48話 魔物はいきなりやって来る?
このままここにいたとしてもどうにもならない。
おっさんは宿へと帰る事にした。
どのみち、首都のクロイツへは向かうのだ。
細かい事は気にしない、と思いながらも、後を引きずるおっさんなのではあるが……
この街の作りはシンプルだ。
日本の京都のように四角い区画が綺麗に並んでいる。
更には外敵に対して、街と街の間に特殊な防壁を張ることができるそうだ。
その為、衛星都市は首都をぐるっと囲う形で丸く点在している。
街と街との距離は、おおよそ三十キロというところか。
機能面でもかなり優れた作りだと思う。
これが千年程も前に作られたとは……
砂漠とは違い、肌寒くなってきた。
日本でいうと、そろそろ10月半ばくらいだろうか。
宿へと戻り、アリエル達に事の経緯を話す。
「気にしなくていいんじゃないか? 人間達は襲われてないし、あいつら人間至上主義なんだぞ、あんまり関係なくないか?」
「でも、この街にいる人間達は、私達やエルフを別に差別なんてしていないでしょう。情報の共有くらいは、ちゃんとしておいた方がいいんじゃない?」
ふむ、色々と意見はあるが、例え支部に話したとしても、情報が混濁する可能性がありそうだ。
やはり、首都にある東のギルド本部まで行くべきだろう。
「今戻った、治療代が三人で金貨一枚かかったが……」
サイコ達もダニエウ達を連れて戻ってきた。
治療代金高いな、ダニエウ達は保険も何も入ってないから。
冒険者ギルドには冒険者が格安で入れる保険がある。
年間、金貨一枚かかるが、治療院や各種の薬を買う際に割引がかかるというものだ。
健康保険みたいなものか。
低ランクに金貨一枚はきついかも知れないが、冒険者にとって体は資本だ。
壊してからではどうにもならない。
ダニエウ達は、それすら頭の片隅にもない論外なのであるが……
鳥車なら、明日にはクロイツに着けるだろう。
この街ですら、西の王都並の大きさだ。
いったいどれくらいなのか、期待に胸弾ませる、修平であった。
しかし、最近出費しかなく、収入が無い。
魔石も全てなくなってしまった。
どこかで稼がないと、このままでは家無き子になってしまう。
そんな事を考えながら二階に上がり、ベッドへと潜る。
寒さから、妙に人恋しくなる。
アリエル達は別室に大きなベッドで三人一緒に寝るそうだ。
流石に混ぜてくれとは言えないおっさんなのであった。
早朝それは起きた。
ウゥーーーー!
街中に警報が鳴り響く。
おっさん達もビックリして跳ね起きる。
「なんだ? 何があった?」
修平は戸惑いながらも、装備を順次整えていく。
そこにアリエルが部屋へとやって来る。
「こっちは用意できた。何があってもいけるぞ。サイコ達は先に一階の食堂に降りたが、ダニエウ達はまだ寝てるらしい……」
あいつら……
危機感をもう少し持て!
寝てる間に殺されるぞ!
ダニエウ達は放っておいて、修平達も食堂に降りる。
そこには宿の女将さんがいたので、何があったのかを聞いてみる。
「街の特殊防壁が発動したそうです。訓練ではなく、何かしら起きたのでしょうが……」
情報はまだ入ってきていないそうだ。
この宿の位置は防壁からは遠い。
正確な知らせはまだ先になりそうだ。
女将さんに頼んで簡単な物を摘まむ。
腹が減っては戦はできない。
しかし、横を見ると別料金でアリエルが料理を食べていた。
ち、ちょっとアリエル! 朝から食べ過ぎだから!
