46話 ダニエウ、ランク上がるってよ
昼過ぎに目覚めた。
はっ!
武器は同じ所に置いてある。
焦った、盗られてなくて本当に良かった。
とりあえず、気を取り直し、広い場所でツヴァイフェンダーを試しに振ってみる。
「うん、なんとか振れる。が、体を結構持っていかれるな。練習しないと難しいか……」
風切り音が凄い。
腕力が上がったせいなのか、材質がいいのかはわからないが。
ただ、立ち回りをしっかり考えないと、周りにも迷惑がかかりそうだ。
しかし、どんどん人間離れしていく気がする。
ちょっと前までは、まさかこんな武器を振り回すとは思っても見なかった。
最初なんてパクったショートソードだったのだ。
だが、己の強さは、そのまま守る力に直結する。
お金は惜しいが、変な物を買わされなかっただけ……ましだろう。
三人とも、洗脳されたいたのか、恐ろしく変わった物ばかり持ってきてたからね!
ただ、お金が足りなかっただけなのかも知れないが……
今日もこの町で一泊し、明日の朝にはマハトへ向け出発する。
しかし、少しでも敵の情報があれば、こちらも上手く動けるのだが、常に後手にまわるのは頂けない。
一応確認の為、四人は冒険者ギルドにも顔を出す。
すると職員からいきなり声をかけられる。
「すいません、あなたのパーティーの中にダニエウさんのパーティーも入ってますよね?」
あれは入っているというのだろうか?
寄生でしかないと思うのだが……
「今年の税金をまだ払っていないみたいなので……このままでは連行されて奴隷落ちになります。更に西の大陸のギルドからも請求書が届いています」
い、いくらなの?
「もろもろ合計で金貨三十枚ほどですね、一応、前科がありますので、期日がもう少しなんですよね」
前科とは、滞納や軽犯罪を犯して、短期間でも奴隷落ちした事があることを言うそうだ。
修平は頭を抱える。
「わかってはいたけど、あいつらほんとクズよね」
「金を使うのはいいけど、借りてまではな〜」
ラミィとアリエルもため息をついている。
「そういえば、あの人達の戦っている所を見たことがないです」
ファンケルが素朴な感想を述べる。
思い返してみると……確かに、ゴブリンの大規模討伐の時くらいしか、ダニエウ達がまともに戦っているのを見たことがないな……
レイスが相手の時は三人でフルボッコだったから……
あれ? あいつら、いらないじゃん!
着ている装備も、初期の頃から変わっていない。
こっちは自分の意思ではないが、歩く身代金と化しているのに……
お坊っちゃま君か!
このまま、あいつらを連れていくのは大丈夫だろうか……
今回の相手であった、ガムスは一人だった。
だが、もし砂漠みたいに敵が複数だったとしたら、少なくとも守りながら戦える保証も無い。
あいつらが戦闘で力になるとすれば、全然問題は無い。
だがこのままでは、正直、足手まといなのだ。
修平は人を殺してしまった。
だからこそ、"身近な人が死ぬ"ということに、心が耐えきれない気がした。
勿論、それはアリエルにしても、ラミィにしても同じだが。
そもそも、最低限の力がなければ、これから先は生き残れない気がする。
心を鬼にして、突き出すべきだろうか……
修平が悩んでいると、ラミィがバッサリと切る。
「ちょうど港町だから、送り返しなさい。ねぇ、ちょっと聞きたいのだけと、三人とも西の大陸へ引き渡す事もできるのかしら?」
「あまり前列はありませんが、三人とも体は丈夫ですか?」
四人は頷く。
だって娼館に行くぐらいだからな……
「でしたら、問題は無いかと。刑期は伸びますが、回収はできそうですからね」
さようならダニエウ、君達の事は忘れない。
それくらいの金額ならば、一年くらい鉱山で働けば済むそうだ。
受付嬢は書類を持って奥に行く。
暫くすると職員が数人、修平達が泊まっている宿に向けて、走って行った。
「まぁ、仕方ないな"身から出た錆び"だな!」
そうですね。
自業自得か、人間、真面目生きないと駄目になる。
「あなたも冒険者なんですよね? すいません、ギルドカードを見せてもらえますか?」
言われるがままにギルドカードを提示する。
が、受付嬢がまた奥に駆けていった。
え、俺は税金はちゃんと払ったよ。
何があったの?
