31話 死闘と過ち(?)と
脱け殻になってベンチに座っているおっさん。
そこにアリエルが戻ってくる。
「どうした修平?なんか白いぞ!」
ふっ、真っ白に燃え尽きちまったぜ…………
「まぁ、装備がよくなるならいいんじゃないか?ほら、"宵越しの金はもたぬ"だったか?」
なかなかに豪胆ですな。
まったく、どこでそんな言葉覚えたの?
今思えばアリアスも使ってたな、住めば都とか……
「昔、じいさんが使ってたな、じいさんも誰かから聞いたと言ってたけど」
おじいさんの関係者は異世界人かな?
「そんなことより、敵は待ってはくれないぞ!」
そうだな、気持ちを切り替えないと!
ご丁寧に説明書が置いてあった事だし。
装備確認、在庫処分。
武器はトゥーハンドソード、両手持ちか。
どんどんサイズが大きくなるな。
毎度お馴染み魔力発動媒体つき。
鞘は背中に脱着式。
しかし、魔力発動媒体つきの武器、持ってる人あまり見ないのだけど、ルミルはいったいどこから仕入れてくるのだろう?
盾は邪魔にならないように、腕にくっつけるタイプ。
そこまでサイズは大きくはないが、魔力を込めると一段外に広がるみたいだ。
変形ロボみたいでカッコいいな!
材質はアダマン製。
アダマンタートル、世界で一番硬い亀だそうだ。
膝宛、肘宛も同じ材質。
あとは腕輪、盾を持たない右手にはめる。
効果は腕力アップと特殊防壁。
シールドと叫ぶと、盾が展開する。
強度が心配だが、無いよりましだろう。
いったい全部で幾らしたのだろうか。
まさに歩く宝石箱やで〜!
ポイッ、ポイッ!
要らなくなった物をボックスに放り込む。
もってけドロボー! 金貨も200枚だ。
おお、ロングソードが何気に高い!
金貨80枚かよ!
残高12304650円
増えてなかったら……終わってたな。
いったい何に使っているのだろう。
あれから合計1600万も増えてるのだ、高級車にでも買い換えたのか?
そんな大金をおろせること事態、疑問を持ってほしいところだが。
とほほ……
残金、金貨217枚、銀貨78枚。
小銭はもういいか……
そこらにいた子供を手招きし、渡す。
「ありがとう、おじさん!」
赤い羽根募金箱はないから仕方ないよね。
さてと、街中で迎え撃つ訳にはいかない。
アリエルの話だとオアシスの北側に防衛ラインを構築するらしい。
しかし、話に聞いていた闇みたいなものを使われると……
チートアイテムとかかな?
2つ角の鬼は来てくれなかったが、横に角がはえている鬼(西の集落の鬼)は来てくれたみたいだ。
一つ角の集落からも十数人が助っ人に来ている。
「横角は遠距離が得意だな! 弓に魔法を付与してバンバン射つんだ!」
作戦としては、残っている巻き角鬼が高い壁を作り、下を一つ角鬼が守り、上から横角鬼が射ち下ろすというものだ。
単純だが効果的だ。
しかし、敵の数がわからないのが痛いな。
疲れも相まって、おっさんは"うとうと"しだす。
「敵はまだこないだろ、修平は少し休んだらいいぞ!」
そう言ってアリエルはブンブン棍棒を振り回す。
待っている間、鍛練するらしい。
元気だな。
「うん、お言葉に甘えるよ……」
瞬く間におっさんの意識は闇の中に消えていったのだった。
……………………
「やあ、久しぶりだね」
神様、貴様を殺したい!
「いきなり物騒だね、まあまあ、落ち着きなよ」
何の用だ? 魔王の居場所でも教えてくれるのか?
「教えてあげたいのは山々なんだけど、なんだろうね、今回はねぇ、よくわからないっていうか、隠されている感じなんだよね」
ちっ、使えねぇ!
「君、そんなキャラだった? まぁいいや、今回は助言だね」
教えるのはタブーじゃなかったのか?
「君の世界のことはね、この世界なら僕は多少の融通がきくのさ」
それで、何?
「そこにいても何も始まらない、東に急ぎなさい、さもなくば、あなたはとても後悔するでしょう」
なんで東?
「時間だね、ちょっとは神様っぽかったかな」
ちょっと待て!
「しゅ〜りょ〜〜〜」
だあぁぁぁーーー!
「おいっ!修平!」
はっ!
「どうした、いきなり叫びだして、怖い夢でも見たか?」
意味がわからないぞ、東に行け?
アリエル達の集落か?
でも直接はいけないのではなかったのか?
