を言われるかわかったものではなかった筈だ。


 まったく、エネルにも"これ関係"の事をしでかしたのではなかろうか……

それは怒りますわ。


「とりあえず聞きたい事は聞けたか。ならば馬車へと戻るとするか」


 レオニアルは再びカミュを担ごうとしたのだが……


「すいません、レオニアル様。鬣がこそばゆくて……帰りはアリエルさんと変わってもらっていいでしょうか?」


「あたしは構わないぞ」


 アリエルは素早くレオニアルの背中に飛び乗る。


 えー、帰りもあの感触を楽しめると思っていたのに……


「すいません、失礼します……」


 カミュが遠慮がちに背中に乗ってくる。

まだ気を失っているファンケルをお姫様抱っこし、来た道を戻っていく。


 走っている最中に歓声が聞こえてくる。


 不思議に思い、レオニアルの方を見てみると、凄いアクロバッティックな動きをしている。

どうやらアリエルのリクエストみたいだ。


 一人ジェットコースターか!

 

 流石にこちらはなるべく揺らさない様に走るのだが、それなりにスピードが出ている。

カミュがギュッと抱きついてくるのだが……


 むむっ、アリエルとはまた違う感触。

これはこれで、中々……


 煩悩を捨て切れないどころか、煩悩の塊の様なおっさんなのであった。


 だって、濃厚なキスだったから、しょうがないよね……


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