6話 おっさん以外と強かった件
おっさん修平、初めて自分のステータスを知る。
適正審査、価格は銀貨5枚。
正直な話、五千円もかかるのか……
いつでも、そう簡単には見れないかもしれない。
「ステータスオープン」
修平は、おそるおそる紙を覗きこむ。
月形 修平 39
力 158
精神 200
器用 180
体力 120
魔力 211
スキル ちょい運、死者の未練、生存本能
土魔法、風魔法
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「ちょい運ってなんだよ! 文字化けして読めないとこあるし、いまいち基準がよくわからん。しかし、魔法適正はあった。よかった、よかった。なんとか浪漫枠確保(笑)」
おっさん、笑いながらぶつぶつ呟く。
周りから見ると、かなり奇妙な中年である。
「あたしも久々に見てみようかね」
ナタリー 28
力 192
精神 120
器用 165
体力 226
魔力 63
スキル 剛力、豪体、投擲
ナタリーが紙を見せてくれるが、修平は驚く。
ボックスには"身体能力を少し向上させてある"とあったが、ムキムキのナタリーさんと力がほぼ変わらないとは……
しかも年下かよ! ナタリーさん! あんたフケすぎだよ!
冷や汗ものであった。
ナタリーに修平もステータス紙を見せてみる。
ナタリーも驚く。
「見た目と違い、中々に凄いじゃないか。あたしでもわからないスキルもあるね。生産系統のスキルは無いが、魔力が高く、魔法も使えるんだ。冒険者とかをするのが、あんたにはいいんじゃないかね?」
「おぉ、定番中の定番。ギルドに入ってすぐに、チンピラ冒険者に絡まれるまでがテンプレですね、分かります」
「は、あんたが何を言ってるかわからない? まあいいか。どうするんだい、この後は?」
「とりあえず商業ギルドに行って、銀貨の割れ銭を交換しようかな、後は宿も探さないといけないか……」
「わかった。じゃあ、次に行こうか」
こうして、二人は魔法ギルドを後にした。
「本日はどういったご用件でしょうか?」
歩いて数分で商業ギルドに着いた。
商業施設は近くに隣接している様だ。
修平は銀貨の割れ銭が入った袋を取り出す。
「すいません、銀貨の割れ銭を交換したいのですが……」
「はい、ではこちらにお願いします」
指定された量りの上に、持ってきた割れ銭を載せる。
「この重さですと、銀貨10枚と交換ですね。交換なさいますか?」
「はい、お願いします」
受付の方に聞くと、銀貨と金貨、さらにその上の白金貨は鋳造し直すそうだ。
「次は宿だな。あたしの知り合いの宿がある。そこでいいか?」
修平は頷く。凄く頼れるナタリーさん。男前である。女なのだが……
恰幅のいい、笑顔の素敵なおばちゃんが、椅子に座って休んでいる。
どうやら、彼女がこの宿の女将さんらしい。
「一泊、朝夕食事つき銀貨5枚! ナタリーちゃんの知り合いだからね……一週間うちに泊まってくれるなら、銀貨32枚にまけとくよ! どうする?」
1日約24時間、一年は360日。
この世界はこれが基準だそうで、そこら辺は元の世界に近い。
これなら、あまり違和感無く過ごせるか……
「ではとりあえず一週間でお願いします」
「はいよっ! 桶は無料で貸してあげるから、井戸から自由に使って頂戴!」
これで宿の確保もできた。
人間住む所が決まると、心が落ち着くものである。
衣食住は基本なのだ。
後は稼ぐ手段の確保である。
ナタリーに冒険者ギルドへと案内してもらった。
「じゃあね。あたしは護衛の仕事に戻る。旦那様から"必要な物があるなら店から融通するように"、って言われているから。これが終わったら、店に一度は顔をだすんだよ」
おっさん、感謝感激雨嵐。
「ありがとう、助かった」
「礼を言うのはこっちのほうさ、お嬢様が助かったのは、一応、あんたのおかげだしね」
ナタリーはウインクをすると去って行った。
"怖い"とは口が裂けても言えないが……
気を取り直して、修平は冒険者ギルドのドアをくぐる。
すると、皆の視線が一斉にこちらを向く。
ざわざわしているが、気にしたら負けだ。
とりあえず、見られるだけで絡まれないようなので、修平は受付へと進む。
「ここでいいのかな? すいません、ギルドに登録したいのですが……」
「はい、新規登録ですね。文字は書けますか? 書けないなら代筆しますが……」
文字か、そういえばどうなんだろう?