頭がぐらぐらする。
とりあえず、アリエルに話をする。
内容がちょっと頭がおかしい人みたいだが。
「抜け道とかはないのか?」
アリエルは少し考える。
「聞いたことはない、が今回の敵は普通じゃないからな」
そうだな、どうするべきか?
「修平に任せる!」
アリエルは信頼の笑みでおっさんを見ている。
まいったね、よし決めた!
「一応は神託? だからな。ここは任せて東に向かおう!」
アリエルはかいつまんで事情を話し、抜ける許可をもらいに行く。
行くのは二人だけなので、すんなりと許可はおりた。
「急ぐか! 何もなかったらすぐに戻ってくればいいしな!」
そうだな。
しかし、あのスピードで往復とか、もうね……
「マジで勘弁してほしいのだけど……」
ゲンナリするおっさんであった。
「おっふ!」
徐々にスピードに慣れてきているとはいえ。
「シンプルに揺れが凄い!」
歩きで2日程かかる距離を半日で行くのだ。
激しくない訳がない。
集落までもう少し!
「おい!煙が見えるぞ! なんだあれは?」
遠くからでも視認できる。
黒い大きな獣。
そのひと振りで鬼達が空に舞う。
下は砂だからまだ助かる見込みはあるが、なんという威力だ。
アリエルは暫し呆然としていた。
「アリアスとアリアムは?」
最悪の瞬間が頭をよぎったのだろう。
アリエルの目から涙が溢れ、膝から崩れ落ちる。
おっさんはアリエルの肩を掴み、抱き上げる。
「まだだ! まだ決まってない! ほらっ!行くぞ!」
力なく頷くアリエル。
だが、あんな化け物をどうしろというのだ。
「大きさならサンドワームも負けてなかっただろ! 何か手はあるはずだ!」
おっさんは自分を鼓舞する。
脳裏には笑うアリアムとアリエルの姿が浮かぶ。
「諦めたらそこで試合終了なんだよ!」
アルナートカゲも狼狽えている。が、手綱を操り黒い獣へと走らせる。
向こうも此方に気づいたのか、前足を上げて振り下ろす。
だが、こちらのスピードは桁違いだ。
ぶつかる瞬間、おっさん達はトカゲから飛び降りる。
ドガァ!
凄まじい衝撃だ。
アルナートカゲもひっくり返っている。
すると、獣がふらつき、ゆらゆらと消えていった。
「やったのか?」
あっ、フラグたてちゃダメ!
だがそこに立っていたのは二人組の人間であった。
「なんだ今の衝撃は?」
「ふぅ、長時間行使はまだ無理ね。吸ったエネルギーも殆ど使っちゃったわ」
二人は黒い衣装を着ている。
見た目はヒーロー物の悪役にしか見えないのだが。
「ま、ここで補充すればいいしな。で、おたくら何なの?」
こちらを見て男は舌舐めずりする。
視線の先はアリエルだ。
「はっ、中々いい女だな。一人ぐらい……いいよなぁ、嫌がる女も"そそる"しなぁぁ!」
正にゲスの極みだな!
「あんたはいつもそれね、仕事の後にしなさいよ」
女は呆れ顔だ。
あれ? あの女性をどこかで見たことが…………あっ!
「王都で勇者といた女!」
女はおっさんの方を睨む。
「は? なんで"覚えてる"の?」
なに言ってるの、あんなに強烈な勇者の横にいれば嫌でも忘れないよ!
「修平、知り合いか?」
違う、俺じゃない! 勇者違いだよ! ややこしいな!
「確か、サラっていったかな。極道勇者の横でコショコショして……そういえば、いつの間にかいなくなっていたな」
「へぇ〜、お前の"忘却"が効かないのか、なんでだ?」
「こっちが聞きたいわね。まぁいいわ、連れて帰って拷問でもしましょうか」
この女、サラリと恐ろしいことを言うものだ。
おっさんはMではない。
どちらかといえばソフトなSだ。
今は関係ないが。
「ドワーフの方に行ったやつ、名前なんだったか?」
「コリンよ、死んだみたい。私達は失敗は許されないわよ」
男は失笑する。
「笑わすな、あんな鎧の性能に任せっきりの雑魚と比べられてもな」
黒いバトルアクスを構え、アリエルの方へ突っ込んでくる。
「さぁ、遊ぼうぜ!せいぜい良い声で鳴いてくれよ!」
アリエルの方も既に臨戦体制をとっている。
着ているのは軽装だが、土を固め変形させて鎧に纏わす。
見た目は武士の甲冑の様だ。
棍棒にも前回同様に牙を作り上げる。
「この変態が! あたしはもう予約済みなんだよ!」
よ、予約した覚えはないが、今は突っ込まないでおこう。
「変態かいいね! 俺の名はアムトだ! ちゃんと調教してやるから覚悟しな!」
二人は激突する。
「さて、こちらも始めましょうか。大丈夫、首さえ繋がっていればそう簡単に人は死なないわ」
サラは微笑を浮かべ、どこから出したのだろうか、手に持った黒い鞭をしならせる。
どうやら相手はドSのようだ。
女王様か!
