34話 西の集落へ
なんだろう、なにやら寒気がする。
砂漠で暑いはずなのに、おかしいな……
それは自身の後ろめたさからくるものか、それとも違う"何か"なのか。
おっさんには分からなかった。
だが、いつまでもこうしてはいられない。
情事で時間の道草をしてしまった。
先を急がないと。
相も変わらずあるのは、砂、砂、砂である。
魔物も定期的に襲ってはくるのだが、慣れたものだ。
アリエルとの連携もスムーズにいくようになった。
まぁ違う連携? 連結もしたからか。
やだ、いやらしい!
あれから我が息子も大人しい。
しばらくは大丈夫だろう。
なんなの、この暴走機関車みたいな物は。
昔よりサイズが大きくなっている気がする。
ふう、しょうがない……より女達が放っておかないぜ!
閑話休題。
一日遅れだが交易所のオアシスについた。
すると、前は無かった高い防壁が完成していた。
物々しい感じはしてしまうが、警戒は必要な事であり、仕方がないだろう。
どうやら、東で敵を退けたという話はこちらにも届いているようだ。
以前に待機していた場所に挨拶をしに行くと、そこには砦が出来あがっており、隊長らしき鬼から、ねぎらいの言葉をかけられた。
まぁ、アルナートカゲのお陰で大散財でしたけどね。
そうですね、自分が悪いんです。
そして、これから西の集落に向かうことも伝えておいた。
ホウレンソウは大事だからね。
しかし、あの時は直ぐに東に向かって良かった。
助言がなかったら絶対に間に合わなかっただろう。
まぁ、仕方ない。
神様には、嫌だけど一応感謝しておくか。
「アーメン、ぺっ!」
「こら! 修平、どこでもつばを吐くんじゃない!」
はい、すいません!
アリエルに叱られました。
既に尻に敷かれているおっさんなのであった。
オアシスを出て更に西へ。
「こっちには珍しい魔物が出るんだ、歩くサボテンなんだけど」
サ、サボ◯ンダーだと。
針を千本飛ばすのか?
想像しただけでエグい。
ここにはダニエウシールドという肉壁もない。
「針は飛ばさないぞ、そのまんま体当たりしてくるんだ」
それも嫌だな。
どちらにしても針千本が刺さりそうだ。
「あっ、あそこにいるぞ!」
おっ、あれか、うーん想像してたのとは違うな。
トレントのサボテン版という感じだな。
うちわ型の葉が連なっている。
体も大きい。
細くはなく、顔もない。
本物? はあの丸い黒目が可愛いのだが。
「ステーキにすると旨いんだぞ!」
食べるんかい!
元の世界でもサボテンステーキとかあった気がするが。
あれを食べるのか……
「足下を切り離すと大人しくなる、今日はご馳走だな!」
え、俺も食べるの? サボテンステーキの踊り食い。
勘弁して〜〜〜!
向こうもこちらに気づいた。
数は三体、わらわらと近づいてくる。
中々のホラー感、チビッ子が見たらチビりそうだ。
敵のスピードは速くないが、このまま接近を許し、ハグをされても困る。
最近、風魔法の威力も上がってきてる。
この距離ならいけるか!
「乱れ風ノコ!」
寸分違わずサボテンを地面から切り離す。
しばらくはビクン、ビクンと動いていたが大人しくなったようだ。
見た目はかなりシュールな絵面だが。
アリエルが鼻歌混じりにサボテンの皮を剥いでいく。
たまにビクンと動くのが怖い。
人は何かを犠牲にして生きていると痛感する。
やっぱり、た、食べなきゃダメですか?
アリエルは笑顔で焼いてくれました。
「上手に焼けました〜!」
どこのフレーズだよ!
