5話 適正審査を受けてみよう
ドランの街。人口は約1万人程。
一通りの生産施設は街に揃っており、辺境において、この街は開拓の中心になっている。
その中でもティアナ達の店は、一般家庭向けの品から、冒険者が使用する物まで、幅広い品を扱っているそうだ。
ティアナの店が交易所から定期的に仕入れる特産品。
その取引をする為、ティアナ達は交易所に向かう最中に、盗賊によって襲われたらしい。
ナタリーの言っていた、お掃除の後だった故に、少なからず油断もあったのかもしれないが……
ティアナが馬から降りて駆け出す。
「お父様! お母様!」
「おぉ! ティアナ無事か? よかった……あぁ、神よ感謝いたします」
どうやら、彼等がティアナの両親のようだ。
お互いに涙を流し、抱き合っている。
「身体は大丈夫か? 変な事はされなかったか?」
「私は大丈夫、でも他のみんなが……」
助かったのは、ティアナと、逃げ出した護衛のみ。
結果的には逃げた護衛の報告により、ナタリー達がいち早く救援に駆けつけてこれたわけだが……
「彼ら遺族には保証もする。お前は何も心配しなくていいんだ! さぁ、家に帰ろう!」
「あなた、少々お待ちになって。こちらの方はどなたなの?」
おっさんも感動の再会に涙を流している。
歳をとると、涙腺がゆるくなっていけない。
「この方は修平さんよ。危ないところを助けてもらったの!」
修平は動揺し、挙動不審になる。
なぜなら、たまたま現場に居合わせて、たまたま彼女のロープを切っただけなのである。小心者か。
「あ〜、たまたまなんです。あまりお気になさらずに……」
ギュルル〜〜ッ!
そういえば、朝から何も食べてない。
修平の腹から、周囲に轟音が鳴り響き、修平の顔が真っ赤に染まった。
水だけは途中の小川で、結構飲んだのだが……
みなさん、そんな白い目で見ないで下さい!
「私はティアナの母でティリアといいます。修平さんとおっしゃいましたか? あなたがよろしければ、家で食事でも一緒にどうでしょうか? たいした物は出せませんが、是非お礼がしたいのです」
ティリアの申し出はありがたい。
正直な所、お腹がペコペコ、ペコリーノだ。
「よろしくお願いします」
「では家へと向かいましょう! ナタリー! 後の事は頼む!」
ナタリーは頷くと、ナイスミドルと共に馬車を誘導し、街の雑踏に消えていった。
「私達の家は、ここから少し歩いた所にありますので……」
おっさんと三人は、ティアナ達の住む家へと向かうのだった。
「今帰った! 食事の準備を頼む! お客人の分も………」
テキパキと指示をだしていく。
ティアナの父、名はトゥラン。
中々できる男である。
修平は部屋へと案内されると、水桶とタオル、そして替わりの服を手渡された。
ありがたい。汗と泥汚れで、体はベトベトだ。
本当はお風呂につかりたいのだが、やはりこの世界では、お風呂は一般的ではないらしい。
汚れた服は洗濯もしてくれるそうだ。
至れり尽くせりとはこの事か。
新しい服に着替えた後、修平は食事の間へと案内される。
おっさん、異世界の料理に興味津々なのである。
「神に感謝して……」
トゥラン達は祈りの言葉を呟いている。
修平も、トゥランの見よう見まねだが、遅れて同じ言葉を呟く。
祈りが終わると、遂に食事の時間だ。
「あぁ! 美味しいです!」
味は少し薄味だが、空腹は最大のスパイスだ。
料理が次々と、修平のお腹の中に消えていく。
今日、歩き続け痩せた分は、確実にチャラである。
「お気に召しまして、こちらも嬉しいですわ。修平さんは何故あのような場所におられましたの?」
「……」
修平は暫し考える。
急に異世界に転移したなんて、ちょっと頭がおかしい人と思われないだろうか?
考えたくはないが、異世界の知識を欲しいがために、もっと偉い人物に拉致されるとか。
とにかく、設定は大事だろう。
うーん、他国から魔方陣の事故とかで転移とか?
でも、この世界が常時、魔法陣を使うかどうかはわからない。
お忍びで、旅行中だったとかはどうだろうか?