「生憎だが、俺はそんな趣味はないもんでね。ご遠慮しときます!」
全力で拒否る。
痛いのは嫌なんだよ!
アリエルとアムトの力は互角か、打ち合う度に火花が散る。
どちらもパワーファイター故に隙を見せれば一発で勝敗が決まりそうな重い一撃だ。轟音、激音。
アリエルの方が武器の性能は悪い、だが、欠けても直ぐに修復する。
一進一退、アリエルは額に汗が流れる。
アムトも今までの敵と同じように簡単に終わると思っていた。
だが自己強化に特化しているスタイル、そして女とは思えない腕力。徐々に焦りが見える。
「中々やるねぇ、ならこれはどうだ?」
バトルアクスの中心にある黒い宝石が鈍く光る。
「おらっ!」
アムトはアリエルに向かって地面にバトルアクスを叩きつける。
地面は一瞬で凍りつき、破片が飛んでいく。
「グッ!」
咄嗟に防御をしたが、全ては防げない。
致命傷は一つもないが、体には多くの傷を負ってしまう。
「はっ、喰らっちまったな!」
アムトは嗤う。
「お前、終わりだよ! ダークバインド!」
アリエルの傷口から黒い霧がでてくる。
いや、正確には傷口についた黒い氷の破片からでている。
霧はアリエルを拘束しようとするが、
「なんだこんなもの! ふんっ!」
アリエルは霧を弾き飛ばす。
その光景を見てアムトは唖然とする。
「は? どういうことだ?」
アリエルのお尻の紋様がうっすらと光っている。
「知るか!」
隙をみせたアムトにアリエルの強烈な一撃が振るわれる。
決まった、と思われたがバトルアクスからでた濃い闇が受け止める。
「危ね〜、油断したぜ」
アムトは距離をとると、再び氷の破片でアリエルを攻撃する。
「卑怯者!近くに来て闘え!」
容赦なく降り注ぐ破片はアリエルの体力を削る。
「お前、馬鹿だろ! 勝てばいいんだよ! 大丈夫、ちゃんと治してから可愛がってやるからなぁ!」
アリエルは遂に膝をつく。
「くそっ!」
足元の砂は赤黒く染まり、出血の多さを物語っている。
「決まりだな!」
最後の一撃とばかりに特大の破片をアリエル目掛けて放つ。
しかし、何処からともなく、声が聞こえる。
「アースウォール!」
突如現れた土の壁に破片は全て塞がれる。
バサッ!
「エアハンマー!」
「がはっ!」
不意を突いた魔法による攻撃はアムトを吹き飛ばす。
アリエルは声のする方を見た。
するとそこには、傷ついてはいるが無事な妹達の姿があった。
「アリアス、アリアム!」
二人は砂に擬態し近づき、隙をうかがっていたのだ。
アリエルの元に駆けてくる。
「姉さん!」
「アリエルお姉ちゃん!」
3人は抱き合う。
「二人とも無事で良かった!」
アリエルの頬を涙が溢れる。
「ごめんなさい、姉さん。邪魔になってしまうかと思って……出るに出れなかったの」
「アリエルお姉ちゃん、痛いの?」
アリエルはアリアムの頭を撫でる。
「いてぇ! 糞が! てめえの姉妹かよ!」
アムトは立ち上がる。
苛立ちを隠せない様子だ。
だが、アリアスとアリアムを見て舌舐めずりする。
「いいこと思い付いたぁ、動けないてめえの前でこいつらを犯してやる、その後でてめえも死ぬほど犯してやるよ!」
ブチンッ!
小さい頃に両親を亡くしたアリエルにとって、大事な二人を侮辱されることは自分の命が失うよりも赦しがたい。
それ故に怒りが押さえきれない。
「偉大なる角!」
アリエルの角を中心に巨大な岩の角が構築される。
それは黒く光り、長く大きく、そして鋭い。
「があぁぁぁぁっ!」
猪突猛進!
無我夢中!
ただただ真っ直ぐ、凄まじいスピードでアムト目掛けて突き進む。
「おらぁっ!」
対するアムトもバトルアクスから闇を生み出し受け止める。
ガガガガガガガッ!
