閑話 変人研究者グリーフの話
異世界フィクションなので、"そんなに速くできない"とかツッコミはなしでお願いします。
本職じゃないのでよくわかってませんので…………
儂はグリーフ、研究者をやっておる。
歳は七百ほどか、途中から数えるのを止めてしまったわ。
そんなことどうでもいいからの。
エルフは長生きじゃからな、あまり気にするやつはおらんな。
あまりに暇すぎて、趣味で始めた研究じゃが、ついつい面白くてのぉ、のめり込んでしもうたわ。
魔法レンズを開発してからは、細菌や科学反応など、魔法とはまた違う魅力にとりつかれてな、日夜、研究に明け暮れておる。
エルフの樹化に関しても興味深い。
儂の開発した薬を投与すれば樹化が緩やかになるのじゃ。
今のところ儂と長老くらいしか試してないがの。
まぁ、この問題はエルフの尊厳にも関わるからの。
他の者には無理強いするつもりは無い。
長老も最初はかなり渋ったからのぉ。
え、それって無理強いしてる?
多分、同意の上じゃよ、これはノーカンなのじゃ。
最近の研究テーマは"闇に対抗するにはなぜ紋様なのか"じゃな。
レオニアル殿達の話を聞く限り、普通の種族がまともに闘ったのでは太刀打ちできん。
さらに、紋様がうっすらと光ったというのも興味深い。
未知のウイルスに対して抗体が働いているのかも知れん。
実に面白い!
彼ら紋様持ちの血も分けてもらった。
紋様周辺から取らせて貰ったのじゃが、中に未だ見たこともない物質が含まれておった。
今は培養中じゃが、もしかしたら、いずれは疑似紋様も作れるようになるかも、じゃな。
スピードは遅いが、培養には成功していることじゃ、んほっ、夢は広がるのぉ。
貰った鎧も役にたっとる。
マジックバックに入っていたせいか、劣化してないのもいい。
微かに闇の残滓がある。
特殊なケースに入れて保管しておるが、闇が充満し始めておる。
いいのぉ、そそるのぉ!
そうじゃ!
培養した成分を使い、針で他の者に埋め込んでみるのはどうじゃろうか?
危険ではあるが、人体実験は必要じゃからな。
〜〜〜♪
ついつい鼻歌がでてしまうのぉ〜〜♪
最悪、血が無くなったら、この里にも紋様持ちはいるからのぉ。
体は小さいが限界を見極めて抜いてやれば、ぬほほ!
え、怖いじゃと?
科学に犠牲は付き物じゃ!
いつかはここも襲われるかも知れん!
決して儂の欲求の為だけにやっている訳じゃないんじゃ!
あー、楽しみじゃの〜〜〜〜!
あ、うっかり本音が漏れてもうた。
歳はとりたくないものじゃ。
げふん、げふん!
んおぉ!
微かではあるが、埋め込んだ所が光っておる。
施してないエルフは倒れてしまっているが……まぁ、放っといてももおそらく大丈夫じゃろう。
うむ、何もしていないエルフと違い、埋め込んだ者は力も少しなら入ると。
顔が青いな? どうしたのじゃ?
まさか、副作用か?
え、別に問題はない?
驚かせるんじゃない。
しかし、途中ではあるが、実に面白い!
え、怖いからもうやめてくれじゃと!
まぁまぁ、よいではないか。
まだまだやりたいことがあるのじゃからな。
あっ、こらっ!逃げるんじゃない!
里の発展のための礎になるのじゃ〜〜〜!
ドッガシャ!
ヒューーボガッ!
な、なんじゃ?
徹夜明けには、ちと激しい目覚ましじゃな。
明るいのぉ、今日の天気は晴れか……のぁ、さ、里が燃えておる?
いったいなにが……
遠目に何か見える……あの黒い獣みたいなものが、里を燃やしておるのか?
バタンッ!
「グリーフ殿、長老がお呼びです! お急ぎを!」
落ち着くんじゃ、焦りは脳を停滞させる。
深呼吸、ごほっ、け、煙が、くそっ!
