41話 竜巻と誤解と
おっさん達7人は港町に向かい、西の海岸線を北上していたのだが、現在、シーサーペントの大群に襲われていた。
おっさん達が乗っている鳥車の方が重い為、自ずと先に襲われる。
ダニエウはそこらに置いてある荷物を適当に投げる。
おい、それ食料だぞ!
積んでくれたエルフの皆さんに申し訳ないだろう!
「旦那ならなんとかなる、降りてくれ! このままじゃみんな食べられちまう!」
行者のパスモンも必死に攻撃を避けてはいるが、食らうのも時間の問題だろう。
だが、おっさんはというと。
「おえっ〜、動きが激しすぎる……」
絶賛、嘔吐中だ。
鳥車はサスペンションもなく、シンプルに揺れが凄い。
この世界の人はもう少し考えないのだろうか?
お尻も痛い、このままではおっさんの尻は痔になること間違いない。
なんということだ。
世界の危機はここにあったのか。
魔法でなんとかしたいところだが、気持ち悪さが勝っていてイメージが上手くできないのだ。
「おえっ、しょうがない、ダニエウ、後は任せたぞハリケーン!」
アンデット戦でのイメージが強く残っているのか、ハリケーンハリケーン上手く発動だきた。
しかし、やはり最初は小さい風から、みるみるうちに大きな風になっていく。
だが、魔力も前よりかなり増えているのだ。
大きさが前の比ではない。
「ちょっと待て! だ、旦那、ここじゃ隠れる所はないぜ! どうすんだよ?」
い、意識が……結局、魔力全部使うのか……
「だいじょうぶ、今回は海に向けてはな……」
そこでおっさんの意識は途切れた。
竜巻はシーサーペントの群れを巻き込み、空高く上げると、そのまま海に向けて移動し始める。
おっさん達の進行方向とは真逆の為、どんどん離れて行く。
いくら海の魔物といえども、あの高さから落ちたのでは、万が一にも助かりはしないだろう。
後日談だが、ハリケーンは大陸間の大渦に向かって飛んでいった。
それは周りの地形をも削りとり、大渦にぶつかり、しばらくして止まる。
そして、大渦を消滅させると、竜巻も消えていった。
その光景を見た者の話からすると、竜巻が幾つもに別れ、上空の積乱雲を巻き込み、雷が鳴り響く。
まるで、そこに魔王が現れた様だと、後々語り継がれる事となった。
だが、おっさんはまだ何も知らないのだが。
起きたらアリエルの膝枕の上だった。
ここは天国か? それとも楽園なのか?
ふと視線を感じ、ちらりと横を見る。
すると、ラミィが物凄い形相でこちらを睨んでいた。
違った、ここは地獄であったか……後が恐ろしいのだけど。
ラミィさん、そんな顔はやめてください。
可愛い顔が台無しですよ。
鳥車も無事だったか、良かった。
おっさんは、心底ほっとする。
何故か毎回、乗り物関連は悲惨な目にあっているからなのだが。
「ここは?」
おっさんは起き上がり、周りを見渡す。
まだ砂浜の様だが、日が暮れている。
浜辺からは少し離れてはいるが……
いったいどこまで進んだのだろう?
「ここは大渦より北に進んだ所だな、港町までは、あと一日というところか……」
サイコやパスモン、ファンケルの顔が窶れている。
ダニエウ達は修平の破天荒(本人はまったく気付いていない)ぶりに慣れているが、新しい者達はまだその域まで達していない。
そこに加え、ファンケルは鳥車の揺れにより、道中何度も吐いていた。
幼子にはかなりの試練だろう。
ファーデンへと行くには、砂漠を戻り北に進むルートでも良かったのだが。
それでもこのルートを選んだのは、ダッチウがそこまで熱に強くないのもあるが、まだ行ってない港町に寄ろうと思ったからだ。
「そうか、今まで寝てたからね、夜の番は俺がするよ」
おっさんは夜の警備を引き受ける。
皆が寝静まった頃、少し離れた所でおっさんは剣を振るう。
最近、剣の稽古をサボっていたので鈍くなっている。
ナタリーから教えてもらった剣の型を何度も復習する。
基本は大事なのだ。
基本を疎かにしては、発展も望めない。
「あ、あの……」
急に声をかけられる。
ファンケルだ、眠れないのだろうか?
「起こしちゃったかな? どうした?」
一応、気をつけてはいたのだが、ブンブン振り回す音が五月蝿かったのか?
「いえ、僕にも剣を教えて下さい! お願いします!」
おっさんも素人なのでちょっと迷う。
ダニエウ達は論外だが、サイコとかに教えてもらった方がいいのではないだろうか……
とはいえ、やりたいという気持ちは尊重したいところだ。
「俺で良かったら教えるけど、あまり期待しないでね」
北の里の事もある、強くなりたいと思うのも仕方ないだろう。
手持ちに手頃な武器はないので、漂着していた木の棒で素振りから始める。
一段落する頃には夜が明けていた。
「あまり無理も良くない、ここらで終わりにしよう。出発まで軽い仮眠もとった方がいいからね」
なんだろう、ファンケルがモジモジしている。
トイレだろうか?
一応、小さくても女の子だ。
お花畑に花を摘みにいくなら、アリエルかラミィに頼まないと……
「あのっ! 修平さんは勇者とお聞きしました、それで、あの、その、ゴニョゴニョ……」
うーん、なんだろう。後半、声が小さくて聞き取れない。
トイレではなさそうだが、勇者は関係ないし。
「ごめん、上手く聞こえないんだ。もう少し大きな声でお願い」
恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして近づいてくる。
修平は聞き取りやすい様に、屈んで耳を傾けると、ファンケルはそっと修平の耳に口を寄せて、小声で話しかける。
「僕を抱いて下さい!」
……?
…………ハグのことかな?
そうか、あんなことがあったから寂しかったんだな。
父親の面影でもおっさんに見えるのだろうか?
ちょっと恥ずかしいのだが、おっさんは軽くハグをする。
たが、ファンケルはきょとんとした顔をしている。
「違います、そうじゃなくて……」
ふむ、違う、違う?
ま、まさか、ダメ、ダメだよ!
モブBじゃないんだから、おっさんはロリコンじゃないから。
いや、そんな悲しい目で見られても……
ああっ、泣かないで、そういうことはだね、ちゃんと愛しあってから、お互いの意思を確認してからだね……
とにかく! 駄目だから、まだ早いから!
「だってカミュが言ってたから……」
カミュって誰?
こんな幼い子供にそんなこと教えちゃ駄目でしょ。
「カミュが勇者様はスケベだって言ってたから……」
なに? なんで俺の知らないところでディスられてるの?
いや、まぁ、スケベなのは否定しないけども……
それにしても、話が飛躍しすぎでしょ。
「勇者様に抱いてもらえば力が湧いてくるって……」
どんな栄養剤だよ!
おっさんの白いものにそんな効果は無いと……無いよね?
そういえばアリエルが……
「なんか最近、体が軽いんだよなー!」
って言ってたけど……関係ないよね?
おっさんが悶えながら砂浜でゴロゴロ転がっていると、そこに起きたラミィがやって来る。
「あんた、なにやってんの?」
ファンケルがすかさず答える。
「勇者様に抱いてもらおうと思って、お願いしてたんです!」
ラミィが侮蔑の瞳で修平を見る。
いや、違うから、オッケーしてないからね!
そんな目で見ないで!
俺は無実だよ〜〜〜!
勝手にディスられ、勝手に誤解され、女性に振り回されまくるおっさんなのであった。