36話 初めての海は………
2章の途中にスーツケース?の話を入れました。
ダニエウ達が助かる未来が見えなかった為なんですけどね。
南のエルフの里。
鬼族も基本的には関わることは少ない故、正確な場所はわかっていない。
西の集落から南西にあると言われているが、アリエルもラミィも行ったことはないそうだ。
この世界の人は、あまり旅という概念はないのだろうか。
おっさんは余裕があればのんびり旅をしたいと思ってはいるのだが。
それなのに、なんでだろう、常に強制イベントが押し寄せてくるのだ。
本当は今流行りのスローライフを目指したいところなのだが。
とりあえずは、里があるであろう位置を予想し、その場所へと向かうことにする。
まずは西に進み、砂漠を抜け、そこから海岸線を南下する。
東の大陸の南西の先端、森はそこまで大きくはないが点在する。
その内のどれかが当たりのはずだ。
もしかしたらアメリアから借りているアクセサリーが役に立つかもしれない。
海か、最近、砂漠しか見てないから新鮮だろうな。
久しぶりにうまい魚が食べたいものだ。
そんな呑気な事を考えながら進んでいると、前の方から砂の波が三人に向かって進んでくる。
数は二つ、素早くラミィは矢を弓につがえる。
狙いを敵の進行方向手前に定めると、矢に氷の属性を付与し、弓を引く。
中るとその場所に氷の華が咲いた。
敵は避けきることができず、傷を作りながら砂上にその姿を現す。
「砂漠の捕食者だ! 気を付けろ! 血にも毒があるぞ!」
その見た目は大きなムカデだが、口先に堅そうな二つの顎がある。
傷口からでた血液はシューシューと音をたて蒸発している。
顎がカチカチと甲高い音をたて、こちらを威嚇してくる。
「アリエル、下がるんだ!」
接近戦が主体のアリエルにはきつい相手だ。
直ぐ様、修平は身体能力強化に加え、マグネットによる加速をプラスして敵に突っ込む。
横凪ぎに振られたトゥーハンドソードによる攻撃が、一体の首を綺麗にはねる。
「シールド!」
飛び散る血液は見えざる盾で防ぐ。
実はアリエルとチョメしてから、土魔法も普通に機能していることに気づいた。
うむ、結果オーライと考えねば。
「土柱、土柱! もひとつ土柱!」
もう一体も土の柱で串刺しにする。
そしてシールドを展開し、上手くかわす。
同時に魔法を2属性は使えない為、なかなかにこの腕輪はいい仕事をする。
ほんと高いだけはあるな。
ラミィが呆然とこちらを見ている。
「あんたって強かったんだ……」
もっと誉めてもいいんだよ。
「人は見た目によらないのね〜」
いじけるぞ、こんちくしょう!
アリエルが誇らしげなのが、まだ救いなのだが。
「早く移動しないとね、またくるかもしれないから」
砂漠の捕食者といわれるくらいだ。
年間それなりの数の犠牲者がでているらしい。
砂に引きずり込まれ、酸で溶かされながら捕食されるそうだ。
なにそれ、怖いんですけど。
しかも、時間をかけると仲間を呼び、集団で襲いかかってくる。
「修平がいれば平気だ!」
うん、まぁ、できたら戦闘は避けたいけどね。
「そういえばラミィは氷を使えるのか、でも砂漠なのにどうして?」
水の精霊も砂漠では弱くなる、氷の精霊でも同じなのでは?
「これのおかげね」
ラミィの腰には拳くらいの大きさの綺麗な石がはめられたアクセサリーが巻いてある。
「これは精霊石よ、中に精霊が封じてある物なの。使う為には適正が必要だけどね」
便利だな、ある程度使うとしばらくは弱って使えなくなるらしいが。
どこでも使えるのはいいね。
「珍しい物だから中々出回らないけどね。私はおじいちゃんから貰ったの」
またおじいちゃんか。
「あたしもこの鎧と棍棒はおじいちゃんからだな」
ふぅむ、レアアイテムを沢山持っていたのだろうか。
いったい何者なんだろう。
既に亡くなってはいるらしいのだが。
その後も何度か魔物に遭遇したが、問題なく倒すことができた。
ラミィは氷の他に火と風を使えるそうだ。
直接攻撃の魔法ではなく、付与しかできないそうだが。
火の矢で敵を燃やし、風で威力を増した矢でかなり離れた所からも急所を射ぬく。
弓もかなりの腕前だ。
普段は怖いが、仲間になると頼もしいものだ。
それから一日かけて砂漠を歩き、遠目に青い景色が見えてくる。
「おおぉ、海だ!」
この世界に来て初めて海に出た。
砂漠からの繋がりで浜は砂浜だ。
元の世界では魚釣りが趣味だったからなぁ。
おっさんは穏やかな気持ちで海を見ていると、次々と陸に何かが上がってくる。
ガキョゲニュキョ!
なんか凄い叫んでますけど……
手に粗末な槍を持って、こちらに向かってゆっくり歩いてくる。
どっから見ても友好的には見えない。
あっ! 槍を投げやがった。
投げられた槍を修平は左腕の盾を広げ、横に叩き落とす。
「あたしも見るのは初めてだが、これがシーマンか!」
シーマンだと!
