4話 おっさん街へ行く
査定の事はあまり考えないことにした。
まだ、この世界に来たばかりなのだ。
まずは異世界に慣れる方が大事だろう。
とりあえずは、少女ティアナの案内による、初めての街を目指すことにした。
街の名前はドランというらしい。
でかい竜の魔物でも、出てきそうな名前ではあるのだが。
ティアナに聞くと、正確に書かれた地図は、まだ見たことが無いのだとか。
服装からみても、時代背景が元の世界と比べ、かなり劣っているようには思える。
魔法はあるにはあるみたいだが、適正を持っていないと、使う事ができないのだとか。
「ティアナは使えないのか?」
おっさん、魔法に興味津々なのである。
だって、ロマンだからね!
「私は使うことはできないですね、適正が無いので……」
ティアナは残念そうに下を向く。
自分に魔法でも使えていれば、襲われた時に、"なんとかなったかも知れない"とでも思っているのだろうか……
「魔法! 俺も使ってみたい! おらワクワクしてきたぞ!」
いい年おっさんが、某マンガのセリフみたいな事を言っている、子供か。
いや、ティアナの気を紛らわしたいだけなのである、多分。
「そろそろ街道にでるとは思うのですが……」
ティアナは、普通に苦笑いを浮かべ、スルーされる。
は、恥ずかしい!
どうやら少女の方が大人であった。
おっさんもうすぐ四十歳なのだが……
「あっちの方がなんだか……少し騒がしくないか?」
おそらくは街道の方角だろうか?
女の怒鳴り声が、修平達のいる所まで響いてくる。
ティアナに聞くと、声の主に心当たりがあるそうだ。
「おい貴様! お嬢様になにかあったら、その首捻り切ってやるからね!」
修平は顔を青ざめて、ついつい後ずさりしてしまう。
そこにいたのは、立派な馬に乗り、蛮族を連想させる体がムキムキの女性。
女性の腰には、それなりの大きさの曲刀がぶらさげてある。
「俺の首なんて……軽く一発で飛ばされそうだな……こわっ! この人、絶対怒らせたらあかんやつじゃん!」
「ナタリー!」
ティアナが叫ぶ。
「お嬢様! 御無事ですか!」
どうやら、このムキムキの女性はナタリーと言うらしい。
名前と見た目は比例しないようだ。
ナタリーは馬から降りると、駆け足でティアナの元に走ってくる。
「お嬢様! 良かった。無事かい!」
ナタリーは一緒にいる、挙動不審の修平を、胡散臭い眼差しで見ると、フンッと大きな鼻息を鳴らす。
「お嬢様、この男は誰だい?」
「危ないところを助けてもらったの、名前は修平さんと言うらしいわ」
ナタリーは値踏みするように、修平の周りをうろつきながら、じろじろと眺めてくる。
凄まじい眼力で睨まれている。
今にも視線だけで、殺されてしまいそうだ。
まあ、そのまんま見た感じの、軽い肥満のただのおっさんなので……どうか、そこらへんで勘弁してください。お願いします。
「まぁいいや。お嬢様を助けてくれて礼を言う」
ナタリーは頭を下げる。
「護衛の男が慌てて帰ってきて、お嬢様が襲われたって聞いたからさ、直ぐ様飛んで来たのさ!」
ナタリーは護衛らしき男を睨む。
睨まれた男も目線を下げながら、体を震わせている。
それもしょうがないだろう。
目が無茶苦茶怖いのだ。
「護衛の男も逃げ出してくるなんて……あたしが直にぶち殺してやろうかと思ったけどねぇ、案内が必要だったからさ、運が良かったねぇ。ところで賊はどこだい?」
ナタリーは重そうな曲刀を、軽くブンブンと振り回す。
修平は目眩で倒れそうである。
「いえ、賊はもう……」
おっさん、必死で説明する。
ただただナタリーが怖かったのであった。
なぜなら、新宿2丁目のお姉様ばりに厳ついので、つい……
「そうかい、わかったわ。仲間の遺体も積んだ事だし、急いでドランに戻るよ!」
どうやら日が沈む頃には、城壁の門が閉まってしまうそうだ。
ここからなら馬車でかなり急げば、門が閉まる前にはどうにか間に合うらしい。
「しかし、ここは街からそんなに離れていないというのに、それなりに物騒だな……」
「ここはどちらかというと辺境だからね、治安もあまりよくないのさ。少し前に街の中の掃除をしたんだけどねぇ……その討ち漏らしかねぇ、チッ!」
掃除とは、いったい何の掃除だろうか……
おっさんは空気を読む。
それ故、あまり深くは考えないことにした。
パッカパッカパッカ
馬には二人で乗り、街へと急ぐ。
ティアナはナタリーと、修平はナイスミドルなおっさんと。
馬車には遺体、遺品等をのせて。
遠目に城壁が見えてくる。
城壁の高さは3メートルくらいだろうか、それなりに高い。
おっさん、感無量である。
ようやく、異世界に来て初めての街に到着するのであった。