ま、まさか、昨日の事件の犯人だからですか?
すると、奥から偉そうな人が歩いてくる。
どうやら、この町のギルドマスターらしい。
「すいません、あちらの部屋でお話を、連れの方も一緒で構いませんので……」
ひぅ!
取り調べ室ですか?
びくびくしているおっさんを尻目に、四人は別室へと通される。
座るとお茶が出てきた。
「知っているかとは思うが、ギルドカードは倒した魔物も記録されるんだ」
そういえば、最初にそんな説明があった気がする。
「君のランクはDだが。討伐履歴を見ると……ちょっと、いや、かなりおかしいのだ」
…………
ふむ、そういえば冒険者ギルドに寄ったのは王都が最後だったな。
それから西のエルフの里まで行った(道中、レオニアルが倒したかなりの数の魔物の、止めをさしていた)。
次に砂漠に飛ばされ、各集落を回った(砂漠の魔物の数々や、巨大なサンドワームも倒した)。
それで南のエルフの里に行き、その後、この港町に来た(ダーククラブやシーサーペントの群れを吹き飛ばした)。
…………
ひ、一人では倒してはないからノーカウントだと思っていた。
小物はそれなりに倒してはいるが……
「ちょっとステータスを見せてもらっても?」
えっ! 大丈夫だろうか?
勇者と知っているのは、冒険者ギルドでは西と東の本部の一握りの人間と、ドランのギルドマスターくらいなんだが。
ステータスを見せたらバレてしまう。
修平が出し渋っていると、ラミィから助け船がだされる。
「私達はこれでも急いでいるの。いつまでかかっているのかしら。私達三人は冒険者でもないのよ、クロイツに着いたら、ギルドにも顔を出すから、今はそれでいいでしょう」
ラミィの強い剣幕に押され、しぶしぶ諦めた様だ。
この町のギルドとしても、できるだけ強い冒険者を囲っておきたいのだろう。
最近は魔物の数も多い故に。
ギルドマスターはため息を吐くと。
「とりあえず、ランクをDからBに上げておく。一応本部にも問い合わせるが、問題は無いと思われるのでな」
今年はいいが、来年には税金が金貨十枚になるそうだ。
怖くなって、更に上のランクの税金を聞いてみた。
Aだと金貨五十枚、Sだと金貨二百枚ですって。
跳ね上がり方がなんと恐ろしい……
Sランクだと、その位稼ぐのは難しくないらしい。
どんだけ〜〜〜!
表が騒がしい。
どうかしたのだろうか?
四人は部屋から出ると、外からダニエウ達が連行されて来た。
「俺らは無実だって、旦那がちゃんと払ってくれるからよぉ!」
「旦那も俺らがいるから、これまでやってこれてるんだぜ!」
「旦那と俺達は一蓮托生なんだな……」
すいません、バ◯ァリンを下さい。
頭痛が止まらないんです。
アリエルがポンッと手を叩く。
「修平はこいつらが戦力にならないから駄目なんだろう。なら、ギルドで模擬戦をやってみればいいんじゃないか?」
なるほど、確かにあれから戦っているのを見たことが無いだけで、本当は強いのかも知れない。
最低、荷物持ち位なら使えるか。
ラミィも渋ってはいたが、なにやらアリエルの説得で納得した様だ。
「ならば、このギルドで一番の者を、ランクはAですが」
ギルドマスターとしても、少しでも恩を売っておきたいのか、快く申し出てくれた。
でも、あいつらのランクはEランクなんだが……
そんな高ランクの人相手に、なんとかなるのだろうか?
