49話 悪夢の襲撃
プロローグに衛星都市の名前をつけ加えました。
東ギルドのマスターを老ギルドマスターに変更しました。
時は警報が鳴り響く前に戻る。
レオニアル達は準備を済ませ、宿を後にする。
泊まっていた宿は城壁の近くであった。
ふと、レオニアルが止まる。
スンッ!
「匂うな……なんだ?」
異変を感じ、凄まじいスピードで城壁まで駆ける。
衛兵は何事かと、急に来たレオニアルを止めようとするのだが、衛兵の制止を振り切り、レオニアルは城壁上へとかけ登った。
「あれは……」
レオニアルは目を凝らし、遠くを見つめる。
そこに少し遅れて、階段から、息も絶え絶えの衛兵がやってくる。
「はぁ、はぁ、困ります。ここは一般の方は立ち入り禁止で……」
手でその先の言葉を遮ぎり、北の方を指差す。
「あれを見よ!」
衛兵は何がなんだかわからないが、言われた方角に望遠レンズを向け、覗き込む。
レンズの中には、魔物の大群が小さいながらも見えた。
「た、大変だ! みんなに速く知らせないと!」
衛兵は慌てて階段を降りる。
正確な数は分からないが、少なく見積もっても、五千は下らないだろう。
レオニアルも急いで皆の元に戻る。
「急に走り出して、何かあったんですか?」
カミュが不思議そうに聞いてくる。
「魔物の大群だ、かなり数が多い。このままでは街が呑まれるぞ!」
ウゥ――――――――!
その直後、街の警報が鳴り響き、特殊防壁が順々に聳え立っていく。
街では、馬で衛兵が走り廻り、大声で助けを叫んでいる。
「冒険者の方、並びに、戦える人は手を貸してください! 中央北門に集まって下さい! 戦力が足りません、どうかお願いします!」
九人はお互いを見て頷く。
「どのみちここで止めれんと、敵さんに雪崩れ込まれるのぉ」
ゴードンは髭をさわりながら、ハルバードを横目に確認する。
「偵察用ゴーレムを飛ばすわ、方向はあっち? それっ!」
梨華の鳥形ゴーレムは空に上がると、示した方向に向かい、凄いスピードで飛んでいく。
「それにしても……次から次へと良くない事が起きますね」
案内エルフやモブエルフも自分達の装備を確認する。
「がーっていくよ〜、とりあえず急ごう!」
アメリアとレオニアルを先頭に、北門へと駆けて行ったのだった。
北門に着くと、まだ冒険者の数はまばらだ。
朝が早いというのもあるのだろうが、基本、依頼を受けていない時の冒険者はズボラな者が多い。
この街のギルドマスターが陣をとって動いてはいるが……
「もう少しで視認できるまでの距離よ、これヤバくない?」
梨華はゴーレムからの視覚共有により、魔物の群れを空から監視している。
「結構な大物もいるわ。統率はあまりとれていないみたいだけど……なぜこんなにも群れているのかしら?」
梨華はちょっとこれはおかしいと。
確かに魔物達の目が、普段とは違う気はするのだが。
「何かに追われているとかでは?」
「この数が? それはないと思いたいけれど……」
どんな化け物に追われれば、この数の魔物が逃げ出すのだろうか?