「ゲホッ、グリーフじゃ、入るぞ!」
そこには長老が臨戦態勢で待っているではないか。
まさか奴等の襲撃か、想定よりもかなり速い。
まだこっちは完全に完成してないというのに。
「グリーフ! 実験は少しなら完成していると聞きました。どのくらいの人数にできるかわからないけど、早く里の精鋭に施しなさい!」
駄目じゃ、まだ軽く抵抗できるにすぎん。
こんなものでやり合うのは自殺行為じゃ!
「敵は待ってくれないわ、グリーフ。あなたは施術したらファンケルと共に里から逃げなさい。まだ、あなたの力はきっと必要になるはずよ」
い、嫌じゃ、ここにはラボもある。
儂とてこの里の人間じゃ、最後まで戦うぞ!
「グリーフ……お願いよ、幼なじみの最後のお願いを聞いて。あなたには生きていて欲しいの」
クソッタレじゃ、そんなこと言われたら……
ぁぁあ、分かってる、頭では分かってるんじゃ。
畜生、こんなに不甲斐ない自分は嫌じゃが、死にたくもないんじゃ!
くそっ! くそっ! くそっ!
とりあえずは十人くらいしか無理じゃ、サンプルも持っていく。
早くせい!
おいっ、そこのお前はラボから儂の鞄とここに書いたものを。
お前はファンケルをここに連れて来ておけ!
時間がない、急げ!
急ぐんじゃ!
……
…………
とりあえずは……これでいいはずじゃ。
「ありがとう、グリーフ。ファンケルをお願いね。大丈夫よ、私は簡単にはやられないわ」
長老は聖霊を呼び出すと、儂と気を失っているファンケルを掴ませた。
ファンケルが暴れないようにする為か。
確かに、この光景は幼子にはキツイ、できるなら見ない方がいい。
聖霊が羽を広げ大空に高く舞い上がる。
あぁ、里が遠くなっていく。
「生きて、また会うんじゃからな! 実験結果を聞かせてもらわんといかんしな! マリア! 絶対じゃぞ!」
遠目でマリアが笑っているのが見える。
更に、戦場は激しさを増していく。
闇の範囲外から魔法で抵抗している者もいるみたいだの。
でかい獣は消えたが、闇は広がったままじゃ。
がはっ、爆風がここまで。
まだあかんぞ、できるだけこの光景を忘れないように目に焼き付けておかんと!
必ず、必ず完成させる。
お前らが誰かは知らんが、必ずリベンジする。
絶対じゃ!
いくつか設置しておいたキャリーボイス君、そこから微かに声が聞こえてくる。
「この体が半分くらい木の婆さん、なかなかしぶとい、ガムス、後は任せた」
「スケア殿、貴殿は報告の方を頼む。強者よ、せめてもの情けだ、一撃で仕留めよう」
ガガッ! ツーーーー
あああぁ、本当にきついときは声にならんものだな。
儂はそこで気を失ったんじゃ。
気がついたら見知らぬベッドの上に寝ていた。
そこのお主、南の里に無事に着いたのか?
はっ、そうじゃ、ファンケルは無事かの?
ふぅ、横で寝ておった。
良かった、どうやら大きな怪我も無いようじゃ。
儂も、つっ、と左足が無いか……
このくらいで済んで良かったと思わなければな。
傷は痛むが、今はそれどころではない。
荷物は無事か?
そうか、ならば寝ている暇ではないの。
すまんが手を貸して欲しい。
すぐにでも研究を始めないといかんのだ。
ここもいつ襲われるかわからんしな。
儂を逃した事を、奴等に死ぬ程後悔させてやるんじゃ。
むぅ、涙か……まだ枯れておらんかったか。
あぁ、マリア、儂はお前を愛していたんじゃな。
いなくならないと気づかんとは、なんと情けないことか。
だが、泣くのはこれが最後じゃ。
マリア見ておれ、必ず完成させてやるわい。
それまで天国で待っておれ。
まぁ、儂がそこに行けるかどうかは別じゃがの。
日曜日は新しい更新は、なしです。