まぁ、ちゃんと美味しく頂きましたけどね。
交易所のオアシスから2日が経っていた。
昼過ぎ、ようやく西の集落に到着である。
「着いたな、ここにはあたしの親戚がいるんだ。そこで泊まらせてもらおう!」
角の形は違うが、稀に違う部族同士でも結婚するようだ。
アリエルのおじいさんが"お盛ん"だったそうで、ここの集落にも親戚がいるらしい。
ある程度大きくなると、産まれた子供の角の形でそれぞれの部族に預けられるそうだ。
なんだろう? 遠くから呼ぶ声がする。
「アーリーエールー!」
砂煙を上げて何者かが近づいてくる。
巻き角の少女が急ブレーキをかけて止まる。
「ゴホッ、ゴホッ、何なの?」
「あー、こいつが親戚のラミィだ。歳はあたしより少し上」
アリエルより顔立ちは少し幼い感じがするのだが。
「こいつって何よ! 久しぶりなのに冷たいわね!」
デレている。
どうやらアリエル大好きっ子みたいだ。
ラミィはじろじろとアリエルを観察する。
「あれ? アリエル、なんだか雰囲気が変わった気が…………」
ビクッ!
おっさんが焦る。
しかし、アリエルは胸を張る。
「あたしも一人前の女になったからな!」
そ、そんな堂々と言わなくても……
ひぃっ! ラミィがこちらを睨んでいる。
違います!有罪だけど無実なんです!
「あんた、アリエルの何?」
ぐるぐると修平の周りを回る。
怖いです、ラミィの姉貴。
今にも視線で殺されそうです。
「修平はあたしの……愛する人だ」
アリエルは顔を真っ赤にして小声で呟く。
前までなら、"あたしの婿"とか言っていたのに、いったいどうしたんだ。
アリエルがデレた!
か、可愛いぞ。
なんだこのギャップ萌えは!
おっさん、キュンキュンである。
しかし、ラミィは面白くない。
ラミィもまだ経験がないのだ。
まさか、あのガサツなアリエルに先を越されるとは思ってもみなかった。
傷物にされた恨み、先に行かれた悔しさ。
複雑な心情が、ラミィの中で渦巻いている。
「とりあえず、あたし達は疲れているんだ。休ませてくれないか?」
どうやら、アリエルはラミィの嫉妬心に気づいていないようだ。
それとも大人の余裕というやつだろうか、おっさんにはまったく余裕は無いが。
「まぁ、いいわ。こっちよ」
ラミィはおっさんを一瞥するとすたすたと歩き出す。
アリエルはため息を吐き出す。
「修平もあまり気にするな、なんならラミィも抱いたらどうだ?」
さ、三●ですと、そんな夢のようなはな……
いかん、いかんぞ!
理性、理性、理性をもて!
俺はやりチンでは断じて無い!
愛に生きる男だ!
おっさんは自分を言い聞かせる。
体はかなり前屈みなのだが。
ラミィに案内され、アリエルとは別々の部屋になった。
やはりベッドはいい、すぐに睡魔が襲ってくる。
寝てる間にラミィに殺されないだろうか?
多少の心配はあったが疲れには勝てなかった。
寝息をたて始める。
どのくらい経ったのだろうか。
不意に目を覚ます。
何かが上に乗っかってきた?
目をゆっくりと開けると、見覚えのあるシルエットに安心する。
「どうした? アリエル」
どれくらい寝てたのだろう?
「修平、なんだか切ないんだ……」
そ、そんな潤んだ瞳でみられると……
ふと奥にも気配を感じ、そちらを見てみると。
最初は横角の一部が見えた。
そして徐々に顔がうっすらと現れる。
ひいっ!
ラミィさん!
陰から無茶苦茶こっちを見て、凄い形相で睨んでいる。
アリエルはラミィに気づいていないのか、話を続ける。
「ラミィを抱けばいいなんて言ったけど、その事を考えると胸がモヤモヤするんだ」
ウン、ソウダネ。
ソンナコトハシナイヨ!
「不安、なのかな、あたしらしくもない……」
ダイジョウブ、ダカラ、オチツイテ!
「あの晩みたいに、あたしを強く抱いてほしい……」
ラミィサン、キョ、キョウキハシマオウネ!
ボウリョクハンタイ、ハナセバワカル!
ア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
結局その夜は何も起きなかった。
しかし、かなり寿命が縮んだ気がした。
小心者のおっさんなのであった。
アンナジョウキョウデハ、サスガニ、タタナカッタンダヨネ……
眠いです。
基本、日曜日は新しい話は更新しないようにします。
申し訳ありません。