試しに紙を見てみると、文字は変換されて見えるのだが、書く事は無理そうだ。
やはり、手は勝手に動かない……
「読むことはできるが、文字は書けないな……」
この歳でまったく文字が書けないというのは、流石にどうなのだろうか……
おっさんなのに、ちょっとだけ恥ずかしく思う。
すると受付嬢は、笑顔で言ってくれる。
「心配しなくても大丈夫ですよ。そういう方も多いので。では……」
受付嬢の名札にはリリアと書いてある。
修平は、リリアが聞いてくる簡単な質問に答えていく。
リリアは紙の空欄を次々と埋めていき、このまま終わるかと思われたのだが、なにやら、ガタイのいい男が近付いてくる。
「ギャハハ! おっさん、その歳から冒険者始めるのか? 自殺志願者か? 馬鹿な真似はやめて、家でママのおっぱいでもしゃぶってな!」
テンプレはやはりあった。
まぁ、本当の事なのであまり腹もたたないのだが。
そういうわけで、男は無視する。
それにしても、この男、凄く酒の匂いがキツい。
まだ昼過ぎなのだが……
昼飲みとは、ちょっと羨ましいおっさんなのであった。
「おいっ! 無視すんなよ、おっさん!」
破落戸に肩を掴まれる、うむ、怖い。
修平はリリアに向かって、"助けてくれ"と視線を送る。
リリアはこの様な事態に慣れているのか、落ち着いている。
「ダニエウさん! 次に問題を起こした場合、降格するってギルドマスターに言われているでしょう。マスターに報告しますよ!」
ダニエウと呼ばれた男は、そうリリアに言われると、視線を泳がせた後、手をヒラヒラさせながら、元の席に戻って行った。
どうやら、冒険者ギルドは酒場も併設しているようだ。
「すいません、では血を少しこちらにお願いできますか? はい、ありがとうございます。ではこちらがギルドカードです。紛失すると再発行に銀貨50枚かかっちゃいますので、無くさないよう気をつけてくださいね」
五万円もかかるのか……お金は大事。
無くさない様に、気を引き締めよう。
その後、ギルドカードに関する話をしばらく聞く。
魔物の討伐記録数がわかるとか、犯罪履歴が残ってしまうとか、色々あるみたいだ。
なかなかのハイテク仕様だな。
「後は簡単な戦闘テストですね。あちらにある訓練場でお待ち下さい。こちらも用意しますので……」
え、戦闘テストなんてあるの? 聞いてないよ〜〜〜!
おっさんはビビる。
「危険が伴う仕事も多いですからね。実力を測る意味もこめて、一応確認しておかないといけないんですよ。実力があればランクも少し上からになりますから。修平さんでしたね、頑張ってください♪」
ランク、基本、最初はGからのスタートらしい。
依頼を受けるには自分のランクより一つ上までしか受けれない。
上にあがるほど、難易度が難しくなっていく。
まぁ、この街ではそこまでの高難度はないみたいなのだが。
修平はしばらく訓練所で待っていると、奥からイケメン青年が一人、リリアと一緒にやってくる。
どうやらテストの相手は彼のようだ。
「どうも、では準備はいいですか? あそこに置いてある武器から選んでください。いいなら始めましょう」
イケメン青年は武器を構える。
「魔法も使って大丈夫ですが、範囲の大きい魔法は使わないようにして下さい」
修平はとりあえず、彼と同じ長さくらいの木剣にした。
ブンブンと振ってみるのだが、産まれてこのかた、剣なんて振ったことがない。
日本は平和なのである。
最近は物騒な事件も多いが……
「まぁ、なるようにしかならないか……」
「いつでもどうぞ」
とりあえず、どう攻めていいのかわからない。
なんとなく、こんな感じだろうか……
修平は、適当な感じで、防御の構えをとる。
イケメン青年は結構なスピードで打ち込んでくる。
だが、修平は軽く受け止める事ができている。
視力の方も向上しているのだろうか?
青年の攻撃を、なんとか冷静に受けきることができた。
怖いけど、力も負けてはいないみたいだ。これならいけるか?
技術は無いが、修平は上がっている身体能力で、なんとか打ち合っている。
魔法も使ってみたいけど、どうすればいいのかな?
漫画とかだと、イメージが大事とか言うけど……
まぁ、いきなり大爆発とかはならないだろう、多分。
修平は地面から土の棒を出すイメージを浮かべる。
転ばせられれば儲けもの、そのくらいに思っていたのだ。
「土柱!」
おっさんのネーミングセンス、最悪である。
ドガッ!
「ゴフッ!」
地面から出てきたのは、大きく、太めの土の柱。
その土の柱は、イケメン青年を高く空へと打ち上げた。
ダァーン!
どうやら、イケメン青年は立ち上がれない様だ。
「あれ? こんなはずじゃ……」
おっさんは魔力もそこそこなのであった。
しまった、やり過ぎた……
そして、その場にただただ立ち尽くす。
茫然自失の気味のおっさんなのであった。
剛力 力の基本数値が1.5倍になる
豪体 軽い攻撃を無効にする
投擲 投げる物の威力があがる
ナタリー物理特化……