39話 悪い報せ
書いてある日数は調整しだいで変化するかもしれません。
北のエルフの里が襲撃され、滅ぼされた。
その衝撃的な知らせは瞬く間に街へと広がる。
始まりの森に続き、二つ目のエルフの里が落とされたのだ。
しかも、この街は里から一番近い為、街に広がる動揺は前の比ではない。
ここにも冒険者ギルドの支部はあるため、迅速に首都クロイツには報告がいくだろう。
ツェーンは北のエルフの里と独自に交易を行っていた。
その為、里を出てしばらくの場所や、穀倉地帯に入る前など、なにかあった時の為に中継地点をいくつか設置してある。
今回報せに来た早馬は、里に一番近い所では無く、里から2番目に近い所から来た。
異変を感じたのは5日前、いつも必ずある定期連絡が無かったのだ。
おかしいと思い、調べに行ったところ、中継地点があった場所はおろか、遠くからでも見える大木が跡形もなく無かった。
すぐに引き返し、今に至る訳だ。
知らせを受けた冒険者ギルドの中では、憶測や噂話が飛び交っている。
直ぐ様、この街のギルドマスターは会議をする為、街にいる主要メンバーを集める。
他の者も必死に情報を集めるが、未だ信憑性に欠ける情報しか集まってこない。
最近、この近辺を軍隊が通ったという報告もない。
少数ならば見つかることも少ないだろうが、里を滅ぼすとなると想像が追いつかないのだ。
いったいどうやって?
その問いに答えられる者がいない。
そして、会議は夜遅くまで続いたのだった。
時は少し戻る。
街に入ると、とりあえずレオニアル達は宿をとった。
案内エルフ達は情報を集めにギルドへと向かい、他の者は食堂に集まっている。
レオニアル達が北の里を出てから、このツェーンに着くまでに12日かかっている。
その間、いったい何が起こったのか……
カミュは項垂れている。
「何があったんでしょう、ファルは大丈夫なのでしょうか?」
最近、仲良くなれた少女の笑顔を思い出し、涙ぐむ。
「時間的に見て、我々が里を出てしばらくしてだろうが……」
獣の顔が歪む。
修平を探す為、急いで里をでた故に襲撃に遭遇しなかった。
もう少しでも長く里に残っていれば、という思いが拭いきれないのだ。
いつもは明るいアメリアも沈んでいる。
なぜ同胞がこんなにも殺されるのか?
理由がわからない。
私達は悪い事など何もしていないのに、と。
「魔王は既に復活していて、慎重にまわりから潰しているのかしら?」
梨華は魔王についても調べていたが、なんせ周期が何千年単位なのだ。資料がまともに残っていない。
石碑だけは各地に残っているが、掠れて読めない物がほとんどだった。
エルフも同様に、だいたい千年くらいで彼等は樹化してしまう。
話を語り継ぐにしても正確に伝わっているかどうか怪しいところなのだ。
バタンッ!
ギルドに出向いていた案内エルフが戻ってくる。
「すいません、時間がかかりました」
顔色がよくない。疲れているようだ。
ギルドでは、エルフということで質問攻めに合っていた為、思いの外、時間がかかってしまった。
だが、そこまでの有益な情報は得られなかった。
信憑性には欠けますが、と。
ギルドでは会議にも呼ばれた。
そこで聞いてきた話をする。
「その中に気になる情報が一つ。南にあるアルナー砂漠で北の集落が滅ぼされたと。しかし、その後の被害がピタリと止まったそうです。東の集落が襲われたという話も上がってますが、よくわからないそうです」
モブエルフが話を補足する。
「オアシスが枯れたとか、黒い獣を見たとか、色々話はあるのですが……」
レオニアルは鬣を撫でながら目を瞑る。
「もしかすると、南の件は修平が関わっているかもしれんな。あれに対抗するには紋様持ちか、おそらく勇者。それとも異世界人でもいけるのか?どちらにせよ相応の力が必要になるだろう」
カミュは涙を拭い、前を見る。
「私達はこれからどうするんですか?里を襲った敵はいったいどこに向かうのでしょう?」
梨華は考える。
エルフの里を滅ぼすならば、次は南か西が残っている。
だが、モブエルフの話を信じるならば、南は失敗したのだろうか?
しかし、西に行くには船がいるのでは?本当に船が必要?
正解がわからない。
今のままでは情報が足りなすぎる。
「……選択肢としては、里より一番近いこの街で待機する。または、首都クロイツまで行き、もっと情報を集める。更に可能性を考えると、敵が船を使う事を考慮して西の港町に行くってとこかしら、どうするアメリア?」
アメリアはずっと俯いていた顔を上げる。
「クロイツに行く、多分だけど、私のおじいさんがギルドにいるから〜」
みんな、へっ?という顔をする。
ゴードンが思い出したように、ポンッと手を叩く。
「そういや、かなり前に聞いたことがあるのぉ、東の冒険者ギルド本部に凄腕のエルフがいるってな」
百年程前だが、と。
「おじいさんは子供の頃に会った時、私に魔王と戦ったって話を聴かせてくれたの。クロイツで冒険者をしてるって言ってた〜」
彼は更に紋様持ちだという。
「フラフラしてる人だから、今もいるかはわからないけど〜」
レオニアルはゆっくりと目を開く。
「なら決まりだな、明日の朝ここを発ちクロイツへと向かう」
皆、頷く。
次に向かう目的地はクロイツへと決まったのだった。