「ああああああああぁ!」
「おおおおおおおおっ!」
せめぎ合い。
互いに一歩も譲らない。
だが、ふいに力の均衡が崩れる。
突如、アムトの闇が消失した。
「マジかよ、ガス欠……………………ゴフッ!クソッタレが……」
アリエルの一撃がアムトの胸部に突き刺さる。
そのまま三十メートル程突き進み、動きが止まった。
角はアムトの体を突き抜けている。
両者ともピクリとも動かない。
「姉さんっ!」
アリアス達が駆け寄る。
「アリエルお姉ちゃん、死んじゃったの?」
アリアムは涙目だ。
「大丈夫、気を失っているだけよ、力を使いきったのね」
安心させるようにアリアムに語りかける。
「お疲れ様、姉さん……あっ、修平さんは?」
アリアスはアリアムにアリエルを任せて修平を探す。
「あっ、いた!」
その光景を見て呆然とする。
「いったいなにがあったの!?」
アリエルとアムトが闘い始める頃、修平とサラも戦闘が始まっていた。
サラは黒い鞭を自在に操り、修平に向けて攻撃を繰り出す。
「面倒臭いのは嫌いなの、とっとと倒れてくれない?」
そうは言いながらも、修平の動きには目を見張るものがある。
身なりから見て冒険者なのだろうが、着けている装備が普通じゃない。
見たこともない盾を上手く使い、突如現れる不可視の盾で死角からの攻撃も防ぐ、なんという堅実な守りか。
まったく派手さはない。
派手さはないのだが地味に硬い。
サラは元々"忘却"を使った死角からの攻撃で仕留めるスタイルだ。
今までは暗殺系の仕事が主であり、真っ正面から打ち合うのは得意ではない。
だがこの男はそれが通用しない。
確実にこちらを認識し、見据えている。
「イライラするわね、なんで効かないの?」
だが、攻撃の手は緩めることはない。
一方おっさんはというと……
「だあああぁ! シールド! シールド! まったく余裕がない!」
防戦一方、攻撃する隙がない。
近寄らせてもらえない上に、距離があるから風魔法では威力が足りない。
土魔法は、1人ではまともに繰り出せない。
水魔法は……あっ!
近くにオアシスがあるなら地下水脈があるかも。
「下から引っ張ってくるイメージで……」
徐々にサラの周辺が湿り出す。
「もっと、もっとだ!」
サラも異変に気がついたのだろうが……時既に遅かった。
「泥沼!」
サラを中心に、半径五十メートルほどの作り出された泥沼が、流砂の様にサラを引きずり込もうとする。
「ちょっ? なんなの、あんたはなんなのよ!」
そうです、私が変なおじさんです。
ふざけている場合じゃなくて。
「これならいけるか?」
拘束するため、泥を操りサラの足を固めようとするのだが。
サラも軽い身のこなしで泥を回避する。
「汚れるでしょうが!」
むぅ、しょうがないな。
ならばこれはどうだ!
「竹林!」
泥が凄まじい勢いで上空に吹き上がる。
しかも、一本ではなく泥沼の全範囲で。
「キャアアァァァ!」
サラは見事に打ち上げられた。
しかし、上空で黒い鳥に捕まる。
あれは?
「サラ、作戦中止。直ぐに戻れ」
鳥は淡々と喋ると掴んだまま、飛んでいく。
「顔は覚えたわ!次会った時に必ず殺すから!」
えぇーー!
そんな物騒な!
逃がしたくないけど……もう無理だな。
鳥は既に豆粒くらいのサイズまで遠ざかっている。
「ふぅ、あっ、そう、だアリエル、は無事か? あ、あれ?」
急に体から力が抜ける。
薄れ行く意識の中でアリアスが近寄ってくる。
「修平さん! オアシスがなくなってます!」
えぇーー!
ということは魔力枯渇か、やりすぎた……
「アリ、エルは?」
「大丈夫です、無事です!」
おっさんは安堵し、意識を手放した。
「それよりいったいなにが……あっ修平さん、修平さーん!」
チュンチュン……
おっさんは目覚める。
「あれ?どうなったか……」
ムニュ♪
ん、なんだか柔らかいものが。
横を見ると裸のアリエルがいた。
サァーーー
血の気のひく音が聞こえる。
あ、朝チュンだと……
「んー、いてて! お、おはよう修平……」
なに? なにがあったの?
「昨日は(戦闘が)激しかったな!」
え、なにが……お、覚えてないぞ。
「なんだか恥ずかしいな(裸をみられて)」……」
そんな、顔を赤らめて言われても!
「あたしも初めてだからな(意識がなくなるまで戦ったのは)!」
そ、そんな! ま、まさか!
「(勝てて)良かった!」
のおぉぉぉ〜〜〜〜!
アウトーーー!
精神が真っ白に燃え尽きた。
なのに、なぜか下はビンビンのおっさんなのであった。
も、もしも、できていたら、に、認知しないとね……ガクッ!
その後に、オアシスの事でアリアスに無茶苦茶に怒られましたとさ。
うーん、戦闘描写が難しい…………