……辺境じゃビミョーだな、どうしようか。
修平は考えが纏まらずに、しばらく黙ってしまった。
重い空気がその場に漂う。
「彼にも何か理由があるのだろう。彼はティアナを助けてくれた。今はそれだけで充分じゃないか」
空気の読める男、トゥラン。流石である。
「なるほど、仕事を探していると……では魔法ギルドの適正審査は受けたことはありますか?」
トゥランの話を聞くと、専用の魔法紙に自分の血を使うことにより、様々な恩恵やステータスが表示されるとのこと。
この世界では、スキルに合った仕事につく者が多いのだとか……
それを知らない修平なのだが、本人は怪しいとも考えない。
というか、まったくつっこまれない為、気付いてもいないみたいだ。
平和ボケか、油断しまくりである。
「なるほど、では明日行ってみます!」
どうやら、今夜は家に泊めてくれるらしい。
ありがたい、現状、おっさんは家なき子なので。
これからは泊まる所も探さないといけない、更に返済のことも考えなければならない。
やることが山積みなのである。
いったい誰が召喚したか分からないが、もう少し歳を考えてくれるとありがたいのだが……
修平は部屋に戻ると、現在持っている硬貨がいくらあるかを調べることにする。
「これは色から推測すると、おそらく銀貨かな? 銀貨五百枚と銅貨も百枚ほど、あとは、割れている硬貨が五十枚ほどか……銀色と銅色があるから、とりあえず別けておくが、それぞれの価値がいまいちわからんな……」
小さい袋をいくつか貰ったいたので、分かりやすい様に種類ごとに小分けしておく。
「じゃらじゃら、音がうるさいな。アイテムボックスでもあると便利なんだが……とりあえずは少し返済してみて、硬貨の変換率を調べておくか……ほいっ!」
ポンッ!
「とりあえず銀貨1枚」
銀貨 1000円
「銅貨1枚なら」
銅貨 100円
「割れ銅貨はどうだ?」
割れ銭 銅貨 50円
「じゃあ、割れ銭銀貨ならどうなる?」
これは引き取れません。商業ギルドで交換しましょう。
「親切だな。ふむ、変換率はわかった、割れ銭の銀貨はギルドに持っていかないとわからないか……」
手持ちがないと不安なので、とりあえずはここでやめておくことにした。
「明日は魔法ギルドに行って鑑定と、その後に宿もとらないと、もういいや、寝てから考えよう」
体は既にくたくたなのだ。すぐに睡魔が襲ってきた。
「起きたら全て夢だったらいいのになぁ……」
本日返済額14150円。
残り45615854円、先は長い。
異世界の朝は早い。
時計が一般的ではないために、日の出と共に活動する人が多いからだろう。
「あ、暑い……」
どうやら、クーラーに慣れているおっさんには、異世界の夏は辛いようだ。
こればっかりはどうしようもないので、井戸で顔を洗い、喉を潤す。
「おはようございます修平さん、昨日はよく寝られましたか?」
ティリアである。
「あ、おはようございます。はい、おかげさまで……」
朝の挨拶を済ませ、朝食もご馳走になる。
出てきたのはサンドイッチだった。
昨日もパンだった、どうやらこの世界は、パンが主食の様だ。
やはり米などは、存在しないのだろうか……
トゥランは昨日と同じ、食事前の祈りの言葉を呟く。
「それでは、今日は魔法ギルドに?」
「はい、他にも色々と見て回ろうかと思いまして……」
「では、案内にナタリーをつけましょう。護衛もかねて」
助かる。ナタリーの圧が半端ではないが……
ここはそれなりに広い街なので、迷子になりかねない。
「では、準備ができましたら店の方へとお越し下さい。こちらも用意しておきますので……」
そう言うと、トゥランは先に食事を済ませ、出ていった。
「わかりました。ありがとうございます」
洗濯された元の服に着替え、鎧も装備する。
どうやら、革の鎧も綺麗にしてくれたようだ。
汚れが無く、ピカピカに磨かれ、匂いもいい。
元が血や汗で臭かったから、助かります。
「よし、行くとするか!」
異世界2日目、スタートである。
「ここが魔法ギルドだよ」
ナタリーに案内され魔法ギルドに着いた。
今日はここで適正審査をしてもらうのだ。
「何もなかったら笑えんな……」
絶対ではないが、この世界でのスキルの恩恵は大きい。
もうすぐ四十歳のおっさんなのだ。
不安になるのも仕方がないだろう。
「この歳で受ける奴なんているのか?」
「自分のステータスを確認する為に、ある程度はいるね、自分の気がつかないうちに、新しいスキルを覚えている場合もあるからね。新しい仕事に着く時も、ステータスの紙を持って行くのが普通さ」
「すいませ〜ん。こちらにお願いします」
職員のお姉さんに案内され、修平は専用の台に座る。
ちなみに料金は銀貨5枚、五千円。
それなりのお値段だ。
「血を少しだけ、この場所にお願いします」
置いてあった専用の針を軽く刺し、紙の中央へと血を垂らす。
すると魔法紙が光りだす。が、なにも写らない。
「え、何もない? どうしよう……俺、何も見えないけど?」
修平はオロオロする。ナタリーは呆れ顔だ。
「まったく……いいから落ち着きな。他人に見られたくない場合もあるからね。ステータスオープンで紙に写しだすのさ」
「ほっ、そうなのか。なるほどね……」
さて、おっさんのステータスはいかほどか……
ワクワクしながら、その時を待つおっさんなのであった。