おっさんのイメージでは人面魚なのだが、こいつらは海のゴブリンみたいな感じだな。
アリエルが敵の群れに突っ込み、棍棒を振り回している。
その棍棒にはラミィが氷を付与している。
いつもの大剣とは違い、細かくザクザク刺さっているのだ。
青い血が飛び散って、徐々に砂浜をどす黒く染める。
なかなかにグロい光景だ。
何体かに逃げられてしまった。
凄まじく泳ぎが速い。
オリンピック選手もビックリだ。
そのまま海に潜ると、浮上せずにどこかに消えていった。
海の中では会いたくないものだ。
ラミィは大きく息を吐く。
「シーマンの他にシーサーペントやレッドクラブもでるわ、あまり海に近づき過ぎるのは危険ね」
な、なんだと! 異世界の海に癒しはなかった。
水着のお姉さん、キャッハッ、ウフフッ!
無理なのだろうか? 悲しいね。
そのまま海岸線を南に進んでいると、遠くから戦闘音が聞こえてくる。
三人は砂浜を駆ける。
そこには数人のエルフが、かなり大きい黒いカニと闘っていた。
「希少種のダーククラブ? 百年に一度でるかどうかよ?」
ラミィ、物知りだな。
「劣勢だな!加勢しよう!食べると旨そうだ!」
アリエル、本音がでてる!
食べるときは毒のあるカニもいるからね、気を付けないといけないんだぞ!
近づくにつれて大きさが際立つ。
ハサミなど軽自動車ぐらいの大きさだ。
それをエルフ目掛けて振り下ろす、凄まじい音と共に暴風が巻き起こる。
ギリギリかわしてはいるが、かなり押され気味な様だ。
「殻は魔法抵抗が強いわ、口か目を狙って!」
サイズが大きいので、目や口も大きい。
これなら狙うのも難しくはないだろう。
近づくこちらを敵と認識したのか、ハサミを横に凪ぎ払う。
当たったら軽く交通事故だな。
そう思っていたのだが、アリエルが岩の鎧でそのままぶつかる。
「動きは止めたぞ!」
ガチンコかよ!
直ぐ様チェーンソーを発動、飛び上がり右下斜めに切りつける。
片目を切り落とし、口が少し割れた。
その口の隙間にラミィが火の矢を打ち込む。
ダーククラブは堪らない。
内部から焼かれているのだ。
「はあっ! おおっ!」
その怯んでいる隙に、アリエルが回転しながらおもいっきり殴り、そして足を砕く。
おっさんも負けじと足を切りつける。
「か、硬い! だが、いっけぇーーー!」
そのままの勢いで片方の並びの四本の足を切り離す。
ラミィは関節の隙間に、風を付与した幾本の矢を、楔を打ち込むように放ち続ける。
それでもダーククラブは残りの足を上手く使い、回転しながら周りを吹き飛ばす。
口からは泡のブレスを其処らじゅうに撒き散らす。
徐々に戦闘は激しさを増していくのだった。
………………
…………………………
どのくらい経っただろうか。
ダーククラブはようやく動きを止める。
足を全て破壊しても戦意を失わず闘い続けたのだ。
かなりの強敵だった。
あんなのがよく出てきたら、簡単に世界が滅びそうだ。
一人のエルフが近づいて来る。
「感謝する、我らだけでは倒せなかっただろう」
握手を求められる。
「しかし、こんな辺鄙なところに何用が?」
そして、おっさん達は事情を説明するのであった。
時を少し巻き戻す。
現在、おっさん達が戦闘を終えた場所よりかなり南。
砂浜に三人の人影と一つのスーツケース?が打ち上げられていた。
三人はしっかりスーツケース?を握っている。
どうやら、これが浮力の役割を果たしたのだろう。
『三人とも心肺停止、直ちに蘇生活動に入ります』
スーツケース?から腕がニョキと生える。
ダニエウの心臓近くに手のひらを置く。
すると、体がビクンと大きく跳ね上がった。
『心臓の鼓動を確認、他の者に移ります』
腕はモブ達にも同じ様にショックを与えていく。
『全員蘇生完了、エネルギーを使い過ぎた為、再び休眠活動に入ります』
音声が切れると、腕は無くなり元のスーツケース?に戻った。
まるで何も起きなかったかのように。
「ゲホッ、ゲホッ! あれ? 生きてるぞ? おいっ! お前ら起きろ!」
最初に起きたダニエウは、順次、モブ達を起こしていく。
「あだだ! う、う〜んいてぇ……」
「えへへ、やめろよヴァニラちゃ〜ん………んあ、ゆ、夢か………」
モブBは肩を落とす。
せ、切ない!
しかし、見たところ大きな怪我もしていない。
他の持ち物は浜に落ちていた。
「へへっ! 俺達、やっぱり奇跡の星の元に生まれたみたいだな。そ、そうだ! 今行くぜ! 旦那待ってろよぉ〜〜!」
何故助かったかは深く考えないダニエウ達三人。
西の方角を見るとうっすらと大陸が見える。
東の大陸に着いたのは確実だろう。
だが修平が東の大陸のどこにいるかまでは、まったく考えていないダニエウ達なのであった。
「とりあえず、こっちに進もうぜ!」
適当な方向に歩く。
そんなんでいいのかお前ら!
そして暫くして、エルフ達に捕縛される。
「怪しい奴らだ、お前ら! 強盗の類いか!」
「きっと海賊た! 縛り首にしよう!」
「なんだこのカバンは? これで何をしようとしていた?」
「違う! 俺達は無実だ! だ、旦那〜〜〜助けて〜〜〜〜!」
砂浜にダニエウ達の叫びがこだまするのであった。
ダニエウ達が会ったエルフはカニと闘っていた人達です。
ようやく合流できそうです。