場所を訓練所に移り、三人は得物を持つ。
ランクが離れすぎている為、三対一でいいそうだ。
「俺達の事を舐めすぎじゃねぇか!」
「俺らのジェットストリームアタックを見せてやるぜ!」
「だ、旦那にいいところを見せるんだな……」
なにやら黒い三連星みたいな事を言ってはいるが、お前らのどこにジェットやストリームが関係するんだよ!
三人ってところしか合ってないだろう!
合図と共に戦闘が開始する。
相手の男は両手剣を持っている。
縦に剣を振り下ろし、三人を分断すると、狙いをダニエウ絞り、剣を横に払う。
見るからに凄まじい威力なのだが、ダニエウはそれを受け止める。
「おおっ、耐えたぞ!」
修平はダニエウが吹き飛ばされると思っていた。
だが予想は外れ、見事に踏ん張っている。
すると、そこでダニエウは相手の腕を掴む。
男は振り払おうとするが、なかなか離せない。
その隙にモブ達がダニエウの後ろから襲いかかる。
男も不味いと思ったのか、ダニエウごとモブ達に叩きつけようとする。
たがその瞬間、ダニエウは手を離す。
男の体制が崩れたところに一気に三人で畳み掛ける。
「いくぜ! モブA、モブB! おらぁ!」
ダニエウがまず縦に、思い切り打ち込む。
かなりの力が入っていたのか、激しい音が鳴る。
だが、男はギリギリ剣で受けている。
するとそこに、モブAが横凪ぎに武器を振る。
男は避けようとしたが、腹に軽くヒットしてしまう。
しかし、まだそこまでのダメージは無い。
最後に突進してきたモブBのハンマーが、男を下から空に打ち上げた。
男は立つことができない。
なんとダニエウ達が勝ってしまった。
「ま、マジか……勝っちゃったのだけど……」
ランク詐欺や八百長だの、激しい怒号が飛び交う。
な、なに? なんで?
無茶苦茶皆さん怒っているのだけど……
よく見ると、アリエルが皆からお金を集めている。
どうやら、どちらが勝つかを賭けていたようだ。
ランクの差からダニエウ達は大穴だったらしい。
張り合う為に、アリエルがダニエウ側にドーンとほぼ全財産賭けていたそうだ。
実に金貨六十枚。
勝ったから良かったものの、負けてたらどうしてたの!
無一文ではこの先食っていけないよ!
流石に他の人が賭けた金額は、金貨六十枚には届かなかったが、それでも金貨三十枚くらいにはなった。
それをダニエウ達の返済にあてる。
これでお金の面はどうにかなりそうだ。
アリエルがこっちにやって来る。
「良かったな、修平。これであいつらも一緒に来れるな」
うーん、良かったのか?
「あいつらと馬鹿してる時の修平の顔は、なんだかキラキラしているからな。いた方がいいと思ったんだ。駄目だったか?」
アリエル……
本当にお前はいい女だな。
「腕もそんなに悪くはなかったわね。まぁ、私達ほどじゃないけど。借金もないなら別にいいんじゃない」
「僕もいいと思います!」
ラミィ、ファンケルも……
「ふむ、三対一とはいえ、Aランクのケインを倒すか。確かお前達はEランクだったな。よし、Cランクまで上げよう」
おお、ダニエウ達もランクが上がった。
「やったぜ、10年振りにランクが上がったぞ!」
おいっ! サボりすぎだろ!
逆に凄いな! お前ら、今まで何をしてたんだ!
「母ちゃん、遂に俺、やってやったよ!」
そういえばモブAの母親は何処に行ったんだろうな。
「ファルたん、俺やったよ! 抱きしめていいかな!」
こらっ、モブB、ファンケルに近づくんじゃない!
あ、ラミィに吹っ飛ばされた。
「やれやれ、仕方ないか。でもCランクになると、税金が金貨五枚かかるんだけどね」
なんだかんだ言いつつも、どこかでホッとしているおっさんなのであった。