58話 黒い武器を探す者達?
東大陸の北東部、元々はラディソン王国があった場所。
おおよそ百年前にガリオン帝国によって滅ぼされた国。
現在は帝国領として、植民地の様な扱いを受けてはいるが、比較的魔物の数も少なく、土壌も良い。
その為、放牧や農業など、数多くの住人が仕事に精をだしている。
晴れ広がる草原の真ん中に、一つの影が突如現れた。
その影の中から、"影に包まれたなにか"を担いだ壮年の男が出てくる。
男は手頃な石に腰掛けると、煙草を取り出し火をつける。
「ふ〜、やれやれ、ようやく帝国領か。後は南下するだけだが……」
壮年の男は鋭い眼光を西へと向ける。
そこには二人の男女が壮年の男に向け、ゆっくりと歩いて来ていた。
「何の用だ? こう見えて、俺も忙しいんだがな?」
壮年の男は警戒しながらも、煙草の煙を空へと吐き出す。
男女共にそれなりの手練れなのだろう。
体の運び方に無駄な動きがない。
「別にあんた自体に用はないさ。あたし達は、あんたの持っているその武器に用があるのさ」
「それとその"影に包まれたモノ"にもね〜」
男はエルフ、女はドワーフ。
異色の組み合わせだが、男の方に壮年の男は見覚えがあった。
「まさか、Sランクのエネルか?」
壮年の男は、火のついたままの煙草を男女に向け投げつけ、影を生み出し、逃げようとする。
だが何故か、影が一向に発生しない。
「は? なんでなんだ?」
女の方が口元に薄ら笑いを浮かべながら、壮年の男へと近寄ってくる。
「あたし達が何年"それ"と向き合っていると思っているんだい? どうやら、あんたはまだ正気を保っているみたいだね。大丈夫さ、こっちは命まではいらないからね」
壮年の男は困惑しながらも、腰から黒いエストックを抜き、体を低く構える。
「懐かしいね、ようやく会えたよ……」
エネルは壮年の男が持っている細剣を見て、思いを馳せているようだ。
「あんたが大人しく、その武器と"影に包まれたモノ"を置いて行くなら追いかけはしない。もし、抵抗するなら……」
女の発言が終わる前に、壮年の男は女へと斬りかかる。
「跳ぶことは出来なくても、武器自体の力が無くなった訳じゃねぇ! あんまり舐めるなよ!」
目にも止まらない鋭い突きが、幾重にも女へと放たれる。
更に闇も広がり、エネルと女を包む。
だが、闇はエネルと女の動きを止める事はできなかった。
女は焦らず、右手に持っていた大きな盾で、鋭い突きを受け流す。
更に反撃とばかりに、左手に持っていた斧を力強く振り抜く。
すると、風圧だけで壮年の男は吹っ飛んだ。
「女の方も化け物なのかよ! なんてついてねぇ、悲しくなるぜ。だが俺には、まだ死ねない理由があるんでな!」
壮年の男は闇を獣に変え、纏う。
その姿は大きな黒き蛇。
トグロを巻き、女を締め付けようと襲いかかるが……
「同じ蛇繋がりだね〜、ラジルド、闇を食い散らかせ」
エネルは腰にぶら下げた聖霊石を撫で、黄色く光る蛇の聖霊、ラジルドを呼び出すと、黒い蛇に向かわせる。
ラジルドは己に雷を纏い、目にも止まらないスピードで黒い蛇の喉元に食いつく。
黒い蛇も振り払おうとするのだが、ラジルドは離さない。
ラジルドが尻尾から甲高い音を鳴らす。
すると、今まで晴れていたのが嘘みたいに、黒い蛇へと空から雷が降り注ぐ。
「ガガガッ! ま、まだだ、俺は……」
「しぶといねぇ、だけどそのガッツ、嫌いじゃないよっと!」
まだ雷が降り注ぐ中、女は斧で黒い蛇の首を飛ばす。
自身も雷に打たれてはいるが、女はそれを気にもせず、黒い蛇を次々と斬り飛ばしていく。
「呆れるね〜、それ、痛くないの?」
女はニヤリと笑うと、黒い蛇の残骸から、壮年の男を引きずり出す。
「"多少の痛みはスパイス"って母さまが言っていたからね! このくらいは屁でもないさ!」
エネルは壮年の男が持っていた黒いエストックを残骸の一部から探し出すと、エストックに持っていた液体をかけていく。
すると、黒かったエストックは薄く発光し、鈍く光るエストックへと変わっていった。
「お帰り、千年ぶりだね……」
「これでようやく三個目か、あといくつ残っているんだろうね? 先が思いやられるよ……ところでこの男はどうするんだ?」
壮年の男はまだ気を失っている。
「連れて行けばいいんじゃないかな〜? 他の武器とかを知っているかもしれないしね〜」
エネルは"影に包まれたモノ"に、先程のエストックにかけた液体と同じものを振りかける。
すると影が解れ、そこからは一人の女性のエルフが出てきた。
エネルは気付けに、軽く女性のエルフの頬を叩く。
「ほら、起きて〜」
「う〜ん、もう朝? 駄目だよ、カイ、朝からなんて……へ? おじいさん?」
女性のエルフは、顔を真っ赤にしながらも立ち上がると、自身の体に異変が無いかを念入りに調べる。
そして、エネルに向け深い礼の挨拶をする。
「久しぶりだね、アメリア。君が無事で良かった」
影に包まれていた女性のエルフ。
それはツェーンでの魔物の襲撃により、魔物に食いつくされたと思われていたアメリアであった。