それはそれで考えたくはないものだ。
「構わん! 全て倒せばよかろう! がっはっはっ!」
皆の冷たい視線がレオニアルに降り注ぐが、本人は至って気にしてはいない様だ。
梨華は鳥形ゴーレムを帰還させ、自身は魔力を練り始める。
「離れてる内に少しでも数を減らさないとね! 魔力が切れたら私はゴーレムで退避するから! 炎と風よ混ざり合え、ファイアストーム!」
梨華が発生させた炎の竜巻は、魔物の群れめがけて飛んでいく。
どうやら、カミュは回復に専念する様だ。
「皆さんの傷は私が治します! 安心して戦って下さい!」
その傍で、ゴードンは武器を構える。
「こっちは心配しなくていい、姫様は儂が守るからのぉ」
炎の竜巻に吹き飛ばされながらも、魔物達は街に襲いかかってくる。
冒険者達も特殊防壁を背にし、囲まれないように陣形はとられているのだが、圧倒的に人数が足りない。
冒険者達も次第に劣勢になり始めている。
少しずつ、準備が整った冒険者も、加勢には加わってはいるのだが……
梨華やエルフ達の使う大規模魔法も、近くで使えば味方を巻き込んでしまう。
その為、中々使えない。
アメリアやレオニアルは単独で魔物の群れに飛び込み、次々と魔物を屠っているが……
「魔物の数は減っているの? 数が多過ぎて、このままじゃ……」
どのくらい経っただろう。
梨華も魔力が尽きかけてきたのか、意識が朦朧とし、魔力ポーションを浴びる様に飲む。
カミュも同じだ。
休みなく回復魔法を使用し、皆を癒している。
狐の姿をした火の聖霊も召喚し、戦ってもらっていたが、流石に多勢に無勢。
今は力を使い果たし、石の中に戻ってしまっている。
ゴードンの鎧は傷だらけだ。
カミュを守る為に、防げない攻撃は己の体で止めているのだろう。
流石にレオニアルとアメリアも無傷とはいかない。
致命傷は避けているが、無数の傷が体についている。
「あっ! アメリアっ! 危ない!」
梨華が大声で叫ぶが、一足遅かった。
疲労で動きが鈍くなったアメリアは、強烈な魔物の一撃を喰らってしまう。
アメリアは震えながら剣を支えに立つが、足が覚束ない。
体からの出血も酷い。
「あぐっ、くっ! はぁ、はぁ……」
アメリアの血の匂いに誘われて、魔物達が群がろうとしていた。
魔物達が邪魔をして、レオニアルも直ぐには助けに行けない。
梨華達も遠く、間に合わない。
そして、そのまま魔物の波に呑まれてしまった。
「いやぁ―――――――――!」
梨華の脳裏には、今までのアメリアとの思い出が走馬灯の様に駆け巡る。
暫くしてそこに残っていたのは、アメリアが使用していたエストックが寂しく立っているだけだった。
梨華は、そこから先の事はよく覚えていない。
ただ無我夢中で闘い続け、首都からの応援により、なんとか生き残ることが出来た。
そこで梨華の意識は途絶える。
次に気がついたのは、病院の様な治療施設の簡易ベッドの上だった。
頭がふらつく。
まだ魔力が枯渇しかけて、回復されていないのだろう。
梨華は自分の体を調べる。
傷は多いが、深い傷はあまり無い。
横には、動いているのが不思議なくらいに、壊れたゴーレムが横たわっている。
このゴーレムが頑張ってくれたのだろう。
そのゴーレムは、役目を終えたとばかりに、もう動かなくなっていた。
「そうだ……みんなはどうなったの?」
梨華は体を引きずるように動き、皆を探す。
治療している者に特徴を伝え、話を聞き、教えられた場所に行く。
そこには、ベッドに寝かされたレオニアルがいた。
彼の体もかなり"ぼろぼろ"になっていた。
左腕などは変な方向に曲がったままだ。
命の危険はないと、治療を後回しにされたのかも知れない。
梨華は、なけなしの魔力で回復を試みる。
どうやら腕は元に戻った様だ。
良かった。
他の皆を探すが、結局、モブエルフも二人亡くなり、カミュとゴードンも立ち上がれないほど重症だった。
ゴードンの足はもう元には戻らないかも知れない。
ズタズタに切り裂かれていた。
自分も死ななかっただけ、"マシ"なのだろうか。
梨華にはよくわからない。
アメリアの残したエストックが置いてあった。
それを握りしめると、涙が自然とこぼれた。
「ごめんなさい、カイ、アメリア……」
北側の襲撃は悲惨な状況ながらも、街はどうにか無事であった。
この北の街で死んだ冒険者の数も、おそらく百は下らないだろう。
南側の街ゼロスはSランクパーティーの助けにより、なんとか襲撃は押さえられたものの、東側の街ドラッドはアンデットの大群によって、壊滅的な被害を受けた。
特殊防壁もドラッド周辺の一部は作動しなくなっており、ギルド本部は魔物の追撃を恐れ、ドラッドを放棄。
東側の前線を、ツヴェクとファームを結ぶラインまで後退させる決断をした。
西のアハトは魔物の数が少なかったのもあるが、修平達の活躍により、ほぼ無傷で襲撃を終えていた。
後に、ファーデンの悪夢の様な襲撃と呼ばれる事件は、こうして幕を閉じたのだった。