暫くして、宿の守衛が駆け込んでくる。
「女将さん! 魔物の群れが襲ってきたらしい。それも幾つかの街に同時に! 冒険者の旦那方にも応援の申請がきてるって話だ!」
冒険者は西の門に集まるようにと。
ダニエウ達もようやく起きてきたので、連れて行く。
まだ三人共、寝惚けてはいたのだが。
モブAなどハルバードではなく、手にはモップを持っていた。
女将さんに怒られて、ようやく目が覚めた様だ。
アリエル達は冒険者ではないが、ついてくる。
助かる。戦力は多いに越したことはない。
不謹慎だが、向こうから金蔓がやってきたと思ってしまった。
人間、上を見ると下にはなかなか戻れないものだ。
まだ金貨は六十枚近くはあるのだが……
門に着くと、遠目に見ても分かるくらいに魔物の数が多い。
足の速い魔物とは、もう既に交戦している様だ。
魔物達は統率はとれておらず、無我夢中でこの街に突っ込んできている感じだという。
修平達はギルドの指示で、横並びの隊列の南端に配置された。
冒険者達の総数は百五十を越える。
この様な大規模戦闘など、ゴブリンの集落以来だ。
「来るぞー! 数は三十、中央から南にかけて!」
高い櫓の上から指示が飛ぶ。
修平は武器が武器なので、皆より前に出て構える。
修平の前に現れた敵の数は六体。
頭が二つある熊の魔物が襲いかかってくる。
誰かが呟く。
「ダブルヘッドベアだと、討伐ランクBだぞ、しかも六体も……」
実際問題、熊の前で死んだ振りは効かないからね。
武器がでかい為、距離はとれるのだが……
それにしても、熊にしては大きいな。
体長三メートルはありそうだ。
しかし、最近は大物ばかりと闘っていたせいか、なんだか小さく見えるのだが……慣れって怖い。
「回転運動を足して、横に凪ぎ払うように、ふんっ!」
修平が剣を一閃する。
立ち上がり、威嚇をしようとしていた三体のダブルヘッドベアは、臓物を撒き散らせながら絶命した。
「そのまま縦に、はあっ!」
更に一体の熊を上から真っ二つにする。
それを見て、残りの二体は逃げ出した。
逃げる際に、他の魔物達を蹴散らしていたが……
熊はそもそも臆病な生き物なのだ。
この世界の熊はまったくそうは見えないが。
違和感に気付き、周りを見ると静まり返っている。
「あれ? またやっちゃった?」
だが、その後に歓声が鳴り響く。
良かった。
空気を読んでいないのかと……
誰かあれと戦いたい人でもいたのかと思った。
「オーガの集団だ! 上位種のハイオーガもい……あ、あれは、ま、まさかキングオーガ? 討伐ランクAプラスだぞ!」
次はオーガか、鬼族とは違い、知性が感じられない。
なにやら色が違う個体がいる。
数も少ない。それがハイオーガか。
普通に比べ、少しだけ体が大きいな。
そういえば更によく見ると、なにやら奥の方にとても大きなやつがいるな。
あれがキングオーガか。
「よし、チェーンソー!」
毎度お馴染み回転風ノコギリの登場です。
だが、元々の武器の大きさの外に風の刃が……
最早、歩く人間凶器だな。
魔法電導率もミスリルよりも高い。
元の世界の新築の値段と一緒ぐらいだから当たり前か。
オーガ達も血の匂いに誘われ、修平の所に集まって来る。
大きな棍棒を振り回してくるが……
「遅い、お前らやる気あるのか?」
どこぞのライオンみたいな事を言っているが、本人は気づいていない。
次から次へとオーガを屠っていく。
「もう後悔なんてしないなんて、言わないよ絶対!」
何やら呟いているが無視しよう。
ある程度倒すと、奥のキングオーガも重い腰を上げたようだ。
手には凶悪遭難斧を持っている。
だが、でかいだけで、振るスピードは遅い。
ダーククラブの振り下ろしの方がよっぽど速かったぞ。
キングオーガの攻撃をかわし、その腹へと一撃を叩き込む。
チェーンソーは容赦なく切り裂き、内臓が飛び出る。
臓物がかからないように飛び退くと、キングオーガの首に向け、刀身に纏っていた刃を切り離す。
痛みで動けなかったキングオーガは、一瞬の内に首と胴が離れていた。
「こんなもんなのか?」
前のガムスの方がよっぽど強かった気がする。
周りを見ると、今度こそドン引きしていた。
やはり、空気は読めないおっさんなのであった。
やばい、おっさんが強くなりすぎてる。
イメージが……